老舗映画館「小倉昭和館」の思い出を振り返る 旦過地区の火災で焼失【北九州市小倉北区】

8月10日夜に北九州市小倉北区旦過地区で発生した火災により、1939年(昭和14)創業の老舗映画館「小倉昭和館」も焼失してしまいました。

シネコンを除けば北九州市内唯一の映画館である「小倉昭和館」。家族3代にわたり守り続けてきた個人経営の映画館で、本来であれば今月8月20日に創業83年を迎える予定でした。

1号館・2号館の2館を備え、幅広いジャンルの2本立て上映や、監督・俳優らを招いたトークショーなど独創性のあるイベントの開催などで根強い人気を誇っていた同館。北九州ノコトでもトークイベントなどについて紹介してきました。

今回は北九州ノコトで紹介した記事を振り返りながら、小倉昭和館について改めて紹介します。

2017年1月から続く、監督・俳優らを招いたトークイベント「シネマカフェ」

「シネマカフェ」は、2017年1月にスタートし、定期的に開催されてきた小倉昭和館の人気企画。俳優や監督らをゲストに招き、その時上映されている2本立ての作品について語ってもらうトークイベントです。

『カフェ』とイベント名につくだけあって、登壇するゲストや映画作品にちなんだお茶菓子と一緒に、同館オリジナルのコーヒー「昭和館ブレンド」などを楽しみながら、トークに耳を傾けるアットホームなイベントでした。

北九州市八幡西区出身の俳優・光石研さん

2020年12月12日に開催された「第31回シネマカフェ」には、北九州市八幡西区出身の俳優、光石研さんが登壇。

同年8月20日に小倉昭和館に登場したペアシート「光石研シート」設置後、光石さんが小倉昭和館を訪れるのは、この日が初。実際に自身の名前がつけられたシートに座ってみた光石さんに、会場から「お帰りなさい」と大きな拍手が送られました。

小倉昭和館を応援したいと、光石さんは2019年度に受賞した北九州市民文化賞の副賞30万円を同館に寄付。

「昭和館への応援の気持ちとして、光石さんからいただいた寄付と市民の皆さんからの寄付を、何か形に残るものにできないか」と考えた3代目館主の樋口智巳さんが思いついたのが、ペアシート「光石研シート」の設置でした。

映画「彼女は夢で踊る」監督・時川英之さんと出演の矢沢ようこさん

2021年3月20日に行われた「第32回ほろ酔いシネマカフェ」のゲストは、映画「彼女は夢で踊る」の監督・時川英之さんと出演の矢沢ようこさん。

小倉駅そばにある九州最後のストリップ劇場「A級小倉劇場」が閉館予定(その後、営業継続決定)だという新聞記事を読んだ小倉昭和館の樋口智巳館主が、A級小倉劇場を訪れ、「A級小倉劇場に矢沢ようこさんを呼んでもらえないか」とお願いしたことを機に、実現した企画でした。

この日は珍しくアルコールが提供される『ほろ酔い』シネマカフェで、お酒を片手に映画の裏話などを楽しみました。

関連イベントとして、3月21日には小倉昭和館1号館に集合してから「A級小倉劇場」まで移動し、ショーを鑑賞する女性限定「“A級小倉”ツアー」が開催されました。

舞台挨拶やトークショーなどで地元にゆかりのある俳優も登壇

もちろん「シネマカフェ」以外でも、いろいろな監督・俳優が小倉昭和館を訪れ、舞台挨拶やトークショーを行ってきました。

「瞽女 GOZE」監督・瀧澤正治さんと北九州出身の俳優・吉本実憂さん

「瞽女 GOZE」上映初日の2021年1月9日に同館を訪れたのは、監督・瀧澤正治さんと北九州市出身で同作品の主演を務める女優・吉本実憂さん。この時は、「映画を見てもらった後に、いろいろな話を聞いてもらいたい」という小倉昭和館とゲストの思いから、最初に舞台挨拶が行われ、「瞽女 GOZE」上映後に改めてトークショーが行われました。

