〜魅惑の夜市〜クイーンズ・ ナイト・マーケット

ニューヨークの夏ではさまざまなストリートフェスが楽しめるが、現在開催中のクイーンズ・ナイト・マーケットが見逃せない。今号では、世界各地のB級グルメが楽しめる同イベントの魅力を網羅する。(取材・文/中村英雄、中沢絵里奈)


移民たちのローカルフードが集結

クイーンズ・ナイト・マーケットって?

夏のニューヨークの風物詩となりつつあるクイーンズ・ナイト・マーケット(以下QNM)が10月までの毎週土曜夜、クイーンズ区コロナにあるニューヨーク科学館(NYSCI)の駐車場で開催されている。

総計80以上の世界各国の料理と物販のテントには、5時の開門とともにどっと客が押し寄せ、深夜0時の閉門まで人の波が途切れない。1日の平均入場者数は2万人超えともなる。

マーケットには多種多様な人種が訪れる

「なんといっても料金が安いのが人気の理由です。料理一品の値段上限を6ドルに決めています。市内のストリートフェアや高級グルメフェアなどに比べると破格に手頃なんです」と話すのは、QNMの生みの親で監督総指揮を執るジョン・ワンさんだ。

創設者兼ディレクターのジョン・ワンさん

「僕はテキサスに生まれましたが、両親は台湾からの移民です。子供の頃、夏休みの一時帰国で連れて行ってもらった台湾夜市の興奮が忘れられなく、いつかニューヨークで再現したいと思っていました」。

ワンさんがQNMを企画したのは今から8年前にさかのぼる。名門イェール大学の法科大学院を卒業後MBAも取得し、一流弁護士事務所で法律家としてのエリート人生に出帆するも、ある朝離職を決意。長年の夢だった夜市実現にまい進した。「当時、北米には3カ所しか夜市がなく、成功するかは全くの未知でした。クラウドファウンディングも思うように集まらず、資金集めに苦戦しました」とワンさん。丸一年、街中を奔走し、ようやく格安で借りられる現在の会場を見つけると市当局から夜間営業や酒類販売の許可を取得。念願かなって2015年に初開催を実現すると、近隣のクイーンズ住民を中心に大勢の関心を引き、たちまちニューヨークタイムズをはじめとする大手メディアにも取り上げられ、注目を浴びた。

同イベントが人気の理由には、料理の珍しさもある。アジア料理以外にもイランやアフガニスタンの庶民料理やエスニック料理、ヨーロッパの知られざるデザートなど、レストランでもフードトラックでもお目にかからない希少な食がずらり。合計60の飲食ブースが出店し、一晩でいながらにして食の世界旅行が楽しめるところがこのナイトマーケットの魅力だ。

作り手も飲食専門家だけでなく、専業主婦、学生、他に仕事を持つ人、ワケありの人などさまざまいる。食事もさることながら作り手たちの人生や文化背景に触れることで、よりディープにイベントを楽しむことができるだろう。

野外イベントのためウイルス感染の心配も少ない。飲食ベンダーの他にも物販ブースやライブ演奏が楽しめるステージもあり、暑さが続くこの季節、家族や友人と訪れてみれば想像以上に楽しめるに違いない。

入口が少々わかりづらいが、7番線の111 St駅から南下し科学館の駐車場が見えたら左の小道を入ると会場がある

Queens Night Market
● 開催期間
10月29日までの毎週土曜
● 営業時間
午後5時〜深夜12時
New York Hall Of Science
(47-01 111th St., Queens, NY 11368)
queensnightmarket.com

世界のフードベンダー大集合!

