子どもの好奇心刺激する科学絵本 県立美術館でかこさとしの世界展

子どもの好奇心を刺激するかこさんの科学絵本

 岡山県立美術館(岡山市北区天神町)で開催中の「かこさとしの世界展 だるまちゃんもからすのパンやさんも大集合!」。日本を代表する絵本作家かこさとしさん(1926~2018年)の創作の歩みを紹介する会場には、科学絵本の原画や資料が数多くある。宇宙や人体、気象などをテーマにした作品は「からすのパンやさん」「だるまちゃん」シリーズといった物語と双璧をなす。創作にあたってかこさんは、資料集めや専門家への取材など、綿密な下調べを繰り返し、子どもの好奇心をかき立てる内容にこだわり続けた。

 山の雪解け水や雨水が集まって川となり、やがて大海へと注ぎ込む。展示会場に並ぶ「かわ」(1962年)の原画は、1本の流れが田畑を潤して工場で利用され、人々の暮らしと密接に関わる様子を生き生きと伝える。刊行から半世紀以上を経た今も読み継がれ、科学絵本としては異例のロングセラーだ。

 東京大工学部出身で工学博士でもあるかこさんは、その知見を生かして多くの科学絵本を執筆した。「かこさんが心がけたのは、裏付けのある正しい知識と20年後にも通用する内容」と同美術館の鈴木恒志学芸員。インターネットのない時代、新聞や雑誌を切り抜き、論文にまで目を通して資料収集を徹底した。

 「地球―その中をさぐろう」(75年)は完成までに5年をかけた労作だ。作中では、当時は最新の「プレートテクトニクス」と呼ばれる学説を採用した。地球の表面は何枚かの固い岩盤に覆われており、このプレートが動くことで大陸移動などが起こるという理論。現在は常識となっているが、刊行時の日本では仮説段階。専門家に尋ねて「地震や火山をはじめ、地球内部で起こる現象を説明するにはこれしかない」と確信し、最先端の理論を盛り込んだ。

 「子どもたちに本質を伝える」というかこさんの信条について、長女の鈴木万里さん(65)=神奈川県藤沢市=は「戦争とセツルメント(社会事業)の二つの体験が基になっている」と話す。戦時中に航空士官を志したかこさん。視力低下でかなわなかったものの、敗戦を経て、軍人を目指した自分に絶望したとされる。自らを“死に残り”と称して生き方を自問。「あるとき無邪気に遊ぶ子どもたちを眺めながら、未来を担う彼らのために生きるなら、残りの人生にも意味があるのでは、と希望を見いだしたようです」

 戦後はセツルメントに携わり、子どもたちに幻灯や紙芝居を披露した。面白ければ拍手喝采、つまらなければ見向きもしないが、どんなに複雑な題材でも伝え方を工夫すれば必ず届く。子どもたちとの触れ合いを通し、多種多様な興味関心と無限の可能性を実感したのだろう。

 「宇宙―そのひろがりをしろう」(78年)は、爪の先ほどのノミがジャンプする場面から始まる。体長の100倍も高く跳べるノミが、もし人間ほどの大きさで、同じくらい跳べるとしたら―。走る、跳ぶといった身近な動作から、重力の存在を解説。ロケットや星、銀河へとつながっていく。地上に立つ子どもが、壮大な宇宙空間へと思いをはせる仕掛けをちりばめた傑作と言える。

 県立美術館、山陽新聞社主催。28日まで。22日休館。

川と人との暮らしの関わりを描いた「かわ」の原画
自然や宇宙などをテーマにした科学絵本の原画が並ぶ会場

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