2040年に向けてメディアが持つべき視点は? 〜メディア環境研究所フォーラム 2022夏 MORE MEDIA 2040パネルディスカッションレポート(後編) / Screens

東京・大手町三井ホールにて『博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所フォーラム 2022夏 MORE MEDIA 2040 〜メディアは、体験し、過ごす空間へ〜』が2022年7月7日に開催された。

【前編】“オンライン常態化”で変化するメディア生活

【中編】2040年、メディア環境はどんな姿か?

2019年秋以来、約3年ぶりにリアルイベントでの開催となった今回のメインテーマは、「2040年のメディア環境」。コロナ禍がいまだ収束せず、ロシア・ウクライナ情勢も予断を許さない状況のなか、不確実性を増す時代に必要なものは「未来を見通す『視座』」であるとし、約20年後にあたる2040年のメディア環境を予測する。

本記事では全3回に分け、この模様をレポート。今回は、クリエイター・メディア・アカデミックの3者を代表したパネリストによるパネルディスカッション「メディア環境の未来をどう創るか」の模様を伝える。パネリストとして、クラスター株式会社 代表取締役CEO加藤直人氏、株式会社 TBSテレビ 取締役 中谷弥生氏、慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 特任教授 菊池尚人氏が登壇。モデレーターをメディア環境研究所 所長 島野真氏が務めた。

左から島野真氏、加藤直人氏、中谷弥生氏、菊池尚人氏

加藤直人氏プロフィール

京都大学理学部で、宇宙論と量子コンピュータを研究。同大学院を中退後、約3年間のひきこもり生活を過ごす。2015年にVR技術を駆使したスタートアップ「クラスター」を起業。2017年、大規模バーチャルイベントを開催することのできるVRプラットフォーム「cluster」を公開。現在はイベントだけでなく、好きなアバターで友達としゃべったりオンラインゲームを投稿して遊ぶことのできるメタバースプラットフォームと進化している。2018年経済誌『Forbes JAPAN』の「世界を変える30歳未満30人の日本人」に選出。著書に『メタバース さよならアトムの時代』(集英社/2022年)

中谷弥生氏プロフィール

1992年TBS入社。朝の情報番組のAD(アシンスタントディレクター)・D(ディレクター)を経て、報道局政治部の記者として官邸・自民党・野党等を担当。その後、メディアビジネス局で、テレビコンテンツや映画のキャンペーン・販促企画を手掛ける。その後、編成局編成部、営業局営業推進センター長、メディアビジネス局長、DXビジネス局長を経て、2022年6月より現職。

菊池尚人氏プロフィール

1969年生。専門はデジタル政策、コンテンツ政策。慶應義塾大学経済学部卒業後、郵政省(現総務省)に入省。情報通信分野の研究開発行政や規制緩和に従事。その間、フランス・パリ高等商科大学にてヨーロッパ各国の通信・放送融合などを調査。現在、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科特任教授のほか、デジタル政策フォーラム事務局、一般社団法人CiP協議会専務理事、一般社団法人超教育協会常務理事、民放連研究所客員研究員などを務める。

■12歳以下の「アルファ世代」がカギを握る

島野真氏

今回は、モデレーターを務める島野氏からの3つの質問にパネリストが回答。オンライン常態化が進み、人々の間でオンラインとオフラインの境界が曖昧になっていくというキーノートの言説を踏まえ、現代からの想像をはるかに超えるであろう2040年のメディア環境に向けて注目している要素を尋ねた。

加藤直人氏

加藤氏:これまでインターネットを牽引してきた動画コンテンツに代わり、「インターネット×ゲーム」「インターネット×3D」の時代へと大きくシフトしていくと思っています。受動的に動画を見るという体験から、インタラクティブに3D空間でコミュニケーションするという流れに、これから20年かけて変化していくのではなないでしょうか。

これまで友達の家に集まってゲームをしていた子供たちも、いまやゲーム空間のなかに集まり、ボイスチャットを通じてつながっています。単体のゲームに限らず、人々が集まるメタバース空間が発展していき、そこが人々の生活の基盤になっていくと思います。