延べ世界90カ国・地域以上のフードベンダーが参加するクイーンズ・ナイト・マーケット。ここでは弊紙ライターが厳選する人気ブース12店を紹介する。

※ベンダー名横の数字は5面のMAPを参照


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ジャマイカ**
Treat Yourself Jerk Chicken

ジャークチキン

ジャマイカを代表する料理のジャークチキンは、スパイシーにマリネした骨付きモモ肉のバーベキューだ。アルベルトさんが経営するこの屋台では、毎週巨大な自家製グリルで燻した本格的なジャークチキンを提供する。スモーク時には木炭にピメントウッド(オールスパイスの原木)を加えてジャマイカらしい風味を出している。ジューシーなチキンは一度食べたらやみつきになること間違いなし。


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イラン**
Joon

パリパリご飯のシチューがけ

イランの首都、テヘラン出身のアミールさんとフロリダ出身の妻ジェシカさん夫婦が提供するのは、本格的なペルシャ(現イラン)風料理。ナッツやフルーツを使って丁寧に煮込んだシチューを、ヨーグルトを塗った表面をオーブンで軽く焼いたサフランライスにかけていただく。スパイシーだけど辛すぎず、深みがあって家庭的な味わい。シチューはチキン(2種)、ビーフ、ベジタリアンの4チョイスある。


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フィリピン**
Kanin NYC

ルンピア

「ルンピア」と呼ばれるフィリピン定番の春巻きは、豚肉、ニンジン、ネギ、卵などを使用したタネを春巻きの皮で細長く包み、油で揚げたもの。皮がパリパリ、中はジューシーで、添えられたスイートチリソースにつければパクパクと食べれてしまう。他にもビーフンの上に特製ソースをかけたパラボック、スイーツのハロハロなども人気。常に行列が絶えないベンダーなので早めに並んでゲットするのがおすすめ。


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エチオピア**
Emeye Ethiopian Cuisine

インジェラ

日本人の主食が米飯なら エチオピア人にとっての主食は「インジェラ」だ。原料はエチオピア原産のイネ科の穀物テフの粉。この粉にイーストを加えて3〜4日寝かせたら、発酵が進んだタイミングで薄力粉と水を加えて、さらに半日寝かせ練り上げ、薄くのばして焼く。口当たりはふんわり柔らかくやや酸味を帯びている。肉か野菜(写真)のシチューにつけて手で食べるのが習わし。


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韓国**
Gi Hin Mama Food

ラム、ビーフ、イカの串焼き

韓国の市場でよく見掛けるラムやイカなどの串焼きを、本場と同じく炭火で焼いて食べさせてくれる。チキンやビーフは1本2ドルと超お手頃プライスなのがうれしい。時には行列が50メートルにも及ぶことも。テントの下では2台のグリルをフル稼働し、5人掛かりで休む暇なく焼き続けているとか。焼きたてに振り掛ける秘伝のクミンスパイスが、おいしさの秘訣だそう。


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インド**
Sholay

タンドリーチキンBBQ

タンドリーチキン、ラムチョップ、シュリンプのインディアンBBQを楽しめるのが、「Sholay」だ。インドの定番料理の一つで、鶏肉などをヨーグルトやブレンドした香辛料などに漬け込み、串刺しにしてバーベキューグリルで焼く。スパイシーな味付けは暑い夏に衰えがちな食欲を刺激してくれる。ナンに似た、全粒粉を使用した無発酵のパンであるロティーをお供に。写真のシュリンプBBQは6ドル。


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インドネシア**
Moon Man

ココナッツパンケーキ

まるでお月様のようなまん丸のインドネシア風パンケーキを提供する「ムーンマン」は、このQNMで2017年にデビューし、人気に火が付いた。ガスバーナーで表面のカラメルを焼き付けており、その食感はクレームブリュレのようにふわふわで甘く温かい。オリジナルに加え、ココナッツ、チョコレート、ピーナッツ、セサミ、パームシュガーの6フレーバーから選べる。1枚5ドルで、3枚では12ドル。


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ミャンマー**
Burmese Bites

パラタ(ビルマ風クレープ)

