【#あちこちのすずさん】「全部出しなさい」疎開中、先生がお菓子を没収 理由は

 戦時下の日常を生きる女性を描いたアニメ映画「この世界の片隅に」(2016年)の主人公、すずさんのような人たちを探し、つなげていく「#あちこちのすずさん」キャンペーン。読者から寄せられた戦争体験のエピソードを紹介しています。

(女性・87歳)

 国民学校4年生の時、横須賀から相模原の寺に学童疎開をした。児童40人ほどに先生2人。到着すると、先生が「持ってきたお菓子や食べ物は全部出しなさい」と言った。

 「取り上げられる」。皆は驚いて、先生がいない間に広い庭に出て、植え込みや草むらのあちこちに隠した。でも全て見つけられ、先生の部屋に菓子類は山積みになった。

 疎開に際して児童は数人ずつの班に分かれ、上級生が班長になった。その日の夕方、先生の部屋に班長たちが呼ばれた。戸のすき間からのぞき見した男児が「先生と班長が、僕たちのお菓子を食べている」と叫んだ。皆も駆け寄って「班長だけえこひいきして、ずるい」と大騒ぎになった。

 今思えば、先生たちは「子どもが好き勝手に食べたらおなかを壊す」と心配し、今後負担をかける班長をねぎらうつもりもあったのだろう。

 疎開生活は1年ほど続き、親が交代で慰問に来てはそっとわが子に食べ物を渡した。私はいり大豆を隠れて食べておなかを壊し、終戦の少し前、一足先に家に戻されたのだった。

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