乾、北川、ピカチュウを大型補強!“名将候補”率いる清水エスパルスが見せる「J1残留とその先」

J2降格に最も近いチームに見えた。清水エスパルスのことだ。

開幕11戦未勝利が続いたヴィッセル神戸、同8戦未勝利の湘南ベルマーレの不調により、順位こそ最下位を免れていたが、行き当たりばったりのサッカーで内容が乏しく、積み上げが全く感じられなかった。

ところが、監督交代を経て、夏の移籍市場では元日本代表MF乾貴士やFW北川航也ら実力者を獲得。チームは息を吹き返し、第25節終了現在で暫定12位へと浮上。

今回は、生まれ変わった清水のターニングポイントを振り返り、J1残留の可能性を紐解く。

日本の守護神とJ屈指のストライカー

2019年以降、12位、16位、14位とJ1残留争いが常態化している清水。シーズン途中での監督交代は4年連続となった。

そんな低迷するチームにも明確な武器がある。現日本代表の正GK権田修一と、ポルトガルリーグでゴールを量産し、加入初年度の昨季J1で13ゴールを挙げたブラジル人FWチアゴ・サンタナの存在だ。

今季もチームが低迷する中、権田はビッグセーブを連発して何とか勝点をもたらしている。シーズン序盤を怪我で欠場したチアゴ・サンタナも復帰後18試合の出場で9ゴール。共に“違い”を見せつけている。

サッカーが得点の数で勝敗を分ける点取りゲームである以上、ゴールを量産できるストライカーと、それを直接阻止できるGKは希少価値が高い。チームの顔となれるパーソナリティ(個性)も要求される。

現在のJリーグでは常時J1でトップ3を狙うようなクラブの予算でもない限り、代表クラスのGKとストライカーを共に揃えることは難しい。その両方が揃っている清水は決して戦力値が低いわけではない。

チームにはパリ五輪を目指すU-22日本代表のエース格であるMF鈴木唯人や攻守の要となるMF松岡大起、守備のオールラウンダ―であるDF原輝綺、大卒新人の左SB山原怜音など、ポテンシャルの高い伸び盛りのタレントが揃う。

若手が多いだけに成績は安定しないが、彼らの成長によってチーム力を上げられる編成にはなっている。毎年のように残留争いをしているのは、積み上げがないからだ。

最大の補強となったゼ・リカルド監督

そんな清水は中盤戦に入って主力の怪我も重なり、遂に最下位にも転落。2015年以来のJ2降格最大の危機を迎えた。第16節終了後には成績不振で平岡宏章前監督が解任となった。

  • 平岡体制 16試合2勝7分7敗、15得点24失点、勝点13
  • ゼ・リカルド体制 9試合4勝2分3敗、18得点14失点、勝点14

ただし、6月から指揮を執っているゼ・リカルド監督の就任こそがターニングポイントだ。上記のように、就任後のわずか9試合で平岡体制下での勝点を越え、1試合平均で1点を下回っていた得点が倍増(0.94→2.00)しているのだ。

現在51歳のゼ・リカルド監督は、フラメンゴやボタフォゴ、インテルナシオナルなど母国ブラジルの名門クラブの監督を歴任。今年6月初旬までは自身2度目の指揮となった古豪ヴァスコ・ダ・ガマを率いていた。

1つのクラブでの在任期間が短いこともあって、「監督の資質があるか疑わしい」と批判する日本のメディアもあった。しかし、ブラジル最高のコンペティションであるカンピオナート・ブラジレイロ・セリエA(ブラジル全国選手権1部)では、「3連敗すれば解任」が当たり前。最長政権となる監督でも2年が関の山。3年目に突入する指揮官は皆無の世界だ。

ディティールの修正で選手の自信を回復

とはいえ、Jリーグでの指揮経験がなく、シーズン途中の就任となったゼ・リカルド監督にできることは限られている。実際、システムも据え置き、大きく何かを変えたわけではない。

それでも51歳のブラジル人指揮官は、何となく強度だけが高かったオーソドックスな[4-4-2]のシステムを整備した。DF、MF、FWのスリーラインをコンパクトに保ち、ライン間の連携で相手を挟み込んでボールを奪う、ソリッドな守備を植え付けた。

攻撃面ではチアゴ・サンタナをシンプルに活かすクロスを増やし、クロスに対してゴール前に入る人数やポジショニングを整理。自陣からのビルドアップ時にはボランチ1枚を落として斜めのパスコースを複数つくり、選手間の距離を調整してワンタッチパスが増えるようにするなど、ディティールを修正した。

1つずつ引き出しの数を増やしていくように、じっくりとアップデートさせることで選手達に自信をもたせることに成功しているのだ。

今後、ゼ・リカルド監督には他のJクラブからのオファーも予想され、彼は柏レイソルのネルシーニョのようなJリーグの名物監督にもなりそうだ。監督交代が頻発している清水にとっては、長く指揮を任せたいところだ。

J1残留最大のキーマンは、FW北川航也

今夏は奮闘するチームを後押しするため、クラブも大型補強に打って出た。4年前のロシアW杯で2得点を挙げて国民的スターとなったMF乾貴士と、クラブOBのFW北川航也、指揮官の愛弟子であるブラジル人MFヤゴ・ピカチュウの獲得だ。

今季途中、規律問題でセレッソ大阪との契約を解除した乾だったが、清水加入後は[4-4-2]の左サイドハーフとして出場。エイバル(スペイン)時代のような強度の高い守備と、緩急をつけたドリブルで攻撃にアクセントをつけている。

タメを作るボールキープやサイドチェンジのロングパスを披露するなど、生粋のドリブラーからプレースタイルを変貌させた34歳の元日本代表の存在感は大きい。

一方、加入前から人気ゲーム『ポケモン』の主要キャラクターと名前が同じであることが話題となったピカチュウ。名前ほど派手な活躍はないが、ブラジルではSBやWBを経験し、運動量豊富な彼は実直なプレーでチームに貢献している。

J1残留のキーマンとなるのは、3年ぶりの清水復帰を決断したFW北川だ。2018年には13ゴールを挙げた元日本代表は、エースのチアゴ・サンタナを補完するセカンドトップ起用が最適だ。

プレッシングサッカー発祥の地・オーストリアの強度では結果を残せなかったが、彼はチーム全体でボールを奪った直後、自然とフリーになって攻撃の起点となれるポジショニングセンスを持ち合わせている。

パサー不在でカウンター主体となるチームでは万能型FWの彼には、司令塔役とチャンスメイクを担ったうえで、点取り屋としての本領発揮が期待される。一人三役は重荷かもしれないが、ユース出身である彼のような存在がチームの危機を救ううえでは必要不可欠だ。

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シーズン途中ながらも、現場とフロントが一体となった清水エスパルス。まだまだ降格圏との勝点はわずかだが、彼らには近年見られなかったポジティヴな雰囲気が生まれている。現在は戦列を離れている鈴木唯人らのさらなる成長も含め、来季以降も楽しみチームだ。

J1残留の可能性は高い。

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