「Direct From L.A.」(1978年、イースト・ウィンド) 緊張感伝わる質の高さ 平戸祐介のJAZZ COMBO・17

「Direct From L.A.」(1978年、イースト・ウィンド)

 まだまだ暑い日が続いておりますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか? 「あつい」といえば1970年代の日本ジャズシーンも非常に熱かった。それを感じさせてくれるのが、巨匠ピアニスト、ハンク・ジョーンズ(1918~2010年)率いるピアノトリオ「The Great Jazz Trio」のアルバム「Direct From L.A.」(1978年、イースト・ウィンド)です。
 リーダーのジョーンズとベースのロン・カーター、ドラムのトニー・ウィリアムスによるこのトリオは、60年代の帝王マイルス・デイビスの“黄金のカルテット”に在籍したリズムセクションを従えた痛快無比なピアノトリオでした。
 新旧のアーティストが会して生まれる化学反応や独特の緊張感が、当時のファンの間で人気を博しました。それを日本のジャズレコード会社が見逃すはずもありません。ジャズ・プロデューサー、故伊藤八十八さんらを中心としたジャズ・レーベル「イースト・ウィンド」が、日本のレジェンドサックス奏者、渡辺貞夫さんと「The Great Jazz Trio」の共演盤など、レコード制作に着手していきました。ひときわ輝きを放ったのが「Direct From L.A.」です。
 ジャケットも秀逸で、若いファンの取り込みに成功。音楽的には当時猛威を振るっていたフュージョンではなくオーセンティックな作品で、リスナーの伝統回帰やジャズの復権にも貢献し、ジャズシーン全体が息を吹き返しました。
 高い録音技術も話題となりました。録音をダイレクトにレコード化する「ダイレクトカッティング技法」を採用。演奏上のミスは許されず、3人の適度な緊張感や生き生きとした音が聞けます。オーディオに大変造詣が深かった伊藤さんの手法と手腕が存分に発揮されているわけです。
 「The Great Jazz Trio」での成功例などが下敷きとなり、80年代以降のジャズシーンでもたくさんのアルバムが「日本発」でリリースされました。それらは一つのブランドとして確立され、世界のジャズファンをもうならせる質の高い作品が立て続けにリリースされたのはご承知の通り。それらを聴いて育った私たちには宝のような作品ばかりなのです。伊藤さんの情熱が詰め込まれた、暑い中に聴く「熱いジャズ」をお薦めします。(ジャズピアニスト・長崎市出身)

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