酒井祐輔(監督)- 映画『ももいろクローバーZ ~アイドルの向こう側~〈特別上映版〉』現在とこれからに視点を向けたドキュメンタリーにしたかった

アイドルで居続けることができるのか

――ドキュメンタリーとなると撮影時にプライベートな部分にも触れることもあるかと思います。それによって幻想が壊れてしまうと尻込みしてしまうこともあるのではと思いますが、監督されるということに勇気がいりませんでしたか。

酒井祐輔:

彼女たちに関しては そこは大丈夫だろうという信頼感はありました。僕自身も撮影を通して大丈夫だということを確かめたという色合いが強いですね。

――作中でも語られていますが、女性アイドルグループでメンバー入れ替えがなく長く活躍しているというのはあまり例がないんですね。

酒井:

ももいろクローバーZ(以下、ももクロ)以外に東京女子流などもいますが、まだまだ少ないと思います。

――男性アイドルグループではジャニーズに代表されるグループではメンバー入れ替えなしもあるんですけど。

酒井:

それはジャニーズ事務所の凄さでもありますね。ジャニーズグループみなさんの活躍によって男性は40代・50代でもアイドルで居続けられる、道が開かれています。

――メンバーが変わるというのは音楽グループ・バンドで考えてもよくあることですから。

酒井:

メンバーチェンジによって新陳代謝が起きるということもあるんでしょうね。

――刺激があるというのは良いことですからね。なので、ももクロがこんなに硬派だったんだと改めて気づかされました。

酒井:

そうですね(笑)。

――映画『ももいろクローバーZ ~アイドルの向こう側~〈特別上映版〉』はドキュメンタリー作品とはいえ編集をするので、やり方によってはもっとドラマティックな作品にできたと思うんです。例えば、苦労・努力を重ねて今がありますといったスポ根モノや成り上がり的な作品にするなど。それをあえてそうせずに等身大の姿を撮っていることに、酒井監督の愛を感じました。

酒井:

ありがとうございます。今、ももクロのドキュメンタリーを作るということでいまさらステージの裏では汗と涙が…!というものを作ってもしょうがないだろう、今彼女たちを見つめる意味というのは30代を目前にした女性がアイドルで居続けることができるのかという点だろうと思ったんです。

――それにしても、もうアラサーなんですね。

酒井:

ビックリですよね。「小学校の時に観てました。」や「中学生の時にみんなで踊りました。」と言われ本人たちも感慨深いということを語ってます。フェスなどで彼女たちが自己紹介をした時に年齢を言った時もザワつくらしいですよ(笑)。

――それだけ年齢を感じさせないんです。もちろん、昔の映像と見比べると大人になっていますが芯の部分は変わっていないので、劇中で「アラサーなんです。」や「結婚について。」など話している姿を観るともうそんな年なのかって。

酒井:

関係者の誰に聞いても変わらないと仰ってますね。変わらないでいる理由を本人たちにも伺いましたが、明確な答えを持っていないようでした。

――よく言われる「同じ場所にいるには常に変わり続けなければいけない。」を体現していてそれが自然になっているんでしょうね。

酒井:

そうなんです。

初めての存在になるかもしれない

――劇中ではみなさんの結婚観についてもお話をされていましたね。

酒井:

そうですね。

――今はNegiccoのように結婚・出産をしてもアイドルを続ける方も出てきていますが。

酒井:

映画祭の時にも「Negiccoが居る。」という声がありました。僕は個人的にNegiccoはアーティストじゃないかと思っているんです。

――それを言ったらももクロもアーティストになりますよ。

酒井:

(笑)。

――アイドルとアーティストは何が違うんだという線引きも難しいですね。

酒井:

今はアイドルの定義がものすごく広がっていますからね。

――女性グループならアイドルと呼ばれる側面もありますからね。韓流のTWICEや少女時代のように歌もダンスも完成されているグループもアイドルですし、地下アイドルみたいなこれから成長していくという方たちもアイドル、幅が広い言葉ですよね。

酒井:

そうですね。

――そんな中でなぜ本作のタイトルに「アイドル」という言葉を入れたのですか。

酒井:

僕の中でのアイドルの捉え方のひとつですが、歌も歌う・ダンスもする・バラエティーにも出る・お芝居もする、というジャンルの垣根がなく活躍される方をアイドルだと考えているんです。

――マルチに活躍されている、どのジャンルに行っても輝いている方ということですね。

酒井:

