出産間近で感染…埋まるコロナ病床、妊婦の受け入れ困難に 医師「感染・重症化予防のためにワクチン接種を」

新型コロナウイルスに感染し帝王切開で出産した女性。コロナ病床での隔離が続く=鹿児島市立病院(同病院提供)

 新型コロナウイルスの感染拡大で、感染した妊婦の出産が増えている。鹿児島県医師会によると、7月以降、県内で30人以上が出産した。医療機関のコロナ病床はどこも逼迫(ひっぱく)しているのが現状で、産婦人科医は「このままでは行き場のない妊婦が出てくる可能性がある」と危機感を強めている。

 「感染患者の入院でコロナ病床が埋まり、妊婦が入れなくなる事態を恐れている。感染者が増えれば増えるほど状況は厳しくなっていく」。県医師会常任理事で、鹿児島市立病院の上塘(かみとも)正人・産婦人科部長(62)は警戒感を示す。

 県内の出生数は年間約1万2000人。市立病院では、37週以降の妊婦が感染した場合、10日以内に陣痛が始まるようであればコロナ病床に入院してもらい、帝王切開での出産準備に入る。感染妊婦の出産は6月下旬にいったんなくなったが、7月から再び増え始め、10人以上が出産した。

 上塘産婦人科部長によると、大きな声を出すこともある妊婦の飛沫(ひまつ)でスタッフが感染することを防ぎ、計画的に分娩(ぶんべん)するため、帝王切開することが多い。県内では市立病院と鹿児島大学病院を中心に計6カ所が対応しているという。

 鹿児島市の20代女性は9日、37週目に市立病院で出産した。「赤ちゃんへの感染がないか、元気に産まれてくるか心配だったが、とにかくホッとした。早く抱きしめてあげたい」。出産後はコロナ病床での隔離が続き、11日に子どもと初めてリモートで面会した。

 一方、同病院に現在42床あるコロナ病床は15日時点で8割超の35床が埋まっている。感染妊婦用として一定数が確保されているわけではなく、上塘産婦人科部長は「帝王切開が済んだ後、すぐに転院してもらって受け入れ体制を整えているが、限界がある。最近はどこの病院も逼迫していて、転院先を見つけるのに苦労している」と嘆く。

 県内では連日2000~3000人台の新規感染者が確認され、病床使用率は70%前後で推移する。上塘産婦人科部長は「まずは妊婦にうつさないことが重要」とした上で「現在感染の中心は20~40歳の妊婦の世代。本人と赤ちゃんの感染予防や重症化予防のためワクチン接種を検討してほしい」と呼びかける。

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