【特集】ネットから離れて生活見直す「オフラインキャンプ」 ゲーム条例に基づき香川県が開催

香川県が、インターネットやゲームの依存対策として、小中学生にネット環境から離れて自分の生活習慣を見直してもらう「オフラインキャンプ」を開きました。

4泊5日の間、自然の中でさまざまな体験をしたりネットやゲームの利用状況を振り返るプログラムに取り組んだりした児童、生徒たち。どんなことを感じたのでしょうか?

8月7日から11日、高松市の五色台少年自然センターを中心に行われた「オフラインキャンプ」。小学5年から中学3年の男女あわせて20人が参加しました。この日、取り組んでいたのは野外でのグループワーク、「薪タワー作り」です。

(記者リポート)
「各チーム、同じ本数のまきをどれだけ高く積み上げることができるか。それぞれアイデアを出し合って競います」

キャンプの参加者は普段、ネットやゲームに「ハマりすぎている」児童、生徒たちです。

(中学2年生)
「(1日に)多いときでゲームで3から4時間、動画で5から6時間」

(中学2年生)
「(ネットやゲームの時間が)1日7、8時間ぐらいの日が多くて、結構やばいなっていうふうに思ってました」

4泊5日の間は、スマホやゲーム機などのデジタル機器は持ち込み禁止。ただ、子どもたちを一定期間ネットやゲームから引き離すことだけがキャンプの狙いではありません。

香川県から委託を受けてオフラインキャンプを運営するのは、ネットやゲーム依存専門の「子ども外来」を設けている高松市の三光病院です。

(三光病院/海野順 院長)
「オフライン、自然が『善』でオンライン、ゲームが『悪』という意味では全然なくてですね。今の生活を見直していただける、あるいは新しいことに挑戦していく。その気持ちを育んでいくというのを目的に考えています」

1日10時間以上ゲーム…「楽しくなかった」

一般社団法人「hito.toco」代表/宮武将大さん(36)

キャンプ初日の7日は、参加者と保護者を対象にした講演も行われました。障害者の就労支援や不登校・ひきこもりの相談などを行う高松市の一般社団法人「hito.toco(ヒトトコ)」の代表、宮武将大さん(36)はゲーム中心の生活だった10代のころの体験を話しました。

(「hito.toco」代表/宮武将大さん)
「ゲームが好きでゲームをやっていたわけじゃなくて、ゲームしかなくて、ゲームをひたすらし続けていた」

宮武さんは、小学6年のときに不登校になり、8年間、いわゆる「ひきこもり」を経験しました。昼夜が逆転し、1日に10時間以上コンピューターゲームなどをしていましたが、「決して楽しくはなかった」と振り返ります。

(「hito.toco」代表/宮武将大さん)
「空白ができちゃうと、いいこと考えないんですよ。学校行きたいけど行けないとか、このままだったらどうなるのかとか、極端な話、死んでしまいたいという気持ちも浮かび上がったりする中で、ゲームしてる時、一瞬忘れられるんですよね」

ゲーム条例 保護者はどう感じる?

キャンプは、2020年4月に施行された香川県ネット・ゲーム依存症対策条例、通称「ゲーム条例」に基づく事業として県が2022年度、モデル的に行うものです。

条例は、社会全体で子どもの依存を防ごうと香川県議会が制定しましたが、「ゲームは1日60分まで」などの時間の目安が盛り込まれ、議論を巻き起こしました。

子どものネットやゲームとの付き合い方に悩んでいる保護者たちは、条例をどう感じているのでしょうか?

(小6男子の母親)
「学校からとかもゲームの時間は何時間でとか、そういう時間を書かないかん時もあったりして、それが増えとるのは悪いことみたいな、そういう植え付けというか、そういうのもあったりとかするんで。それもちょっとどうなのかなって、ちょっと悩むのは悩みます」

(小6と中3女子の母親)
「(条例制定で)他のいろんなところがそういう働きかけがしやすくなったりしたんじゃないかなって。こういうキャンプができたりとか、悪いことというか意味がないことではないんじゃないかなと思います」

ネット・ゲームの使用を振り返るプログラムも

キャンプ期間中は、三光病院の臨床心理士による心理プログラムも毎日行われました。「認知行動療法」に基づくワークブックを使って自分のネットやゲームの使い方について振り返ります。

(三光病院 臨床心理士/野仲和真さん)
「ネット・ゲームしたいって思ってしまうのはみんなの気持ちが弱いからとか性格がだらしないからじゃ絶対にないです。自然に起こることです」

この日のテーマは、ネットやゲームを使いたくなる引き金となる物事、「トリガー」についてです。相談役の大学生メンターと一緒に自分にはどんな「トリガー」があるかを認識し、対策を考えます。

(大学生メンターとのやりとり)
メンター「オンラインの友達がゲームにログインしたのが通知で来た時?」
小学5年生「そう。それでめっちゃしたくなる」

(三光病院 臨床心理士/野仲和真さん)
「キャンプから日常に戻ると、また同じような生活を繰り返していくということはすごく予想されますので。うまくネットゲームと付き合えるような方法を、仲間と一緒だから考えられる場になればなと思って、今回はこういうプログラムを行っています」

初めて出会った仲間たちと4泊5日、キャンプファイヤーといった野外活動やピザ、うどんなどの調理体験に取り組んだ20人。スマホやゲームに触れられない「辛さ」の訴えはほとんど出なかったそうです。

(中学2年生)
「ゲームとかネットとかしている日よりも、1日1日が意味がある、濃い日々だったなっていうふうに感じます」

(小学5年生)
「ゲームの他にも自分が楽しめるようなことは探せばいくらでも見つかるって言われたから、頑張って探してみようと思ってます。(Q.逆にそれまではゲームが優先だった?)暇な時はゲームしか選択肢がなかった」

(中学1年生)
「うどんとか自分で作ったりしたことなかったので、初めての体験をたくさんできて楽しかったです。(Q.キャンプ終わって帰ってから何か変わりそうかな? 自分の生活)ちょっとは変わると思います。
多分ゲームの時間減ると思いますよ」

(小学5年生)
「多分変わります。(Q.どんなふうに?)外で多分遊びます」

3カ月後のフォローアップ、有効性の検証も

今回の企画では11月6日に「フォローアップキャンプ」も予定されていて、3カ月経って、参加した児童・生徒の生活習慣がどのように変わったかもチェックします。

(三光病院/海野順 院長)
「いわゆる診察室の中、病院の中だけでやるような取り組みと、このキャンプの違いがどこにあるのかっていうのを考えて、もっと欲を出せば、どんな子にキャンプを適用すべきかというところまで分かると、かなり治療の選択肢の幅が広がると思うんですね。このようなキャンプとか、それ以外、教育の先生方とかいろんなところの取り組みをうまく組み合わせてですね。一番効果が出る形というのをずっと模索していきたいと思っています」

香川県は、小児科医や教員ら外部の有識者で作る委員会を設置し、今回の取り組みでの児童、生徒の変化などを踏まえてキャンプの有効性について検証してもらう予定です。

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