スタジオジブリ作品「となりのトトロ」と「火垂るの墓」は同時上映だった!  宮崎駿監督作品「となりのトトロ」金曜ロードショーにて放送!

スタジオジブリの国民的アニメ「となりのトトロ」と「火垂るの墓」

『となりのトトロ』を観ていると『火垂るの墓』を想い出す。その逆も然りなのだが、それは2作品が僕のなかではひとつのセットになっているからだ。“トトロ” が “ホタル” と同時劇場公開作品だったことが語られることは少なくなった。

『となりのトトロ』(原作・脚本・監督:宮崎駿)がジブリ世代の親が子供に見せる作品としてすっかり定着。『火垂るの墓』(原作:野坂昭如 / 脚本・監督:高畑勲)は戦争を伝える教材にもなり、終戦記念を迎える夏にテレビで放映されることがもはや定番。それぞれが、昭和の日本を舞台にした長編アニメーションとして追随を許さない評価を経て、ともに国民的アニメとして愛され続けているからだろう。

過日の夕食時、そんな経緯をあらためて自分でも再確認するように劇場パンフレットを片手に声に出して子供たちに説明していると、この春で高校3年生の生まれながらシネマコンプレックス世代の長女が今では少ない “同時上映” に驚きながら、「で、どっちが先に上映だったの?」と素朴な疑問顔。「えっと “ホタル” が先…… あ、違う。お父さんがスクリーンで観た時は、たまたま “トトロ” が後になったんだ。でも、その順番には意味があったのかもしれないねぇ」(自然と糸井重里風に)。

宮崎駿のアニメ映画「となりのトトロ」当初は60分の中編作品だった?

『となりのトトロ』は、宮崎駿の原作・脚本・監督の長編アニメ映画としては『風の谷のナウシカ』(1984年)『天空の城ラピュタ』(1986年)に次ぐ作品として制作された。当初は60分の中編作品として進行していたが、単独での劇場公開が難しいと配給から判断され、検討中だった高畑勲監督の『火垂るの墓』との同時上映することで公開に繋げている。

今でこそ、映画は指定席で観ることが当たり前となっているが、33年前の公開当時はまだ総入れ替え制の立ち見なしの “シネコン” という概念はなかった。好きな時に映画館に入り、好みの席に座り、好きなだけ思う存分に館内にいられた(洋服や荷物が置いてある席は侵略しないのが暗黙の了解)。

角川映画のファンでもあった僕は、薬師丸ひろ子 / 原田知世の豪華伴配セット『Wの悲劇』『天国にいちばん近い島』(1984年)はそれぞれ2回以上観て、スクリーンの前で半日を過ごしている。

子どもの時にしか会えない不思議な生き物トトロと姉妹の不思議な交流

1988年のGW。『となりのトトロ』を鑑賞。昭和30年代前半の埼玉・所沢あたりが舞台らしい。山、川、畑、たんぼ、うっそうと木の生い茂る神社。その頃にはきっと日本のどこにでもあったような緑豊かな景色がスクリーンいっぱいに広がる。自然いっぱいの土地に引っ越してきた草壁一家の姉サツキ・メイ姉妹が、子どもの時にしか会えないと言われる不思議な生き物トトロと出会い、思いもかけない冒険をするファンタジー。

姉妹とトトロとの愉快な交流をみていた自分の頭をよぎったのは、数時間まで同じスクリーンに映し出されていた『火垂るの墓』の清太・節子の姿だった。戦争で親を失った14歳と4歳の兄妹が体験するあまりにも残酷な悲話。あの惨状が、同じ日本、同じ昭和、それもメイがまっくろくろすけを追いかける平和な時代からわずか10数年前の話だったということを理解することは容易できなかった。

節子とメイはくしくも同じ歳。節子は神戸の都会っ子だから仕方ないけれど、あの暗い洞窟じゃなくて森にいけばメイのようにトトロに出逢えたのかなぁ。メイが遊んでいた川は澄んでいるからきっと夜にはホタルが飛んでいるんだろうなぁ。もし順番を逆から鑑賞していても同じように想いになったかどうかは今となってはわからない。

忘れものを、届けにきました。―― 時代も世代も超えて広がる受け取り先

宮崎駿監督は、公開時の劇場パンフレットに『となりのトトロ』を目指すものは、幸せな心温まる映画だと寄稿している。楽しい、清々した心で家路をたどれる映画だと。恋人達は愛おしさを募らせ、親たちはしみじみと子供時代を想い出し、子供たちはトトロに逢いたくて、神社の裏の冒険や樹のぼりを始める、そんな日本が舞台の楽しい素敵な映画を作りたかったと。

夕食後、子供たちに促されて本棚から『火垂るの墓』の劇場パンフレットも取り出す。“トトロ” と “ホタル” のパンフは別々に販売されていたが、裏表紙のコピーが一緒だったことを初めて知った。もしかしたら忘れていたのかもしれない。トトロを追いかけるメイの画と、ホタルに包まれた節子の画には、同じ言葉がかかっていた。

 忘れものを、届けにきました。

昭和、平和、令和……。時代も世代も超え、受け取り先は、まだまだ無限に広がっていくような気がする。

※2021年4月16日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 安川達也

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