「線状降水帯」広まるきっかけ 77人犠牲の広島土砂災害から8年 ~名付け親の研究者が語る予測に必要なこと~

■「線状降水帯」が一般にも広く知られるきっかけ

2014年8月20日未明、広島市の北部を局地的な猛烈な雨が襲いました。県が安佐北区に設置していた雨量計では1時間雨量130ミリを観測(2:50~3:50)。

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特に安佐南区や安佐北区の一部の非常に狭いエリアでは、猛烈な雨が2~3時間続き、3時間雨量は最大で230ミリ以上に達しました。

山の斜面に広がる住宅地は、相次いで発生した土石流に飲み込まれ77人が犠牲となりました。

この記録的な集中豪雨をもたらしたのが「線状降水帯」です。

■2000年ころに登場した比較的新しい言葉

線状降水帯に関する研究の第一人者で、気象庁気象研究所 台風・災害気象研究部の 加藤 輝之 部長です。
「線状降水帯」の名付け親で、一般に広く知られるきっかけを作った研究者です。線状降水帯という言葉はどのようにして誕生したのでしょうか。

―気象庁気象研究所 加藤 輝之 博士
「『線状降水帯』という言葉自体は九州の地形がキーとなって発生するような、線状に延びた降水域がどうしてできるかについて研究をしていた、気象研究所のメンバーの間で使われ始めた。それが2000年前後くらい。」

ー気象庁気象研究所 加藤 輝之 博士
「2004に新潟・福島で大雨があったり、同じ年に福井で大雨があったり、それが線状に延びた降水域で災害が引き起こされた。」

「地形に影響したものだけではなくても大雨になる事例が多く確認され、今、使われている意味合いで線状降水帯と呼ぶようになった」

■2007年に初めて定義 「災害」との関連を意識

2007年に加藤さんが研究者向けに執筆した教科書「豪雨・豪雪の気象学」。この中で初めて「線状降水帯」を定義しました。

その際、加藤さんが強く意識したのが「災害」との結びつきでした。

―気象庁気象研究所 加藤 輝之 博士
「線状降水帯の『線状』と『帯』は、ほとんど同じような意味合いだが、細長く延びるという、意味がダブっている言葉なので変だという指摘もあるが、やはりそれだけ強調できる言葉。」

「本当に集中して帯の所に大量に雨が降るんだという、危険なものだという意図を汲んでほしいと思い名付けた。」

■広島土砂災害が広く知れ渡るきっかけに

8年前に広島を襲った線状降水帯は、典型的な、教科書に載せられるようなものだったという加藤さん。

その猛烈な雨がもたらした甚大な被害を目の当たりして大きな衝撃を受けました。

ー気象庁気象研究所 加藤 輝之 博士
「広島の土砂災害が非常に大きくて、研究するうえで、線状降水帯と土砂災害を結び付けて、災害に直結するものだというのが非常に鮮明になった。」

■広島の災害きっかけに線状降水帯主体の報道に

災害の直後に気象研究所が報道向けに発表した集中豪雨の解説資料です。

タイトルに加藤さんが「線状降水帯」という言葉を入れたことが、一般にも広く知られるきっかけとなりました。

ー気象庁気象研究所 加藤 輝之 博士
「やはり同じ所で数時間、大雨が続くことが非常に危険」

「広島の場合は、豊後水道から大量の水蒸気が入って、山口と広島の県境の山がトリガーとなって発生する。風上側で新しい積乱雲が次々と発生して、それが一つのかたまりとなって、また次のかたまりができて線状降水帯が形成される。手本みたいな非常にわかりやすい」

「広島での大雨を契機に報道でも線状降水帯が主体となる報道に変わっていった」

■英語表記もSenjo-Kousuitai 2017年には流行語大賞ノミネートも

日本語以外では適切な訳はなく、英語の論文などではそのままSenjo-Kousuitaiと表記されるという線状降水帯。

毎年のように大きな被害が繰り返される中で、人々の関心はさらに高まっています。2017年には、福岡県や大分県に甚大な被害をもたらし、線状降水帯はその年の新語・流行語大賞にノミネートされました。

■高まる期待や関心、困難な予測

2020年7月、熊本県を中心に球磨川が氾濫するなどして甚大な被害につながった線状降水帯による集中豪雨。

気象庁は、前日夕方の時点で、予想雨量を多い所で24時間200ミリと予想していましたが、実際には予想の倍となる400ミリを超えた地点が続出しました。

■日本で起こる集中豪雨の3分の2が線状降水帯

台風周辺で発生するモノを除くと、日本で起こる集中豪雨のおよそ3分の2に、線状降水帯が関係しているといいますが、一方で、事前の予測が非常に難しいことが大きな課題です。

ー熊本の豪雨直後 気象庁長官(当時)の会見
「前日の夕方、夜の段階でも、通常の大雨警報を超えるような災害の可能性が極めて高い状況は想定されていなかった。我々の実力不足。線状降水帯の可能性を想定することは非常に難しい。」

■取り組みを強化 半日前の予測情報スタートも…

気象庁は、今年度から観測や予測の精度を上げるための取り組みを強化。大学や研究機関と連携して技術開発や研究を進めています。

この夏からは半日前からの「予測情報」の提供をスタートさせました。

ただ、現状では予測の「的中率」は4回に1回程度。また、予測情報を出していないのに、実際に線状降水帯が発生してしまう「見逃し」も3回に2回程度あります。

今月はじめ、日本海側に大きな被害をもたらした線状降水帯も、事前に予測情報は発表されませんでした。

―気象庁気象研究所 加藤 輝之 博士
__「 海上で次から次へと発生する。そこに地形もなにもない。どうしてそこで発生するのか前線があっても前線のどこで発生するのか」
「発生しやすい条件、必要条件はある程度分かっているけれども、何が重要で、さらに積乱雲が 次から次へと発生するが、それがいったい何が決め手なのか、まだ十分わかっていない」__

■2029年、半日前にピンポイントでの予測に必要なものは

8年前の広島土砂災害をきっかけに、防災面のキーワードとしても大きな意味を持つようになった線状降水帯。

ー気象庁気象研究所 加藤 輝之 博士
「まさしく防災面でのキーワードとして線状降水帯という言葉が使われ、世間一般の人もそういう意味合いで、それを認識してくれているのは、私が定義した意図通り使ってもらっている。」

気象庁は、2029年に市町村単位で半日前にピンポイントで予測することを目標にしています。

予測精度の向上には、何が必要なのでしょうか。

ー気象庁気象研究所 加藤 輝之 博士
「予報モデル自体がまだ十分予測できていないのもあるし、過剰に予測しすぎるのもあって、最終的には人間が判断しないといけない。」

「どういう基準で判断すれば、より発生しやすい条件になるか、もっと詰めていく。こういう時はどうかというような知見の蓄積がたまれば、情報の精度が上がっていくと期待している。」

取材:RCCウェザーセンター 気象予報士 岩永 哲

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