勝負を分けた450kmレースの給油戦略。開花したKeePer宮田&フェネストラズの最年少コンビが後半戦の台風の目に【第4戦GT500決勝】

 富士スピードウェイでのスーパーGT第4戦で見事GT500クラス初優勝を遂げたKeePer TOM’S GR Supraの宮田莉朋とサッシャ・フェネストラズ。最後のピットタイミングでの逆転劇、そしてレース終盤は2番手以下を引き離す力強い走りを見せたが、決して楽なレースではなかったと、GT500最年少コンビはレースを振り返る。富士で初めて走りきった450kmレースは、予想以上に戦略の幅が広く、各チームの数秒の給油時間の違いが大きな差となった。

 予選ではヨコハマタイヤを履くWedSport ADVAN GR Supraと、リアライズコーポレーション ADVAN Zがフロントロウを独占。37号車は3番グリッドからのスタートとなった。スタートスティントはフェネストラズが担当し、決勝直前に雨が降った影響で、ウエットパッチが残る中でのレーススタートとなり、滑りやすい状況のなか、前のマシンを追いかけていくレース運びが求められた。

「雨が降った後にレーススタートとなったから、決して楽ではなかった。コース上にはウエットパッチも残っていて、特にセクター1が濡れていた。とにかくリスクを犯さないように、ミスをしないように走っていた」とフェネストラズ。

「19号車はリスクが少ないところで抜くことができたけど、24号車はすごく速かったし、ちょうど最初のGT300の集団が現れた時でタイミングが合わなくて、ギャップを広げられてしまった。楽な展開じゃなかったけど、2番手でリトモに交代できて、その後は彼が素晴らしいレースをしてくれたよ」と続ける。

 第2・3スティントを務めた宮田がトップを追うという重要任務を背負うことになったが、その宮田にとっても我慢の展開が続いた。

「今回、少なからず分かれ道となったのは第2スティントでの給油をフルタンクにするのか、スティントの周回分だけ給油をして、第3スティントでフルタンクにするか……。そのどちらかでした」という宮田。トップを走る24号車が最初の給油時間を比較的短くしたのに対し、37号車は1回目のピットストップで満タンまで給油。その分、最後のピットストップでの給油時間を減らす作戦だった。

 さらに、宮田はこう続ける。

「第2スティントでのピットストップをみると、24号車は給油が短かったという情報がありました。12号車(カルソニック IMPUL Z)の給油の詳細は分からなかったですけど、差が詰められたということは、12号車も給油が短かったのかなと思います」

「(第2スティントは)路気温が下がっていたので、タイヤ選択を含めて僕たちは厳しかったです。ペースを見ると24号車に対しては速いけど、12号車の方がもうちょっとペースが速い状態で、ただ抜かれるほどではなかったです。その中で、僕もできる限り燃費走行をしていました」

「第3スティントのピットで逆転できなかったら、(コース上では)抜けないと思っていたので、そのピットストップの時間をできるだけ短くして、先にコース上を走るという作戦にしていました。そこはチームのミーティングでも話していましたし、それを常にシミュレーションしていたので、それが第3スティントであれだけの差を作れた結果だったのかなと思います」

 その宮田と37号車トムス陣営の目論見通り、モニター上のピットストップ制止時間は24号車が36.3秒だったのに対し、37号車は28.7秒。24号車はタイヤ交換作業でも若干のロスがあり、このピットタイミングが大きな勝負の別れ目となった。

 2回目のピットストップで見事逆転に成功してトップに立った宮田だったが、最終スティントではカルソニック IMPUL Zが後方に接近し、一瞬も気が抜けない周回が続いた。さらに宮田が過去に経験してきた“良くない結末”も頭によぎり、その重圧に押しつぶされそうになっていた。

「残り5周は泣きそうでした。本当にキツいレースでしたし、第3スティントの最初は12号車が速くて、正直(サインボードの)ラップのカウントダウンを消してほしいと思うくらい(ゴールまで)長く感じました」

