【ラグビー・リーグワン】相模原加入しプロ転向のFB中井 母の祖国ウクライナに思いはせ 「人生楽しみたい」

平和への祈りを左腕のテーピングに書き込んでプレーした中井(奥上)=3月、江戸川区陸上競技場

 ラグビーのリーグワン1部、相模原に並々ならぬ思いで加入した選手がいる。1部の静岡から移籍し、プロに転向したFB中井健人(26)だ。ウクライナ人の母を持ち、ロシアによる侵攻を契機に「自分のやりたいことをできるのは幸せなこと。人生を楽しみたい」と決意を固めた。

◆テーピングに込めた言葉

 いまだ厳しい現状が続く母の祖国には自身も小中学生の頃に複数回訪れたことがあり、親戚や友人もいる。連絡は取れているというが、昨季は不安を募らせながらのプレーが続いた。

 侵攻開始から2週間足らずの3月5日、東京ベイ戦で公式戦初先発を飾ると、左腕には「PRAY FOR PEACE(平和への祈り)」という文字を書き込んだテーピングを施し、ピッチを駆け抜けた。

 戦争を自分事と捉えた中井には、大きな心境の変化もあった。法大からヤマハ(現静岡)に加入し、社員選手としてプレーして4年目。1年目の終わり頃から頭の片隅にあったプロの道へ背中を押してくれたのは、故郷の福岡で暮らす母の「お互い人生を楽しもう」という言葉だ。

◆「日本代表目指したい」

 限りある競技生活でやりたいことは何かを考え、シーズン中に静岡の堀川隆延監督(49)にプロ転向の意思を伝えた。「日本代表を目指したい。同級生や仲の良い選手が選ばれているので負けたくない」。そんな意向をくんでくれたのが相模原だった。

 平和を願う活動はグラウンド外でも行っている。自身がデザインしたオリジナルTシャツを交流サイト(SNS)を通じて販売。7月27日に在日ウクライナ大使館を訪れ、収益の156万7710円を寄付金として贈呈した。「できることがあれば練習や試合の合間に駆け付けようかなと思っている。一刻も早く戦争が終わってほしい」と願う。

 静岡時代は主にWTBとしてプレーしたが、相模原ではFBでレギュラーを狙う。「チームとして本気で成長し、個人に頼らないラグビーをしないといけない。みんなでレベルアップし目標であるトップ4にたどり着きたい」。心機一転のシーズンで飛躍への一歩を踏み出す。

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