副業「300万円未満は雑所得」が与える影響、事業所得じゃなくなると税金はいくら違う?

コロナ禍での在宅ワーク増加や政府による働き方改革の推進などを背景に、副業を考える方が増えています。

会社員で給与の収入がある方も、副業をはじめて当たり前の時代がやってきました、人気漫画風に言えば「大副業時代」の到来です! そんな矢先、今こんなキーワードが話題になっています。

「副業、事業所得、300万円超」

これを見てもピンと来ないですって? なんて……嘆かわしい!

所得税の仕組みを少し知るだけで、あっという間に理解できるこの話題を、お笑い芸人で税理士である税理士りーなが解説していきます。


話題になっている背景

皆さんは「パブリック・コメント」という制度をご存知でしょうか?

国は国民の知らないところでこっそりと政策や法律を変えるわけではなく、国が政策などを変える時に、広く国民の意見を聞くために「こうしようと思うけど、どう思いますか?」と一般の皆さんの声を集めます。これが、「パブリック・コメント制度(意見公募手続)」です。

こうして広く国民から意見を募り、その意見を考慮することで、「政策を決めるのも公正にしていますよ〜」「透明性の向上を図っていますよ〜」ということが言えるようになっているのです。

この「意見公募」の一覧に8月1日(月)、こんな内容が掲載されました。

事業所得と業務に係る雑所得の判定は、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定するのであるが、その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が300万円を超えない場合には、特に反証のない限り、業務に係る雑所得と取り扱うこととします

わかりやすく言うと、「収入が300万円を超えない会社員の副業は、事業所得ではなくて雑所得ということにしようと思っていますが、どう思いますか?」ということです。

これを聞いて「そんなの困るよ〜!」という会社員が、たくさんいます。実は、所得税の計算方法を知っていれば、会社員は副業で経費をたくさん使ってマイナスを出すことで税金を安くすることができるのです。

この、副業のマイナスを出すことで税金を安くしている人たちの節税方法を封じ込めるために、今回の法改正をしようという裏側がうかがえる、そんな内容なのです。なぜ副業のマイナスで節税している人たちが困るのか、詳しく見ていきましょう。

所得税の計算の基本

所得税というのは、「所得」というもうけを基本として税金を課することになっていますが、この「所得」には、そのもうけ方によって色々な種類があります。

給与所得・事業所得・不動産所得・配当所得・譲渡所得・一時所得・雑所得 など

例えば、社員・パート・アルバイトで給与をもらっている人は「給与所得」といって、もうけである「所得」の計算方法は、収入金額を一定の計算式に当てはめて「給与所得控除額」という経費のような金額を計算して、収入金額から差し引きします。

給与所得は、収入金額から所得金額が求められるので、自分で増やすことも減らすこともできません。

事業所得とは

自分でお店を開いたり、商売をすることで収入を得ている場合には「事業所得」といいます。この、事業所得は「社会通念上で考えて、『事業でやっているよ』って言えるものだったら『事業所得』って言ってOKでしょ?」という程度でしか所得税法で定めてられないので、一般的には次の2つの条件を満たせばOKと言われています。

(1)開業届を出している
(2)事業だといえるぐらい継続的に(ずっと続けて)お金をもらって商売をしている

つまり、税務署に「開業届」という書類を提出していて、「月〜金曜は会社員だけど、土日は自分で商売やっているよ!」というのなら、週2ペースでずっと続けて商売をしているということになるので、「事業と言えるね!」という判定になるということです。

事業所得の特徴としては、「経費がたくさん出てしまった時はマイナス(赤字)になって、その赤字分のマイナスは給与など他の一部の所得から引くことができるよ!」というルールがあります。サラリーマンの副業で節税対策している人は、このルールを上手に使って、趣味と実益を兼ねた副業をして、赤字をたくさん計上して、給与のもうけ(所得)から赤字分のマイナスを引いて税金を減らしている、ということです。

雑所得とは

一方、事業所得など他の所得のどれにも属さないもうけ方を「雑所得」といいます。

副業のもうけで「事業所得」といえないものは「雑所得」ということになります。開業届を出していなかったり、毎月営業することができずに、「年に数回しか売れない」という場合は「雑所得」に該当します。

