赤テントに懸けるPart2(2)中園栄一郎さん 花形演目支えるベテラン

障子紙を破って飛んでくるフライヤーをキャッチする中園さん(左)。強い自信と自負心が演技を支える

 入団から今年で30年。木下サーカスの日本人出演者で最年長の中園栄一郎さん(49)は、サーカス人生の大半を空中ブランコのキャッチャー(受け手)にささげてきた。

 「自分の代わりはまだいない。最低でも還暦までは続けるつもり」と現役への強い意欲をにじませる。

 奈良県田原本町出身で、中高では器械体操に打ち込んだ。入団から1年で空中ブランコのフライヤー(飛び手)としてデビュー。しかし、2年後にキャッチャーの一人が退団、誰も後継者に名乗りを上げなかったことから若手だった中園さんが指名された。

 「フライヤーとしてもっとやりたい技があった」。仕方なく引き受けたが、徐々にキャッチャーの奥深さにはまっていった。

 空中ブランコは2チーム編成し、舞台の両端のジャンプ台に1チームずつ分かれて演技する。相互の信頼関係が欠かせないため、チームのメンバーは固定しており、中園さんは7人のジャンプを受け止める。必要なのはフライヤー一人一人の個性に柔軟に合わせられる技術と経験だ。

 キャッチする腕を伸ばすタイミングは相手の癖や飛び方で微妙に変える。フライヤーの腕をつかんだ後、元のブランコに戻すのも同様だ。キャッチャーのブランコが失速すれば、ぶら下がったまま勢いを付けて戻せるようにする。職人技ともいえる目立たない技術が華麗な演技を支える。

 若手フライヤーの指導も担う。練習では難しい演技にも果敢に挑戦させ、失敗すれば原因を一緒に考える。相手の性格に応じて時に厳しく、時に優しく。フライヤーが空中で2回宙返りしてからキャッチするなど新技の導入にも貢献してきた。

 キャッチャーは現在、自身を含め2人。1回のショーで必ず2人は必要なため、代わりはいない。公演中休むことはなく、右足を骨折しながらも舞台に出たことがある。

 「キャッチャーには『自分にしかできない』というくらいの自信と覚悟が必要。そうでなければフライヤーも安心して飛べない」。強烈な自負の裏には花形演目を長年支えてきた責任感がある。

 「自分の演技にフライヤーが少しでも不安を覚えた時が引き際」と覚悟はしているが、今はまだ自分が舞台を降りる姿を想像できないという。

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