アリアナ・グランデ『Sweetener』と『thank u, next』:ポップ・スターの意味を再定義した作品

Photo: Republic Records

2018年、ソロ・アーティストとして全米シングルチャートの1位をキープした女性はただ一人、アリアナ・グランデだけだった。その楽曲は「thank u, next」。ビヨンセ、カミラ・カベロ、カーディ・Bもチャートのトップに立ったが、彼女たちのシングルには、それまでストリーミング・プラットフォームやラジオのエアプレイを独占していた男性アーティストたちとのコラボ楽曲だった。

当時は男性中心のチャートに加え、かつてチャートを支配していた伝統的なポップスが、ドレイクやポスト・マローンのようなポップ・ラップによって淘汰されつつあるようにも感じられた年でもあった。

ポップスが弱かった時代と救世主アリアナ

当時、ポップ・ミュージックは守備範囲の変更を余儀なくされてきた。メインストリームのチャートではR&Bが徐々に復活し、ストリーミングサービスではヒップホップのパワーが強くなる一方で、ポップ・ミュージックの存在感の薄さ、特にかつて音楽界を支配していた女性主導のポップ・スタイルが商業的に弱くなっていた。この世代のマドンナ、ホイットニー・ヒューストン、ジャネット・ジャクソン、マライア・キャリーといった女性歌手はどこにいたのだろうか?

音楽ファンはますます気まぐれでニッチ志向になり、かつてポップスターのキャリアを定義していたような、数十年にわたるチャート制覇や文化的影響力の持続がますます難しくなっていた。自称“トラップ・セレナ”のカーディ・Bがこの位置を保持していると主張する人は多いが、カーディの音楽はメインストリームではあるものの、何よりもまずヒップホップのスペースに存在している。

そんな中、アリアナ・グランデは、当時消滅したと思われていたポップ・スターの名声を獲得したのだ。全米アルバムチャートで1位を獲得した彼女の2018年の『Sweetener』と2019年の『thank u, next』は、ポップスをチャートに呼び戻し、シングル「thank u, next」と「7 rings」はいずれもSpotifyストリーミング記録を更新して全米シングルチャート初登場1位を獲得。

さらに、アリアナは「7 rings」「break up with your girlfriend, i’m bored」「thank u, next」にてそれぞれ全米シングルチャートのトップ3を独占し、1964年のザ・ビートルズ以来の記録となった。

アリアナは女性によるポップスの代表アーティストであるだけでなく、00年代後半から2010年代初頭のバブルガム・ポップが、よりR&Bやトラップの影響を受けたサウンドへとシフトし始めていた時期にデビューした。

そんな時代、2013年では、ケイティ・ペリーはアップビートのアンセム「Roar」をリリースし、すぐにその美学をジューシー・Jのアシストによる「Dark Horse」に置き換えた。一方、リアーナは赤毛の頃、派手なダンスポップチューンと「We Found Love」の熱狂的なパフォーマンスで、より無表情になりつつあった。アリアナは、90年代R&Bの要素とビッグ・パンの「Still Not A Player」のサンプルを融合させたデビュー曲「The Way」で、その型にはまるようになった。

ポップをよりパーソナルに

2018年8月17日にリリースされた『Sweetener』と2019年2月8日の『thank u, next』は、アリアナ・グランデがティーンエイジャー時代から離れ、より成熟した時代の幕開けとなったことを示している。

子役スターからポップ・センセーションに転身したクリスティーナ・アギレラやブリトニー・スピアーズのように、アリアナ・グランデのアルバムは、彼女を「イット・ガール」から「イット・ウーマン」へと進化させるサウンドを追及している。『Sweetener』のゴスペルとソウルフルなフレーバーがアギレラの『Stripped』にマッチするなら、『thank u, next』のダンスフロアのヴァイブスとムーディさはブリトニーの『Blackout』に似ているのだ。

この3人とも、私生活やタブロイド紙のドラマを音楽に織り込んでいるポップ・スターでもある。『Stripped』と『Blackout』はいずれも噂や世間体を正面から取り上げた作品で、ソーシャルメディアが常に飽和状態にある現代において、アリアナは自身の私生活とファンとの間の壁をさらに取り払った作品となっている。

また、『Sweetener』と『thank u, next』を通して、アリアナは自分自身の言葉で癒すことの力を示している。「no tears left to cry」「breatin」「get well soon」はすべて、2017年にUKのマンチェスター・アリーナで行われた彼女のコンサートの外で起きた爆破テロ事件に対する治療的なドリーム・ポップの応答である。

加えて、元パートナーのマック・ミラーを失ったこと(「R.E.M.」「ghostin」)、婚約者を得たこと(「pete davidson」)、その後の別れ(「thank u, next」)、パブリックイメージとメンタルヘルスの戦い(「fake smile」)にも立ち向かっている。

アリアナは、ミュージック・ビデオの公開を世界的な文化的瞬間に変える術もマスターしていた。ビヨンセは2016年に『Lemonade』でリスナーたちのテンションを上げたが、当時の2年間、アリアナは次から次へとバイラルな瞬間を提供した。「no tears left to cry」のシュールなビジョンに始まり、ロマコメ風刺の「thank u, next」や「7 rings」のガールパワーなド派手なビジュアルで、世界の注目を集めた。

リアーナからの影響

わずか半年間の期間でリリースされた『Sweetener』と『thank u, next』は、サウンド的にも非常に多様性に富んでいる。アリアナ・グランデは、2005年のデビュー作『Music Of The Sun』から2012年の『Unapologetic』まで、ほぼ毎年新しいアルバムをファンに提供し、その多様なシングルでポップの新しいトレンドを示したリアーナから、気取った態度と揺るぎない自信のようなもの、その多様性を最もよく学んだと言えるかも知れない。

リアーナの00年代の作品と同様、『Sweetener』と『thank u, next』に収録されている楽曲は、ポップ・ミュージックの様々な時代を象徴している。ギターリフのエレクトロポップである「bad idea」や、イモージェン・ヒープによる幽玄な「goodnight n go」を刷新したカバーなど、その内容は様々だ。

しかし、アリアナが同世代のポップ・アーティストと本当に違うのは、次に何をするのか常に予測不可能なことだ。一連のサプライズ・シングルから、短いスパンで2枚続けてのアルバム・リリース。そして公然のペルソナまで、アリアナ・グランデは今日のポップ・スターであることの意味を再定義しているのである。

Written By Da’Shan Smith

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