首都直下地震等による被害想定報告書の活用(上)マンション管理士/TALO都市企画代表 飯田太郎 

東京都防災会議が5月25日、「首都直下地震等による東京の被害想定報告書」を公表した。2012年4月に公表した被害想定を10年ぶりに見直したが、人的被害では死者が最大で6148人と前回より約3500人少なく、建物被害も19万4431棟で前回に比べ11万棟近く減少した。この10年間の建物の耐震化等による減災効果を反映したもので、今後も取り組みが進めば、被害を更に大幅に減らすことができるという。ただ、災害対策は定量化できないことも多い。今回の被害想定でも「定性的な被害の様相」を新たに加え、定量的に示すのが困難な被害があることを指摘している。管理組合等は「定性的な被害の様相」を意識し、対策の検討に役立ててほしい。(下線が報告書本文からの引用)

マンションの地震対策に役立つ

「定性的な被害の様相」

今回の被害想定は、シミュレーション結果を数字で示した他に、新たに「定性的な被害の様相」を加え、長周期地震動や液状化による被害、停電が長期化した場合の影響等をタイムライン形式で示した。報告書は「定量化された被害数値のみをもって、首都直下地震等の発生時の被害実態とすることは、発災時に実際に都内で起こりうる被害を過小評価することとなり、様々なリスクに対する必要な都民の備えや行政による対策がおろそかになってしまう可能性もある。(中略)定量的に示すことが困難な事項についても、定性的な被害シナリオとして示し、都民や地域、民間企業等の防災意識の向上と自発的な防災活動を促す」と説明している。以下に、状況による被害を報告書に記載した文面とともに示す。

1. 長周期地震動による被害

東日本大震災(M9・0)では東京だけでなく大阪でも、超高層マンション等の高層階で大きな揺れが長く続き、建物内にいる人が船酔いのような症状を覚えるなどの影響が出た。また間仕切り壁や天井材、スプリンクラーなどの非構造部材や設備機器にも様々な被害が発生した。長周期地震動による揺れの大きさは4つの階級に区分している。階級3以上では建物にひび割れ等の被害が出る。階級2でも立っていることが困難になる。

震度が大きくなくても、長周期地震動が発生した地域では、中高層階を中心に、歩いたり動いたりすることが困難となる。船に乗っているような揺れが長く続き、特に高層ビルの中高層階では、著しく大きい揺れによって、屋内にいる人が転倒したり、収容物の移動・転倒に巻き込まれ、さらなる死傷者が発生する可能性がある。

長周期地震動による強い揺れや、停電のため、エレベーターが停止し、高層階の負傷者の救出作業が困難となる。長時間にわたり揺れが増幅されるため、避難者が非常階段等で移動することが困難となり、階段で転倒し負傷する可能性がある。

長周期地震動の影響等により、支持材が腐食した外壁のカーテンウォール等が落下し、高層ビル周辺で多くの死傷者が発生する可能性がある。カーテンウォールが落下したところから、高層ビルの屋内にいる人や屋内収容物が転落する可能性がある。

2.液状化による被害

水を含む緩い砂質の地盤が地震の強い揺れを受けて液体のような動きをする。砂混じりの水が吹き出す噴砂、横方向へ移動する側方流動等が起きる。マンホールや浄化槽等の浮き上がりが発生、建物等は沈下や傾斜、側方流動により基礎杭が折れる可能性もある。

東京湾岸の埋立地や河川沿岸部等を中心に、液状化が発生する可能性がある。沈下量は最大でも10㎝未満と想定されているが、特に5㎝以上の沈下が発生した場合などは、住宅の傾斜に伴う出入りの困難や、停電や断水、ガス停止が発生するなど、継続的な居住や日常生活が困難となる。地面から水があふれ出して、床下や地下では浸水被害が発生する。

液状化の発生に伴い地盤が水平方向に数メートルも移動する「側方流動」が発生した場合、建物が倒壊したり、海中や河川に水没するなどの被害が増大する可能性がある。構造物の基礎間でズレが生じるだけでも、大きな被害につながる。側方流動等による杭の破壊で、高層建築が傾く不同沈下が起こる可能性がある。

堤防が破壊、沈下した場合や水門が閉鎖できない場合、ゼロメートル地帯において地震洪水となる可能性がある。

首都直下地震等による被害想定報告書の活用(下)へ続く

22/7/5 月刊マンションタイムズ

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