「僕は、今までの過去のレースでも、勝てるレースでメカニカルトラブルが起きてしまったり、いろいろな経験をしてきました。だから今回は『とにかくトラブルが起きないでくれ!』と願いながら走っていました。その中でもペースは良かったですし、最後に差をつけて勝つことができて、本当に良かったです。サッシャも最初のスティントに素晴らしい仕事をしてくれました。みんなが勝つために努力したことが、結果として現れて良かったなと思います」と初勝利を喜ぶ宮田。

GT500最年少コンビ、同じ1999年生まれの宮田莉朋とサッシャ・フェネストラズ

 一方のフェネストラズも、ファイナルラップはモニターを見ることができず、サインガードの隅で祈るように37号車が帰ってくるのを待っていた。実はフェネストラズは7月に行われたスーパーフォーミュラで大クラッシュを喫してしまい、今も背中に痛みを感じていたという。

「僕にとってGT500クラスは3シーズン目になるけど、昨年はコロナの影響で入国できなくて、ほとんど走ることができなかったけど、やっと戻ってくることができて良かったし、今年リトモと一緒に組むことが決まって、すごく楽しみなシーズンになるなと思っていた。スーパーGTの中では一番若いコンビになるからね。昨年はほとんどレースをすることができなかったから、本当に辛いシーズンだったけど、リトモとふたりでGT500初優勝を飾ることができて、すごく興奮している」とフェネストラズ。

「僕自身、これまでGT500では優勝に限りなく近づいたレースもあった。2020年には2位や3位と表彰台をなんども経験したけど、その時は勝てなかった。だけど、やっとここにくることができたし、今はチャンピオンシップをリードしている。次はどういうレースになるか分からないけど、この勢いを保ちたいと思っている」

 37号車にとっても、今回の勝利は平川亮/ニック・キャシディのコンビで参戦していた2020年の開幕戦以来の優勝となった。今シーズンは5月の第2戦で勝利目前のところでペナルティを受けてしまう悔しいレースも経験したが、山田淳監督は「5月のリベンジというか、それもあるんですけど、何しろ37号車としては優勝が久しぶり(2020年の第1戦以来)なので、まずは良かったのかなと思います」と胸をなで下ろしていた。それと同時に、ようやくスーパーGTで開花した宮田とフェネストラズのパフォーマンスに、後半戦も大いに期待している様子だ。

「もともとポテンシャルのあるふたりなのですけど、これまでちょっと上手く噛み合わなかったり、空回りしたところがありました。それがようやく実を結んだのかなと思います。これをきっかけに良い方向にいってくれれば、あとは若いふたりのパワーで押し切っていってもらいたいなと思います。」と山田監督。

「平川/ニックの頃でいうと、先行逃げ切りで、途中で(ライバルに)少しずつ追いつかれるというパターンだったのが、シーズンの真ん中でポイントを稼いでトップに立つという展開は初めてなので、これからの後半戦がどういうふうになっていくのかなと想像がつかないところがあります、チャンピオンを獲って、いいシーズンにしたいなと思います」

「ただ、やっぱり日産は新型Zになって速いですし、燃費も良さそうです。あとはホンダ勢が今回、元気がなかったというところも逆に気になりますね。いつも気がつくと100号車(STANLEY NSX-GT)がすぐ後ろにいたりしますけど、今回は来なかったのがちょっと気にはなります。何とかチャンピオンを獲れるように、後半戦も頑張ります」と今後の抱負を語る山田監督。

 毎年、チャンピオン争いに絡んでいるタイトル候補常連の37号車ではあるが、気づけば平川/キャシディのコンビに獲得した2017年を最後にタイトルから遠ざかっている。今年は新たな若手コンビが37号車のステアリングを握り、チャンピオン獲得という最大目標に向かって、後半戦に臨んでいく。

予選3番グリッドからスタートした37号車だったが、決勝に向けては手応え十分の様子だった

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