単身でニューヨークに渡ったというミャンマー人のミョンさんが同ブースで実演販売しているのが、父親から教わったビルマの国民的スナック「パラタ」だ。小麦粉を練った薄皮に肉の具材を包んで焼くだけのシンプルな料理だが、折り畳んだ薄皮が得も言われぬパリパリ感を生み出している。ニューヨークタイムズの「B級フード」コンテストでも堂々優勝しており、その味は折り紙付き。

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アフガニスタン**
Nansense

アフガン風バーガー

アフガニスタンはカイバル峠あたりの郷土料理、チャプリケバブをアレンジしたバーガーは、ナイトマーケット屈指の人気メニューだ。毎回長い行列ができ、3時間ほどで売り切れる。クミン、コリアンダーなど10種類以上のスパイスとトマト、オニオンを挽肉に練り込んだパティーには、和風ハンバーグ同様の手間がかかっている。肉汁たっぷりの上、味わいはエキゾチック。チーズも加えてアメリカンバーガー風にしている。


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ウクライナ**
Blintze Box

ブリンツ

毎年ナイトマーケットに参加しているウクライナのブース「Blintze Box 」が提供するのは、「ブリンツ」と呼ばれるウクライナ式クレープ。たっぷりのバターで炒めたマッシュルームとオニオンをさらにクリームとチーズで調理した濃厚な一品だ。ウクライナとウズベキスタン出身のオーナー夫妻だが、「このブリンツは旧ソ連圏全般で人気の庶民料理。国籍や政治を超えた胃袋の絆があるんです」と教えてくれた。


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ルーマニア**
TwisterCake

ツイスターケーキ

ルーマニアの中でもハンガリー系の人口が多い地域の郷土料理であるツイスターケーキ。小麦粉とバターと砂糖のタネを石板の上で丹念にのしたら細切りにして、専用の「軸」にらせん状に巻き付け、オーブンで焼く。香ばしい焼きたてはそのままでもいけるが、中にアイスクリームを詰めてもらうとさらに美味。多民族と言われるニューヨークでもあまり見掛けない珍しい料理だろう。


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ポルトガル**
Joey Bats Cafe

パステル・デ・ナタ

19世紀の初頭にリスボンで発祥したポルトガルのお菓子。現地ではエスプレッソのお供に朝食時に食べるスイーツだ。卵黄たっぷりでバニラ風味が香るカスタードをクロワッサンのような生地で包んで焼き上げたシンプルなお菓子で、濃厚な味の多いナイトマーケットの中では、比較的軽めのテイストといえる。他のテントで販売しているコーヒーとペアリングするのもおすすめ。

※出店ベンダーや場所は週ごとに入れ替わる


ライブ演奏も要チェック

QNMのもう一つの魅力は、特設ステージで繰り広げられる野外ライブ演奏だ。週替わりで午後6時30分ごろから始まり11時近くまで、計3グループがバラエティー豊かなサウンドを生で聴かせてくれる。

出演者はいずれも地元ニューヨーク出身の実力派ぞろいで、ロングアイランドのクラシック・ロック・バンド「アンディー&ビーチブリーズ」や、総勢20人以上の女性が一体となって怒とうのリズムを打ち出すサンバドラム集団「フォゴアズール」、ボーカル、ギター、パーカッションのトリオ「ザ・ワーナーズ」などが登場。B級グルメで腹を満たしながら、満点の星空の下で無料の演奏を聴けるのもまたQMNならではだ。


気になるフードはレシピ本で

The World Eats Here

Photo by The Experiment

QNMの出店ベンダーが提供するフードのレシピをまとめた本が「The World Eats Here(世界の食が一堂に)」(The Experiment社、2020年刊)だ。自宅でもトライできるレシピの紹介はもちろん、出店者らの人生背景も細かく取材されており、食を通じて21世紀のニューヨーク移民社会の実情をのぞくことができる一冊。
theexperimentpublishing.com

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