「認定されなかったら、父がもう一度死んだように感じる」熱海土石流 災害関連死の遺族が語る苦悩…市には審査する仕組みなし【現場から、】

熱海土石流災害では、被災のストレスなどによる災害関連死で1人が亡くなりました。その遺族が初めて関連死認定までの苦しさを手紙で綴りました。

<災害関連死で父親を亡くした伊東真由美さんの手紙より>

「災害遺族としての私の原風景は申請書類であり、手続きであり、規則集を読み込むことでした」

発災から1年が経った静岡県熱海市伊豆山。2021年7月に起きた大規模な土石流災害では、大量の土砂が流れ、27人が死亡しました。

亡くなった人のうち1人は、災害関連死。災害そのものによる「直接死」ではなく、被災のストレスや避難生活などの間接的な要因による死亡です。

追悼式典に、静岡県外から参加した伊東真由美さん。災害関連死で91歳の父親を亡くしました。

<災害関連死で父親を亡くした伊東真由美さん>

「この痛みを表す言葉は見つかりません。言葉にならないですね」

発災当日、伊豆山の自宅にいた伊東さんの父親は土砂で逃げ道をふさがれ、消防や近所の人に助けられて避難したといいいます。

その後、避難先のホテルで過ごしていましたが、発災から2か月ほどが経った2021年8月、体調が急変しました。

これは、遺族である伊東さんがSBSに寄せた手紙です。当時の様子が記されていました。

<災害関連死で父親を亡くした伊東真由美さんの手紙より>

「私が電話で『お盆には家族でそちらに泊まりに行くから』と言うと『みんなで来たって泊まる家ないじゃないか』と。これが最後の会話になりました」

避難によるストレスと環境の変化に伴う脳出血により、亡くなりました。

父親が亡くなった後、伊東さんは災害関連死の申請のために、熱海市役所を訪ねました。災害関連死が認められると弔慰金という形で、最大で500万円が支給され、生活再建に役立てられます。

しかし、伊東さんの訴えに対して、熱海市は当初、「ご高齢ですし、いい避難所でしたから」と曖昧な対応だったといいます。

<災害関連死で父親を亡くした伊東真由美さんの手紙より>

「そもそも熱海市には、災害関連死を審査する条例と申請書類がないと説明されて、拍子抜けするほど驚きました」

災害関連死の認定には、災害と死亡との因果関係を確認する必要があります。そのため、自治体ごとに審査委員会を設置することになっていますが、熱海市にはその仕組み自体がありませんでした。

<熱海市長寿介護課 小山みどり課長>

「まだこのような災害関連死という言葉自体の認識もなかなか持ち合わせておらず、今回は特に条例の改正を踏まないとできなかったのが大変大きくあった」

熱海市は審査委員会を設置するために条例を改正し、医師や弁護士などの委員の選任や審議を行いました。伊東さんは関連死が認定されるか不透明な期間のことを書き記しています。

<災害関連死で父親を亡くした伊東真由美さんの手紙より>

「(関連死認定のために)一緒に避難された方たちから避難での父の様子をうかがい、避難所での生活の様子を記録しました。ほかの自治体の関連死の書式で申請の練習をしていました」

「ある時からパソコンに向かって文を書いていると涙がさらさらと流れるようになりました。もし、認定されなかったら父がもう一度死んだように感じるだろう。そのような喪失感を味わうくらいなら、申請はしない方がよかったのではないかとぐるぐると揺れていました」

災害関連死が認定されたのは、伊東さんの父親が亡くなってから半年ほどが経ってからでした。

<熱海市長寿介護課 小山みどり課長>

「災害に関係するもので見直せるものであったり、準備ができるものは事前にしておく、平時の備えをしておくことが本当に大切だと実感した」

<瀬崎一耀キャスター>

「熱海市は今回の災害を機に災害関連死を認定する仕組みを整えたわけですが、静岡県内のほかの市町はどうなっていましたか」

<和田啓記者>

「SBSは、静岡県内全35市町にアンケートを実施しました。災害関連死を認定する審査会の設置を規定している自治体は8つ。残りの27市町、全体の7割以上にあたる自治体で災害関連死の認定の整備が完了していないことがわかりました。その理由は、専門的知識が必要、過去に住居がなくなるような自然災害がないなどといった意見がありました」

<瀬崎キャスター>

「それでも関連死の認定は大切ですよね」

<和田記者>

「特に事前の準備が大切です。災害関連死が注目されたのが震度7を2度観測した熊本地震でした。長引く避難所生活のストレスなどが重なり、死者273人のうち、災害関連死は218人、実に8割の人が関連死で命を落としています」

「静岡県内のほぼすべての自治体は、関連死を認定する事前の整備は必要と認識していますが、災害が広域になればなるほど、自治体ごとの判断の違いに不公平感が生まれるおそれがあるとしてアンケートでは、国や静岡県に一律の基準を求める本音も垣間見えました」

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