所得税の計算上、「事業所得」と大きく異なる点は、「マイナス(赤字)になったときは0円として計算してね!」というルールになっているのです。つまり、雑所得でいくらマイナス(赤字)になったとしても、どこからも、いくらも差し引きしてもらうことはできない、つまり税金を減らすことができません。

両者の関係性と会社員の節税効果

ここで、改めて事業所得と雑所得で計算した場合、どんな違いが出るのかを見てみましょう。

例えば、会社員の方で1月から12月の1年間での給与収入が600万円の場合、給与所得控除額は「収入金額 × 20% + 440,000円」で計算されます。つまり、「6,000,000円 × 20% + 440,000円 = 1,640,000円」となり、年収から給与所得控除額を引くと、「6,000,000円 - 1,640,000円 = 4,360,000円」です。これが年収600万円の方の給与所得です。

同じく年収700万円の場合は、給与所得控除額は「収入金額 × 10% + 1,100,000円」となるので、「7,000,000円 × 10% + 1,100,000円 = 1,800,000円」となり、「7,000,000円 - 1,800,000 = 5,200,000円」が給与所得となります。
※給与所得控除額について、詳しく知りたい方は国税庁ウェブページを参照ください。

ここで、会社員が事業所得である副業で30万円の赤字が出た場合を見てみましょう。年収600万円の場合、下記の控除が追加されます。

基礎控除 48万円
社会保険料控除 90万円
【合計】138万円

課税される所得金額は「4,360,000円 - 1,380,000円 = 2,980,000円」となり、この金額を税率表に照らし合わせると所得税率が10%になるので、住民税の10%と合わせ20%の節税効果があります。

つまり、副業で30万円のマイナスが出た場合、そのマイナス分に所得税10%と住民税10%で3万円ずつ節税されて合計6万円ほど安くなるということになります。

一方、年収700万円の場合は、下記の控除が追加されます。

基礎控除 48万円
社会保険料控除 100万円
【合計】148万円

課税される所得金額は「5,200,000円 - 1,480,000円 = 3,720,000円」となり、この金額を税率表に照らし合わせると所得税率が20%になるので、住民税の10%と合わせ30%の節税効果があります。

つまり、副業で30万円のマイナスが出た場合、そのマイナス分に所得税20%の6万円と住民税10%の3万円が節税され、合計9万円ほど安くなるということになります。

所得税は「超過累進税率」といって、たくさん稼いでいる人の方が税率が高くなるので、高所得な方ほど節税効果が大きいということになります。
※税率について、詳しく知りたい方は国税庁ウェブページを参照ください。

一方、雑所得の場合は、いくらマイナスが多く出たとしても、そのマイナス分は0円として計算されますので、税額は全く変わりません。事業所得と雑所得、副業がどちらの所得になった方が税金がお得か、一目瞭然ですよね。

もし実現したら……

さぁ、この知識を踏まえて、「事業所得は300万円超から」という話題に戻りましょう。

パブリック・コメントの内容は、「給与の収入がメインだという人に関しては、年収つまり1月から12月の1年間で入ってくる金額が合計300万円を超えなければ、『事業所得』とは言えなくて『雑所得』として計算する、と変更しようと思うけど、どう?」という内容です。

8月31日まで意見を募集しています。あなたなら、国民の一人として何と意見しますか?

もしこれが実現すると、年の収入300万円も稼ごうと思うと、毎月25万円以上を稼ぎ続けなければ「事業所得」とは言えないことになります。これ、事業を専業でやっている人にとっても結構大変な金額です。ほとんどの副業は、「事業」とはいえず「雑所得」ということになるのではないでしょうか。

不当に節税しているケースを制御できるのは良いかもしれませんが、いま会社で働きつつ、少しずつ資金を貯めながら開業して、今後は退職して本当に事業として一本でやっていきたいと奮闘している方にとっては、「なんて……嘆かわしい!」ですよね。

副業や開業を考えている方は、今後の動きに注目してください。

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