「家族や兄弟が戦う時は両方とも最終的には被害者」ロシアとウクライナの“はざま”で揺れる女性 息子に「戦争と平和」をどう伝えるか【こどもとせんそう】

ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、静岡に住み、小学1年生の子を持つロシア人の女性に「戦争と平和」への思いを尋ねました。ロシアに住む家族や子どもへの教育にも頭を悩ませる女性へのインタビューを通じて、戦争とは何かを一緒に考えてみてください。

静岡市で通訳・翻訳会社を経営するロシア人の長阪有美奈(あるびな)さん44歳。語学留学をきっかけに20年前に来日し、日本人の男性と結婚。一児の母親です。

長阪さんの父親と母方の祖父はウクライナ人です。30年前までは、ソビエトという国を構成する共和国の1つだったロシアとウクライナ。「同じルーツ」を持つ国でありながら、ロシアがウクライナに軍事侵攻を始めたのは2022年2月のことでした。

<長阪有美奈さん>

「日本的な言い方をすると『遠い親戚、近い親戚』という言い方があるじゃないですか。ウクライナの人たちは、ロシア人の感覚では『1番近い親戚』なんですよ。うちの家族はみんな『大丈夫よ、ちょっとウクライナを脅かすかもしれないけどそんなひどいことは起きないと思いますよ』という、恐らくロシア全域、一般の人はほぼ、この意識でいたと思うんですよ。それは『近い親戚』という感覚に対しての『まさか』という考え方だったんだと思います。私もその考え方でした。自分の家族が巻き込まれているかのような気分になって、どうしちゃったのという気分になりました」

長阪さんの両親はロシア東部に位置するハバロフスクに住んでいます。今も週に一度は連絡を取り合いますが、ウクライナ侵攻の話だけは噛み合わないといいます。

<長阪有美奈さん>

「(するのは)以前とほぼ変わらない会話です。孫の成長について、学校はどう、農作物作りに励んでいる報告。トマト、どれぐらい生産したよとか。普通の世間話、普通の連絡の中身です。侵攻については、お互いに凄く意識して触れないようにしています。2~3回くらい(侵攻について)かなりの口論になったことがあるから。でも結局、家族があるから。実際家族なので、こういった原因で家族間で深い亀裂が生まれてしまうのは誰でも嫌だと思うので、だったら触れない」

Q.何をやっている時が幸せですか?

「何しているときかな…?」

(息子の慶くん耳打ち「全部」)

「全部?ママ、全部って言ってよ!」

息子の慶くんは、小学1年生です。長阪さんは、ロシア人やウクライナ人を家族に持つ慶くんや周囲の子どもたちに今回の戦争をどう伝えたらいいか迷っています。

<長阪有美奈さん>

「ちょうどおとといくらいかな、『どこの国の人ですか?』って子どもに聞かれて。『ロシア』って答えて。そしたら、ハッとした顔をされて。だから、あっそうか、怖いんだって。私たち今怖い存在なんだなって思いました。最初ママがロシアの人だから『ロシア、ロシア』、ロシアが勝ってほしいって言い出したんですよ。内容が分からないから。いやいや、いまね、ロシアがちょっと、ウクライナへ攻めてきてるから、悪いことをしているのかもしれないよってそういう事実を説明したんですよ」

<慶くん>

「今度はウクライナ頑張る」

<長阪有美奈さん>

「今度はウクライナ頑張るね。ただ、お母さんがロシア人だからちょっと困った様子がありました。でも、現実は子どもが分かる範囲で隠さずに伝えていこうと思っています」

「戦争」について今、何を思いますか?

<長阪有美奈さん>

「この戦争は、どんな戦争でも良い戦争はないと思いますけど、戦争自体は最悪のことだと思います。…今回の出来事は、本当に、兄弟同士っていうか、家族同士が殺しあっている状況になっているので、個人的には、日本の方々に1つだけわかっていただきたい。家族や兄弟が戦う時は、両方とも最終的には被害者だと思うんですよ。両方とも苦しいと思います」

「平和ってわかる?」

<慶くん>

「わからない」

<長阪有美奈さん>

「戦いはしない、ケンカもしない、怒らない…それが平和って言うの。怒るけどね、戦いはしない」

<慶くん>

「怒ってるけどね。戦いはしない」

<長阪有美奈さん>

「誰が怒ってる?ママ?ママ、時々怒るよね」

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