経常黒字1社、赤字39社 三セク鉄道の2021年度業績まとまる

平成筑豊鉄道の観光列車「ことこと列車」(写真:ninochan555 / PIXTA)

今回は毎年一回、この時期に取り上げている第三セクター鉄道の近況です。全国の三セク鉄道が加盟する、第三セクター鉄道等協議会(三セク協)の2021年度輸送実績と経営成績がまとまりました。2020年からのコロナ禍で、全国の鉄道会社は大きな影響を受けましたが、ほとんどが地方ローカル線という三セク協会員も苦戦を強いられます。

ただ、会員各社を合計した輸送量は回復。2020年度は40社すべてが経常赤字だったのが、2021年度は福岡県の平成筑豊鉄道が1100万円の黒字を確保するなど、わずかながら復調の動きも読みとれます。今回は三セク鉄道の近況をご紹介します。

国鉄改革で誕生した三セク鉄道

現在、JRのローカル線問題が社会的論議を呼んでいます。線区・区間単位の輸送密度(1日1キロあたりの平均輸送人員)を指標に、鉄道を存続させるのか、それともバス転換するかなどを協議するのが、国の考え方の基本です。この手法は1980年代後半の国鉄改革時にも採用されていました。

三セク鉄道とは、公的資本が入った半官半民の鉄道。国鉄からJRへの移行期、国鉄再建法(通称)を根拠に、「民間企業のJRは、採算の取れない地方ローカル線は経営できません。沿線自治体が設立する三セク鉄道が引き継ぐか、バス転換するかの判断は、地元の皆さんにお任せします」とされ、その結果、多くの三セク鉄道が誕生しました。

国鉄からJRへの移行期、国鉄再建法(通称)を根拠に、「民間企業のJRは、採算の取れない地方ローカル線は経営できません。沿線自治体が設立する三セク鉄道が引き継ぐか、バス転換するかの判断は、地元の皆さんにお任せします」とされ、その結果、多くの三セク鉄道が誕生しました。

※注:厳密には東京メトロや北大阪急行電鉄などにも公的資本が入りますが、ここでは三セク協に加盟する、国鉄の地方交通線や整備新幹線の並行在来線を引き継いだ路線のみを三セク鉄道として扱います。青い森鉄道も第三セクター方式ですが、三セク協ではなく日本民営鉄道協会(民鉄協)に加盟しているため、本稿で扱うデータ等には含まれません(鉄道チャンネル編集部)。

「あまちゃん」の三陸鉄道など多士済々

全国の三セク鉄道路線図。北海道から九州まで、各地にまんべんなく路線があります(資料:第三セクター鉄道等協議会)

三セク協会員の鉄道は40社。内訳は、国鉄の特定地方交通線を引き継いだローカル鉄道が33社(国鉄の経営悪化を受け、建設途中から地元が引き継いで開業した鉄道を含みます)、整備新幹線の開業時にJRから経営分離された並行在来線を運営する鉄道が7社です。

前者には朝の連続テレビ小説「あまちゃん」に架空の北三陸鉄道として登場、観光人気を集める岩手県の三陸鉄道、線路と道路の両方を走れるDMV(デュアル・モード・ビークル)を営業運転する徳島県の阿佐海岸鉄道などがあります。

後者は北海道新幹線開業で並行するJR江差線を引き継いだ北海道の道南いさりび鉄道、九州新幹線鹿児島ルートの並行在来線・JR鹿児島線を承継した熊本・鹿児島県の肥薩おれんじ鉄道などです。

輸送人員は39社合わせても東京メトロの25分の1以下

東京メトロ有楽町線・副都心線を走る17000系(写真:鉄道チャンネル編集部)

会員39社を合計した、2021年度の年間輸送人員は7451万人(1000人単位で四捨五入)。2020年度は6924万人で、実数で527万人、率で7.6%増加しました。会員数が40社なのに実績が1社少ないのは、京都府と兵庫県にまたがる北近畿タンゴ鉄道の特殊要因。タンゴ鉄道は経営の上下分離で、列車運行をWILLER TRAINS(京都丹後鉄道)に移管したため、輸送実績がありません。

7451万人の輸送実績といわれても実感がわきませんが、参考値が東京メトロの輸送実績。メトロの2021年度輸送人員は19億378万人(定期と定期外の合計)。三セク39社あわせても、メトロの25分の1以下です。

40社合計の決算は126億円の経常赤字

次に決算。タンゴ鉄道を加えた、会員40社全体の経常赤字額(鉄道事業に関連事業を加えた数字)は126億3900万円で、2020年度の122億2000万円に比べ4億1900万円悪化しました。全体輸送量が増えたのに決算が悪化したのは、一部鉄道が災害復旧費を計上したのが主な理由です。

2020年度は40社すべてが赤字でしたが、2021年度は平成筑豊鉄道がただ一社、1100万円の黒字を確保しました。同社にうかがったところ、補助金の受け入れ時期変更が黒字化の主な理由。経営環境が厳しいことは変わりません。

夏休み後半、そして秋の行楽シーズンには三セク鉄道に乗り鉄しましょう。東京から日帰りできる路線には、千葉県のいすみ鉄道、茨城県の鹿島臨海鉄道、大阪からは滋賀県の信楽高原鐵道、兵庫・鳥取県の智頭急行などがあります。

記事:上里夏生

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