思う存分、聖地のマウンドを堪能した。16日の第104回全国高校野球選手権大会の3回戦で国学院栃木は九州学院(熊本)に敗れた。腰のけがから復活し、力投した中川真乃介(なかがわしんのすけ)投手(17)は敗戦にも「任された場面で全力を出し尽くせた」と爽やかに振り返った。
五回2死一、三塁。142キロの外角直球で相手打者を三ゴロに打ち取る。暴投と内野安打で招いたピンチをしのぎ、小さくグラブをたたいた。
186センチ、86キロの恵まれた体格。1年秋にベンチ入りしたエース候補は、抑えの切り札として関東大会8強に貢献した。上体をひねり投げ下ろす直球の威力は抜群。ただ負担も大きかった。「100%で投げられない」。鈍い違和感が、少しずつ痛みに変わっていく。3年春の検査で腰椎の疲労骨折が分かった。
今春の県大会は3回戦敗退だった。「お前の力がなければ駄目だ」。どん底のチーム状況で柄目直人(つかのめなおと)監督から激励を受けた。「投げたい」。思い通りにならない体にもどかしさを感じながら、地道に体幹トレーニングに励んだ。
夏の県大会前は調子が戻らない中、背番号18が与えられた。1年生から変わらない数字。しかし、重みは違った。「出られない人の思いも全部背負う」。普段は感情を表に出さない男が、その時、チームメートの前で大粒の涙を流した。
県大会の登板はわずか1イニングだった。だが時間をかけた分、腰の状態は甲子園の直前に良くなり、2回戦の智弁和歌山(和歌山)戦でデビューした。
プロ野球のスカウトも注目の「未完の大器」。周囲の期待も大きいが「野球人生は高校で最後」。イラストレーターになる夢をかなえようとしている。ベスト4の目標はかなわなかった。悔しさは集大成の栃木国体にぶつけるつもりだ。「最後は楽しみながら、勝ちの喜びを味わいたい」