広報室奮闘記 ~ある製造メーカーでの出来事~ Vol.4

水面下で進められていた交渉がようやく締結され、外資系の資本が入ることが決定した。そのため、急遽、記者発表会を開くことが決定。記者発表会は来週に迫ったが、本社とのやり取りがうまく進まない。そんな矢先に…

Vol.4 黒船来航!? 超ドメスティック企業が、外資系企業と共同で、記者発表会を実施

突然の案内状の発信

通常、新製品の発売はもちろん、新たな素材の採用、業務提携等、会社での新たな方針や動きが決定すると、企業として、社会にその事実を知らせるため、記者発表会を実施する。そして、記者発表会後は、メディアでの露出を皮切りに、HPに掲載するとともに、新たなカタログやパンフレットの使用も開始される。わが社では、1年に1回くらいの頻度で、これまでも記者発表会を実施していたが、自社の新製品の発表は、そのタイムスケジュールが把握できるため、十分な準備時間が与えられる。しかし、今回は事情が違っていた。記者発表会の実施日は、来週となり、案内状を発信してから実施まで、正味5日しかないといった直前の状況なのである。「そんなこと、できるのだろうか…」焦りと不安ばかりが押し寄せてくるが、まずはメディアに対し、案内状を発信した。通常、ニュースリリースや案内状をメディアに発信する場合、記者クラブへ投函する。わが社が対象になっている記者クラブには48時間前に申し込みをしなければならないというルールがあるが、今回は、「株価に影響を与えかねない内容」という判断から案内状の配布はすぐに受理された。その他、記者クラブに属していないオンラインメディア等の担当記者にも案内状を発信した。

仕切りは、欧米方式

100年以上続く、“超”トラディショナルな日本企業であるわが社にとって、欧州系企業による資本提携は、まさに、青天の霹靂。今になって思えば、鎖国状態であった会社を一気に開国させることになったのであるが、そのことを良い意味で実感するのはずっと後になってからであった。その当時は、まさに、突如、侵略・攻撃された敗戦国状態。広報室では連日、ドイツ本社のコーポレートコミュニケーション室と英語で電話会議を行い、発表内容や配布資料のみならず、当日の社長の服装、ネクタイの色、靴、そして、配布するノベルティやそれを入れる袋に至る全てに指示が入った。ドイツの本社にいるアメリカ人のこだわりは半端ではなかった。「コーポレートカラーであるオレンジの絨毯のホールがあるホテルを探せ」、「水はゲロルシュタイナー(ドイツの炭酸水)を手配しろ」、「バックパネル内に格子状にいれるロゴの数の割合は、ドイツ6対、日本4にすること」等、様々である。資料の内容確認も、日本語で作成し、それを英語に替えるという作業に大きく時間がかかり、最速業務の嵐となった。日本企業であるわが社の場合、ワーキングタイムは、8:30~17:30までときっちりしていたが、ドイツ人(アメリカ人)はいつ寝ているのだろうと思わせるくらいよく働いた。私は、日本人が一番勤勉かと思っていたが、ドイツ人(アメリカ人)はそれを超えていた。そして、日本人のモノづくりに対するこだわりが世界一だと思っていたが、それもドイツ人(アメリカ人)の方が強いことが分かった。特に、広報関連の資料作りにおいては、わが社は比べ物にならないくらい遅れていた。

黒船来航、記者発表会当日

記者発表会の前日には、ドイツ本社の担当役員、コーポレートコミュニケーション室のアジアパシフィック担当者、そして本国のPR会社の担当者ご一行が来社し、最終打ち合わせを行った。ここで目にしたのは、コーポレートコミュニケーション部の面々がPR会社のアドバイス通りに行動していたことである。あれだけ、電話会議で、我々サイドに、意見をぶつけ、指摘しまくったにもかかわらず、ここでは、PR会社に指示を仰ぎ、それに従っているのである。また、PR会社は、日本のメディアに合わせた対応をするよう徹底していたことにも驚いた、資料作りに見せたこだわりとは相反し、“郷に入っては郷に従う”スタンスで、記者発表会に臨むことになった。いかに日本のメディアに好感を持たせるのか、それが大きなテーマとなった。そのためには、自らのプレゼン時間を半分にした。逐次通訳の時間を入れると、かなり長めになり、日本の記者を飽きさせてしまうこと、質問には、結論から先に応えること、そして、的確に回答すること、日本市場に対するコミットメントを強調することなど、綿密なアドバイスがなされた。

これはまだほんの序の口である。その後わが社は、全システムがこのドイツの会社のカラーに変わることになる。会議は英語、資料も英語、ときどきドイツ語が入ることはあっても、日本語が入ることはまずなかった。その時の私には、その後のこの大きな波が押し寄せることなど、知る由もなかった。

今日の教訓④

欧米では、広報部門があってもPR会社の起用は当然のこと

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