中谷弥生氏

中谷氏:いま注目しているのは、12歳以下の、いわゆる「アルファ世代」とされる子供たちです。彼らはメタバース空間でK-POPタレントと“友達”になり、SNSで複数の人格を使い分け、バーチャルとリアルを行き来するということをごく自然にやっています。2040年にはこうした人々が主流になっていくわけで、やはりその動向からは目が離せません。

どうしてもメディアや広告会社側の立場で見ると中央集権的な視点でメディア環境を考えてしまいがちですが、そこからいかに脱することができるかという点も課題であると思います。

菊池尚人氏

菊池氏:テクノロジーの観点で見ると、今から20年前に研究されていた技術がいま花開いているように思います。現在研究されているAIや量子コンピューティングやWeb3などの技術が今後20年でどのように発展していくかは非常に気になるところです。

もうひとつ気になるのは国際情勢。何がフェイクで何が真実なのか、ぐちゃぐちゃの時期を経て、何らかの収束に向かうのではないかと考えています。

あとは、中谷さんのお話にも挙がったように、いまの小学生たち。(仮想世界構築ゲームの)「マインクラフト」では、子供たちによる想像もつかない“使い方”をよく見かけます。彼らの思考がどうなっていくのかを見てみたいですね。

加藤氏:いまや小中学生、高校生が投稿した動画が普通に数万再生されるような時代ですが、3DCGの世界においても同様の流れが生まれてくると思います。「マインクラフト」で小中学生がゲーム感覚で空間を作り、その中で“生活”を送っているのです。3DCG空間でのコミュニケーションが世の中に溢れてくるのは確実だと思いますが、それが生まれながらにして当たり前だというのが、これからの子供たちの感覚なのかなと思います。

■リアルは“贅沢品”になる?

「メディアは見る、聞くだけのものから『体験して過ごす空間』になっていく」と、島野氏はキーノートの言説をあらためて紹介。2040年に豊かなメディア環境を実現するため、必要な取り組みをパネリストに尋ねた。

菊池氏:面白いことをやっている、面白くできるユニークな人々をメディアやコンテンツ業界がいかに引きつけられるかが重要になってくるでしょう。

これまで音楽業界では大手のレーベルやインディペンデントのレーベルがあり、それらがデジタルディストリビューションでどう変わっていくか、という軸で議論がなされてきました。これからはレーベルにすら所属していない個人クリエイターをコンテンツやメディア業界がいかに取り込み、クリエイティビティを促進させていくかという点が求められると思います。

中谷氏:2040年も、きっとリアルな世界のメディアはなくならないはず。リアルとバーチャルの融合を念頭においたうえで、「どこへ行けばいいのか、何を見ればいいのかわからない」という人々に対するキュレーション、コンサルティング的な機能は必要になってくると思います。

そうした意味でも、「この人がオススメするから」というインフルエンサーの存在は、今後も重要になっていくでしょう。もしかしたら、メタバース版『王様のブランチ』が生まれるかも知れません。メディアとしてはこうした流れを前向きにとらえつつ、そのなかで自分たちが果たせる役割を考えていくことが重要だと考えています。

加藤氏:リアルな世界は残り、さらに言えば“贅沢品”になっていくと思います。物理世界を計算し尽くすことは不可能と数学的に証明されていますし、バーチャルな世界はあくまで「現実のデフォルメ」。現実世界の情報量はものすごく豊かですし、今後も残っていく。

なぜ物理世界を選ぶかというと、贅沢のためなのです。(会場を見回しながら)こうしてリアルな場を設けてみんなで集まるということそのものが、一種の“贅沢”といえるでしょう。

いま、ネット上における“ビジネス”のほとんどが広告とコマース(物販)です。リアルの物質に依存したビジネスを展開し、それをネットがサポートしている。しかし、2040年にはそれが逆転して、デジタルの消費が基本となり、そのサポート役として“モノ”があるという状況になるでしょう。

端的に言えば、バーチャル空間で着るための服が、バーチャル空間でデジタルコンテンツとして売り買いされる。デジタルコンテンツを売るためには、デジタル空間上で活動をしなければならず、リアルな活動は、そのためのサポート的な要素になっていく。こうした逆転の発想は、今後の取り組みのうえで非常に大事になってくると思います。

■2040年、豊かなメディア環境を実現するために取り組むべきことは?