また、舞台挨拶には北橋健治市長も出席しました。

「今回大好きな地元の北九州で、皆さんに見ていただけたことが嬉しい。北九州に帰ってきて、皆さんのお顔を見て、改めて自分も一生懸命つらいことがあっても立ち向かって好きなことを頑張っていこうという気持ちになりました」と、笑顔で語ってくれた吉本さん。

小学校の時から学校でやっていて、高校では部活でもやっていた「小倉祇園太鼓」が特技だという地元出身だからこそのエピソードも飛び出しました。

俳優・栗原小巻さん

「戦争の悲惨さや平和の尊さを映画を通じて伝えたい」という想いで、毎年8月になると「戦後特集上映」を行ってきた「小倉昭和館」。2021年8月28日には、当時「名作から平和への想いを繋ぐ 2本立て」で上映されていた「サンダカン八番娼館 望郷」に出演した俳優・栗原小巻さんが登壇し、上映前に舞台挨拶を行いました。

舞台挨拶の最後には「時や空間を超越する『映画』の世界。これからも昭和館を愛し、映画を見続けてください」と観客へメッセージを送りました。

また、父である劇作家・演出の栗原一登さんが北九州市で育ち、小倉師範学校で教鞭を執っていたり、市内の数々の学校で校歌の作詞を手掛けたりと、北九州市にゆかりのある栗原さん。彼女自身の本籍地もいまだに北九州市になっており、自分にとっても“ふるさと”だと話してくれました。

三浦春馬さんファン有志との交流も話題に

また、2021年7月には三浦春馬さんの一周忌に合わせ、「三浦春馬主演作2本立て」のテーマで2作品を上映。

「2月に北九州出身の青山真治監督作品2本立てを行った際、三浦春馬さん出演の『東京公園』を上映しました。その時、三浦さんのファンの方たちから『三浦さん出演の作品をまた上映してほしい』というリクエストを多くいただき、今回三浦さんの特集上映を企画しました」(館主・樋口さん)というものでした。

ロビーには、ファンの人たちから寄せられたお花やメッセージ、イラストなどが展示されていましたが、これは小倉昭和館が行っているものではなく、春馬さんのファン有志3人が館内の一部を借りて運営している、ということでした。

春馬さんのファン有志3人と小倉昭和館の心の交流についても「『3人の女性』と『小倉昭和館』との交流で教えられたこと」という記事で紹介しました。

画家・黒田征太郎さんが1号館ロビーの壁に描いた『映画』

今年の7月5日には、北九州市在住で世界的に活躍する画家・イラストーターの黒田征太郎さんが、小倉昭和館の1号館ロビーの壁に、「映画」をテーマにした絵を描きました。「昭和館に絵を描いてもらいたい」という館主・樋口さんのかねてからの願いがようやく実現したものでした。

1号館のドアが3枚連なる部分、事務室とトイレにそれぞれつながる3枚のドアを中心に、クレヨンと絵の具を使い、黒田さんが表現した「映画」の数々。制作当日は描き始めてから1時間ほどで完成したそうですが、「黒田さんが真っ先に描いたのは中央部分の『へのへのえいが』からだったのよ」と嬉しそうに教えてくれた館主の笑顔が忘れられません。

もっとたくさんの人たちにも見てもらいたかった黒田さんの作品も今回の火災ですべて燃えてしまいました。今となっては写真でしか見ることができないのが、とても残念です。

予定されていた上映・イベントは中止、今後に関しては未定

北九州市民はもちろん、小倉昭和館の魅力にひかれ、市外・県外から足を運ぶファンも多かった同館。予定されていた上映・イベントは中止、今後に関しては未定とのことです。

「購入済みパスポートやチケットの補填に関しましては、状況が落ち着き次第、対応させて頂きたいと思います。⁡また頂いております、ご心配のメッセージ等、誠にありがとうございます。⁡返信が出来ずに大変申し訳ございません。まだ先が何も見えぬ状況でございますが、またご報告させて頂きたいと思っております」と同館インスタグラムでコメントが発表されていました。⁡

今後の動きについて分かり次第、北九州ノコトでも情報をお届けします。

※2022年8月12日現在の情報です

(北九州ノコト編集部)

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