そうです。ももクロがそのスタンスをずっと続けていく初めての存在になるかもしれないという思いから、「アイドルの向こう側」という言葉をタイトルに入れさせていただきました。

――そこは「ももクロは巫女説」というところに繋がっていますよね。そういう説が自然発生してきて、誇張になっていないというのが凄いですね。

酒井:

やっぱり、特別な存在なんだと思います。

――それはももクロが先駆けなのか、ももクロは特別な稀有な存在だからそうなりえたのか。酒井監督はどう考えられていますか。

酒井:

僕個人としては先駆けであってほしいと思います。本編でもこれからも続けていくのかという会話が出てきますが、「結婚しても、子供ができても、アイドルで居続けられる。」そういう先駆けの存在になって欲しいなと願っています。

ファンに対する信頼が強い

――かなり素の部分をさらしていて飾らず隠さずに話してさらけ出していますが、プライベートを飾らずに出せているのは10年以上続けてこれたからこその境地だからなんでしょうか。

酒井:

そういう部分ももちろんあると思います。

――ファンを大事にするという面でプライベートを出さないという判断をされる方もいるじゃないですか。

酒井:

そうですね。それは全然悪い事ではないですからね。

――でも彼女たちは「20代半ばくらいで結婚して子供もいてと考えていたんですよね。」と普通に話されていて、そういう普通の女の子の部分もあるんだなと感じました。芸能界は特殊な世界、むしろ特殊でいることを強いられる世界ですが、そんな中で普通の感覚が消えていないだけでなく隠していない・隠す必要がないというのも凄いですね。

酒井:

彼女たち自身のファンに対する信頼が強いからだと思います。アイドルはどうしても疑似恋愛の対象である側面は否定できないと思いますが、ももクロはその部分が薄いと思います。男性ファンも親戚のような目線で彼女たちの成長を応援している人が多いと感じていて、自分の彼女にしたいというよりずっと応援していたいというメンタルの人が多いんじゃないかなと思っています。そういった形で自分たちが受け入れてもらっていることを彼女たちも自覚しているので、素直になれるというのが一番の理由なんじゃないかなと感じています。

――信頼関係の密度・距離感がいいということですよね。ファンとの距離だけでなく、ももクロに関わっているみなさんのチームとしての強さも素晴らしいですね。ビジネスパートナーとして信頼関係を持つということが悪い事ではないですが、ももクロのチームは家族のような信頼関係を築いているようにも見えました。プロの面でもプライベートの面でもどちらもいいバランスのチームなんだなと感じました。

酒井:

それが四人の力なんだと思います。関わっているスタッフの皆さんも応援してあげたいという気持ちにさせるんでしょうね。

――だから、スタッフやファンも含めてチームとなっているんですね。

酒井:

そうかもしれないですね。

――作中で川上アキラさんが「ももクロはロードムービー」とおっしゃられていたのが印象的でした。

酒井:

「長尺の」とおっしゃってましたね。

――長尺というより歴史ですよね。

酒井:

この映画もロードムービーのなかの2021年の1シーンのようなものですから。

――そうですね。この映画は2021年を撮ったものですけど、いつ撮ったとしても同じ感想を持てるんだろうなと思っています。この映画の中でも見せている素の表情もいい意味で意外性はないですから。

酒井:

本当に裏表がないですから。

――本番ということで気を引き締めることはあっても、観ている姿はずっと正面なんだなと思いました。

酒井:

そうそう。まさにその通りです。

――そうなんだろうと思っていた答えを確認させていただいた映画でした。

酒井:

そういっていただけて良かったです。

――本作では「彼女たちは果たしてどこにいくのか?」と未来に思いを馳せていますが。

酒井:

歩んできた道のりを振り返るのではなく、現在とこれからに視点を向けたドキュメンタリーにしたかったんです。

――酒井監督はこれからどうなっていくと考えられていますか。

酒井:

想像できないですね。今のままでいてくれるのかもしれないですし、予想を超えてくれるかもしれない。

――どこに辿り着いても、ももクロなんでしょうね。

酒井:

そうだと思います。先ほどおっしゃられていた通り、「変わらないことは変わり続けること」でしょうから変わり続けた結果、変わらないももクロになるんじゃないかと思います。ファンの方はこの作品を観て彼女たちを応援してきたことは間違いじゃなかったと感じていただけると思います。それほどファンじゃないという人たちにはこんな娘たちがいるんだということを発見してもらいたいですね。

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