「青春18きっぷ」での乗車は利用者数にカウントされないのか JRに聞いてみた【コラム】

遡ることひと月半まえ、2022年7月1日。夏季の「青春18きっぷ」発売日にあわせ、「晴れの国おかやま鉄道情報(岡山県県民生活交通課)」がFacebookへ次のような投稿を行い、SNS上の鉄道界隈でちょっとした話題になりました。投稿には「岡山県からの切実なお願い」として次のように記載されていました。

「もし岡山のローカル線を気に入っていただけたら、ひと区間だけでも良いので「普通乗車券」で乗車して、利用者数アップに協力していただけないでしょうか。(残念ながら、18きっぷでのご乗車は利用者数に含まれないのです・・・。)」

画像はFacebook「晴れの国おかやま鉄道情報」アカウントの投稿から

「青春18きっぷ」は皆さんご存知「JRグループの普通列車などが乗り放題になるきっぷ」です。値段は5日(人)分で12,050円、1日あたり2,410円。特急列車や新幹線には乗れないものの、早朝から頑張って普通列車を乗り継げば1日で東京から岡山に行くくらいのことはできます(若さは必要になりますが……)。時間に余裕がある人の帰省や旅行に、何度も途中下車しながら普段行かない場所を訪れるきっかけ作りに、と使い方は様々です。

経路も乗る列車も好きに選んでよし。1人が5回に分けて使っても構いませんし、5人同時に乗車して1日で使い切ってもいい。年齢や性別による使用制限・購入制限もありません。ただ安いだけでなく非常に自由度の高いきっぷですから大変人気があります。国鉄時代からのロングセラー商品となるのも頷ける話です。

利用者側としてはこうした「青春18きっぷ」の自由度の高さは純粋にありがたいものですが、立場を変えてみると嬉しいことばかりではないかもしれない、というのが今回のお話です。

「18きっぷでの乗車は利用者数に含まれない」は本当なのか

岡山県の投稿で注目を集めたのは、「18きっぷでのご乗車は利用者数に含まれない」とする部分です。これが事実であれば、「青春18きっぷ」でローカル線へ乗車しても「利用者」としてはカウントされず、その路線の存続にはさしたるメリットをもたらしていないことになります。果たしてこの内容は正しいのでしょうか?

きっぷの使い方から考えてみましょう。我々が「青春18きっぷ」を使用する時は、まず有人改札で券面に日付入りで押印してもらい、あとはJRの普通列車を好きなように乗車して、改札を通ったり車内検札の際に見せるだけ。使用済みのきっぷを回収されることもありません。普通に考えれば乗車区間や乗車人数等の正確なデータを取るのは不可能、利用実態を正確に把握することはできません。

そう考えると岡山県の投稿内容は正しいように思えます。しかし鉄道事業を行っているのは県ではなくJR、ということでJR西日本の広報にも問い合わせてみました。

Q.「『青春18きっぷ』でローカル線へ乗車しても、乗車した線区の乗車人員や平均通過人員に反映されない」という認識は正しいのでしょうか?

回答は「当社が所有する発売実績等のデータに基づき、一定の前提を置いて算出しています」とのことで、反映されるともされないとも断定できないものでした。「廃線の指標として使われる輸送密度などにも反映はされないのでしょうか」といった問いに関しても同様で、結論として真偽は不明です。

「誰がどの区間を乗ったか分からないんだから利用者数には反映されない」とする説は正しそうですが、一方で「青春18きっぷ」のシーズンに見慣れない乗客が大勢乗車してきたら、正確な数はともかく「青春18きっぷで乗りに来てくれる方がこんなにいるんだなぁ」ぐらいのことは感じるわけで、そうした実情を一切考慮せずに利用者数を算出するというのも考えづらいものがあります。

これは私見、というか推測ですが、仮に「利用者数」には直接反映されないにしても、「青春18きっぷ効果で各線区の利用がどのくらい増えるのか」という大まかな数字は各社で持っているのではないかと筆者は考えています。

昨今では過疎化やコロナ禍による利用者減により路線の存廃が危ぶまれるようになり、一部を除きJR各社はローカル線の利用実態を公表するに至りました。そんな状況で「青春18きっぷの利用期間中でも利用者数は変わらないのか」という当然想定され得る問いかけに何の答えも用意していないのでは、建設的な議論もままなりません。今後の存廃議論を注視していくと、意外なところでぽろっと答えが出てくるかもしれません。

県はむしろ「(青春18きっぷを)積極的にご利用いただきたい」と考えている

岡山DCを機に登場した観光列車「saku美saku楽」ほか、おか鉄フェス2022を中心に魅力ある国鉄型車両や車両基地イベントでJRも「鉄道の聖地」岡山をPRします

誤解のないように書き添えておくと、岡山県側としてはFacebookへの投稿に「青春18きっぷ」の使用を否定する意図は全くなく、むしろ「積極的にご利用いただき、『国鉄型車両の聖地・岡山県』を楽しんでいただきたい」と考えているそうです。

「以前からの私共の問題意識として、毎年、18きっぷの期間中には、たくさんの鉄道ファンの皆様が県内のローカル線を訪れてくださっているにも関わらず、18きっぷの仕組み上、利用者数(乗車人員や平均通過人員)に反映されていないということが、非常にもったいない、という思いがありました。

そこで、18きっぷでお越しいただく皆様に、もし気に入った路線や区間、駅などがあれば、ひと区間だけでも普通乗車券を買って乗っていただき、『いいね!』という気持ちを『利用者数』という形で残していただきたい…というお願いを、ちょうど18きっぷの発売と岡山DCの初日が重なった7月1日に、Facebookへ掲載させていただくことにしました」(岡山県)

岡山では2022年7月~9月にかけて行われる「岡山デスティネーションキャンペーン」だけでなく、7月~12月にかけて「おか鉄フェス2022」を展開しています。これは今なお多数残る国鉄型車両を活用し、岡山を鉄道の聖地として盛り上げていこうというキャンペーンで、弊社サイトでも「和気訓練線での運転体験企画」「急行『砂丘』『鷲羽』をイメージしたリバイバル団臨」「213系初代『マリンライナー』一日限りの復活」などを取り上げました。JR西日本岡山支社からは、こうした取り組みや車両基地イベントの盛況ぶりを伺っています。

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イベントは3ヶ月~半年程度の期間限定のキャンペーン、青春18きっぷ利用者の乗車券買いも一時的な利用者数の水増しにしかならないという見方もありますが、イベント後も訪れてくれるリピーターの獲得、口コミによる更なる誘客、地域外から”注目される”ことで地元民が鉄道に目を向けるといった効果も期待できるでしょう。地元ではごく当たり前のものが再発見されることで名物になり、観光資源化するケースもあります。「青春18きっぷ」で乗りに来て、「懐に余裕があったら記念にきっぷを買って帰ろう」くらいの考え方でも、きっと何らかの貢献にはつながるはずです。

最後に余談を一つ。本筋からは外れますが、期間限定のイベントなどに拠らない日常的な利用者増について、岡山県では沿線自治体と連携して「駅へ接続する二次交通の改善」「駅施設の環境改善」などに取り組んでおり、一部市町村では「通学定期券の購入助成など、独自の取組を行っているところもある」とのことでした。多客期の利用を可視化したいという思いだけでなく、平時の利用を増やすことで足腰から強化していこうという思いも感じます。

記事:一橋正浩

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