為替相場の変動を気にすると本質を見誤る

一時は1ドル=140円超えも間近などと言われた円安相場ですが、7月末にかけて1ドル=133円を割る円高へと転じました。今年に入ってから急ピッチで円安が進んだため、この円高にどう対応すれば良いのか迷っている人もいるでしょう。資産運用における為替リスクをどう考えれば良いのでしょうか。


為替差益と為替差損

まず、外貨投資に関する基本的な話をしておきましょう。

外貨に投資した後、その外貨に対して円安が進むと、為替差益を得ることができます。円高が進むと逆に為替差損を被ります。

これは簡単な計算で分かります。1ドル=100円の時に1万ドルの債券を買ったとします。円建ての購入代金は100万円です。

それが1ドル=130円になったら1万ドルの債券の円建て評価額は130万円です。この時点で売却して円に戻せば、30万円の為替差益を得ることができます。逆に1ドル=90円になったら、円建ての評価額は90万円ですから、10万円の為替差損が生じます。

米国株式、S&P500に連動する米国株式インデックスファンド、ドル建て債券などの外貨建て資産に投資している人にとって円安は、投資対象である外貨建て資産から得られる外貨建ての収益に、為替差益が加わるため、円建てのリターンが水増しされるのです。

円安から円高へと急反転

昨年から、ドル円相場の値動きが激しくなってきました。

ここ数年の値動きを見ると、2015年6月に1ドル=125円77銭まで円安が進んだ後、2016年8月には1ドル=99円66銭まで円高が進みました。

同年12月に、1ドル=118円60銭まで円安が進んでからは、一進一退が続き、2021年1月には、1ドル=102円59銭まで円が買われました。

そこから一気に円安が加速して、2022年7月14日に1ドル=139円21銭をつけ、7月29日には1ドル=133円16銭まで円高が進んでいます。

このように為替レートが激しく動くと、外貨のポジションを持っている人は気が気ではいられないでしょう。特に外貨建て資産を購入した人は皆、基本的に「外貨の買い」ポジションを持っているので、円高になると為替差損を被ることになります。

この直近の値動きを見ても、7月14日の1ドル=139円21銭から、7月29日時点では1ドル=133円25銭まで円高が進んでいますから、ドル建て資産の円ベースの評価額は、たったの半月で4.28%も目減りしたことになります。

ドル円の長期推移は横ばい

このように為替レートが大きく動くと、その値動きに一喜一憂してしまいがちですが、長期投資を前提にして米国株式や、S&P500インデックスファンドを保有している人は、為替レートの値動きは無視しても良いでしょう。

というのも為替レート、なかでもドル円の値動きを長期的に俯瞰すると、ほぼ横ばいの推移が続いているからです。それも、この10年や15年という話ではありません。

外国為替レートが、固定相場制から変動相場制に変わったのは1971年のことですが、変動相場制に移行してからのドル円の値動きを見ると、バブル経済真只中の1987年まで、円高が進んだ後、1ドル=76円から150円の間のレンジで推移しているからです。かなりワイドなレンジではあるのですが、ドル円は35年間という非常に長い期間、このレンジ内で行ったり来たりを繰り返しているだけなのです。

そもそも固定相場制のもとで、1ドル=360円だったドル円が、変動相場制への移行を経て、1987年に1ドル=150円まで円高が進んだのは、日本経済が1960年代の高度経済成長と、1980年代のバブル経済があったからです。

この2つの大きな経済的ピークによって、日本経済は米国に次ぐ経済規模を持つようになりました。

その一方で米国経済は、自動車をはじめとする主要産業が日本企業に取って代わられ、苦戦しました。1ドル=360円から150円への円高は、経済的にどんどん成長し続けた日本と、苦戦を強いられた米国経済の関係性を、鮮明に表しています。そしてそれ以降は、1ドル=75~150円のレンジで推移し続けているのです。

1ドル=139円を付けるなかで、「円安に歯止めがかからなくなってきた。このままだと1ドル=140円、あるいは150円もあるかも知れない」といった声が聞こえてきましたが、結局のところ1ドル=139円も長期的なレンジの範囲内に過ぎなかったのです。

為替変動に惑わされないこと

逆にいえば、1ドル=139円から132円へと円高が進むなか、「こんなに急激な円高を見てしまうと、やはり外貨建ての金融商品はリスクが高い」などと考える人もいるかも知れませんが、その認識も間違いです。

たとえばS&P500は1987年1月当時、240ポイント前後でしたが、2021年12月のピーク時には4800ポイントをつけました。この間、約20倍に成長しています。仮に、1ドル=139円が75円まで円高になったとしても、この間の為替差損は46%程度に過ぎません。

たしかに、短期的に見れば、46%のマイナスは大きなロスですが、この間のS&P500が20倍だとしたら、その上昇率は1900%にも達します。1900%のうち46%のロスが生じたとしても、それはほぼ誤差に過ぎないと考えられます。

つまり為替レートの値動きを見て外国株式や、海外市場に投資する投資信託の売買判断を下すと、本質を見間違える恐れがあるのです。極端な話、外貨建て金融商品、とりわけ元本の成長性に投資する外国株式や投資信託の場合、為替レートの水準は中立要因という程度に考えておけば良いでしょう。

© 株式会社マネーフォワード