最後の議題は、「2040年に向けて豊かなメディア環境を実現していくための課題、成功の鍵」について。菊池氏はより戦略的な人材交流について、中谷氏はIP強化について見解を述べた。加藤氏は、現在バーチャル空間上で起きているトラブルを例に挙げ、身体性を持ったバーチャル空間での“安全担保”について示唆。これからの「日本の勝ち筋」に向けた産業構造変革の必要性にも言及した。

菊池氏:やはり大事なのは、クリエイティビティの自由をいかに保ち、若い人々をいかに引き寄せるかということ。これまで大手のレコード会社では、有望なアマチュアの新人を集めて自社のカルチャーをインストールし、プロのサポートを介して育て上げていくという手法が採られていたが、これからはそうした文脈の外側にいる人、経験を持たない人とも一緒に何かを作っていくことが必要だと思います。

中谷氏: バーチャル空間で20代女性として振る舞う50代男性に、どんな広告をどう出していくのか。「20代女性」に向けてヒゲそりの広告を出していくことになるのか。バーチャル空間で人格の使い分けが当たり前となっていくなかで広告をどのように出し分けていくかという点は、まず目の前の課題としてあると思います。

今後の鍵として考えているのは、IP、グローバル、ニッチ。さまざまなメタバース空間が生まれていくなかで、やはりIPやブランドを持っているということは成功につながりやすいと思います。

さらに言うならば、IPのなかでもグローバルなIP。TBSの場合は「SASUKE」というIPを持っています。こちらは160ヶ国で視聴されていますが、すでに現状のメタバース空間でも模倣されたコンテンツが見かけられる状況です。メディアとしては、こうしたメタバース空間においてもIPを作っていかなければいけないと考えています。

加藤氏:バーチャル空間内で生活する人が増えるなか、モラルやハラスメントの問題も発生しています。たとればストーカー行為に対して、リアルな空間では警察という公権力による解決が行われますが、「情報が動いているだけ」であるバーチャル空間では、空間を移動して避難しても、ふたたび追いかけられてしまう。新しい身体性を持つバーチャル空間において、解決していかなければならない課題はたくさんあると思います。

個人レベルなのか、企業レベルなのか、国家レベルなのかといった視点がありますが、今後の成功の鍵としては、大きく分けて2つあると思っています。

ひとつは「妄想力」。バーチャル世界は「なんでもありの世界」であり、“なりたい自分”を自分で作ることが可能です。ここで大事になってくるのは、これまで想像もしなかったような妄想や想像力ではないでしょうか。物心ついたときから「ドラえもん」を見て育ち、SFやマンガが大好きな日本人の国民性をうまく活かしていくことが大事だと思います。

もうひとつは「ゲーム領域の技術」。これから未来のメディア環境においては、動画など、既存のメディア体験とのハイブリッドなユーザー体験が作られていくことになるでしょう。そのうえで重用されるのが、ゲーム開発の技術です。これからは、ゲーム開発の領域で活躍してきた人々が中心となり、動画やウェブアプリなどの領域の人々とコラボレーションして、豊かなメディア体験を作りあげていくことになるのです。

日本の人口は中国の10分の1ですし、移民もそんなに受け入れていない。アメリカなどに比べたら、人口レベルのパワーが全然違う。そんな中において“国家レベルで勝つ”ために必要なのは、メンタリティーうんぬんの話ではなく、“選択と集中”だと思っています。

高度経済成長期、日本が自動車の生産で世界1位になれたのは、戦争で航空機の製造が禁止になり、物作りの場が自動車へと移行したためでした。選択と集中が構造的に発生したのです。かたや、現在の日本はゲーム産業がすごく強い。ソーシャルゲームを作っている人たちがバーチャル空間を作るべきだと思っています。

既存の産業の枠組みで人が集まっても、新しいユーザー体験は作れません。産業レベルの構造を変えて、領域ごとのコラボレーションを促進していくことが重要だと思います。

「今と未来、両方の視点から『メディア環境のこれから』をお話をさせていただきました」と島野氏。「今回の提言を持ち帰っていただき、みなさまの立場で議論をさらに深めていただければ幸いです」と、フォーラム全体を締めくくった。

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