中国の台湾周辺での軍事演習、何を意味するのか BBC特派員が解説

ナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問は、中国と台湾の間に新たな緊張関係をもたらした。中国は台湾を自国から分離した省とみなしている一方、台湾は自治権を有する、中国とは異なる島だとしている。中国はペロシ氏の訪台に反発し、台湾周辺で数日間にわたり軍事演習を実施。今後も継続していくと述べた。

BBCのスティーヴン・マクドネル北京特派員とルーパート・ウィングフィールド=ヘイズ東京特派員が、中国の軍事演習の重要性と、両国それぞれの立場について解説する。

新しい普通

スティーヴン・マクドネル特派員(北京)

中国共産党上層部の強硬派は、ペロシ氏の台湾訪問がもたらした現状に、おそらく満足しているだろう。

ペロシ氏に格好の口実を与えられた強硬派は、それを利用したというわけだ。

台湾周辺で過激な軍治演習を重ねた結果、問われるのは「許容範囲かどうか」という状態になっている。

ミサイルに台湾の上空を通過させるなどといった動きが、今回「許容範囲」とされたのは、国際社会がそれを容認したからではない。中国がそれを現実に実行し、特に罰を受けていないからだ。

中国の人民解放軍が台湾海峡で、戦闘機を以前より接近させるたびに、あるいは戦闘機を以前より多く飛行させるたびに、それが新しい基準となる。

さらには、中国政府がいつか台湾に侵攻して無理やり領土を奪うなどという発想が、可能性として実際にあり得ると考える中国人が増えてきている。

これもまた、それを現実のものにしたい人たちにとって、勝利だと受け止められている。

一方で、中国の王毅外相が台湾の「母国帰還」と呼ぶ対中戦略は、台湾侵攻よりは平和的な案だが、今は特に話題になっていない。少なくとも、詳細についての検討はされていないのは確かだ。

人民解放軍が派手な実弾演習を実行して見せたことに伴う、副産物もある。つまり、中国の軍事演習を受けて、中国の軍事的な台頭は食い止められないという考えた、世界的に加速しているのだ。南シナ海の領有権を中国と争う東南アジア諸国にとって、これは脅威となる可能性がある。

これほど大規模な軍事演習には、ある程度の準備が必要だ。ペロシ氏が台湾訪問を考えているという情報が流出した時点でいきなり、中国の司令官たちが急に軍事演習を思いついたとは到底考えにくい。

先に計画があり、機会が向こうからやって来るまで引き出しにしまっておいたという方が妥当だろう。

先週、私が北京で取材したあるナショナリストは笑いながら、「ペロシ議長ありがとう!」と話していた。

しかし、中国政府が自分たちの好戦的なレトリックにこだわりすぎて、台湾を掌握し維持することは、多くの流血を伴う厳しい大惨事にはならない、むしろ比較的簡単だ――などとと思い込み始めるのは危険だ。

一部のアナリストは、この戦争ゲームが、台湾とアメリカの軍隊による中国からの攻撃に備えた防衛戦略を後押ししているとすら考えている。

しかし、習近平国家主席の政府は、軍事演習だけでは飽き足らない。王外相は5日夜、麻薬の取り締まりや海上の安全など、国境犯罪対策についてアメリカとの協力を停止すると発表した。米中の軍高官レベルの話し合いも停止となった。

米メディアも、ロイド・オースティン国防長官とマーク・ミリー統合参謀本部議長が電話をしても、中国側が応答しないと伝えている。

さらに重要なのは、中国が気候変動対策でアメリカと協力しないと発表したことだ。世界で最も大量の温室効果ガスを排出する2カ国が、協議をやめてしまったのだ。

ペロシ議長の訪台後、中国をめぐる緊張関係は確実に高まった。しかし今のところ、それは習政権にとって好都合のようだ。

言葉の戦争

ルーパート・ウィングフィールド=ヘイズ特派員(台湾)

台湾周辺で行われた花火大会のような実弾演習に多くの注目が集まった。しかし同時に、この演習に合わせて中国政府が発した言葉も重要だ。

中国の王毅外相は、一部の台湾の政治家を「台湾の分離派武力組織」と呼んだ。

そのトップには蔡英文総統がいる。蔡総統は、名指しでとりわけ厳しく非難されている。王外相は蔡総統を「中国という国にいる価値のない子孫」と呼んだ。つまり、裏切り者ということだ。

中国政府が敵ではないとする大勢の台湾の人々を、台湾を祖国から引き離そうとしている「少数グループ」と区別し、引き離すのが中国側の目的だ。

しかし、中国政府の描くこの台湾像は、現実とは全くかけ離れている。これが中国にとって厄介な点だ。最近の世論調査によると、台湾では大多数の人が中国とのどのような統一にも反対している。加えて、大半の人が自分たちを「中国人」ではなく「台湾人」と認識しており、その数も増えている。

王外相に言わせると、これは台湾の蔡政権が「脱中国化に全霊を注ぎ」、「一つの中国、一つの台湾」あるいは「二つの中国」を作ろうとしているせいだということになる。

中国の駐仏大使が、台湾が中国と「統一」された後には、台湾の人たちの「再教育が必要だ」と発言したのはそういうわけだ。 この大使によれば、台湾の人々は「洗脳」され、自分は中国人ではないと思い込んでいるのだという。

これもまた、現実とはまったく異なっている。台湾社会は、誰もが自由に好きなものを読み、好きなことを考え、自分の好む人物に投票することができる開放的な場所だ。

では、中国側の動きはどのような影響をもたらすのだろう。

中国政府は、2024年の総選挙で蔡総統率いる民主進歩党に投票しないよう、台湾の人たちを脅そうとしている。親中派の中国国民党に政権を奪還してもらいたいのだ。

中国はさらに、台湾の実業家にも直接的な脅しをかけている。そうした実業家の多くは、中国で大型投資事業を進めており、「正しい側を選べ」と中国に迫られているのだ。

中国はこれまでも似たような戦術を使ってきたが、あまり成功したとは言えない。台湾企業の多くは、特に果物農家は、中国による制裁で被害を受けるだろう。観光業界も、中国が台湾への渡航を禁止したため、すでに損害を受けている。

しかし、最近の状況を見る限り、台湾の北京に対する態度はさらに硬化しそうだ。

(英語記事 What we learned from China's Taiwan drills

© BBCグローバルニュースジャパン株式会社