ソフトバンクGが3兆円超えの日本企業過去最大の赤字−−投資家はこの巨額赤字をどう捉えるべきか

8月8日(月)にIT大手のソフトバンクグループ(9984)が、2022年4-6月期の連結決算の最終損益が3兆1,627億円の赤字となったことを発表しました。この最終損益の額は、日本企業の四半期決算としては過去最大となりますし、前期と合わせて赤字は5兆円を超えています。

世界的な投資企業であるソフトバンクグループは、ユニクロを展開するファーストリテイリング(9983)や電気メーカーのファナック(6954)と、日経平均株価の寄与度御三家と呼ばれていますが、この巨額の赤字をどう考えていけばいいのか、今回はお伝えします。


巨額の赤字はビジネスが傾いたからではない

結論からお伝えしますと今回の赤字は、2016年10月にソフトバンクグループが設立を発表した超巨大ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」の投資先企業の株価下落が要因です。テック株やユニコーン企業の株価も大きく下落しており、4-6月期におけるビジョン・ファンド事業の投資損失は2兆9,191億円となっています。

ソフトバンクグループの公式サイトによれば『ソフトバンク・ビジョン・ファンド1(SVF1)およびソフトバンク・ビジョン・ファンド2(SVF2)は、「ユニコーン」(投資時において企業価値が10億米ドル以上と推定される未公開企業)を中心に、テクノロジーの活用により各分野をリードする成長企業への投資を通して、AI革命を推し進めています。 その世界規模のリーチ、比類なきエコシステム、そして長期的視点に立った資金提供により、 起業家が革新的なビジネスを展開していくことを支援しています。』とのことですが、10兆円という巨額の資産規模のテクノロジー関連株ファンドとして世界に衝撃を与えたのがビジョン・ファンドです。

つまり今回の赤字は投資の評価損なので、ソフトバンクのビジネスが傾いたからということではありません。株価は決算発表のあと下落したものの、結局その後値を戻しています。

ソフトバンクグループとソフトバンクの関係性

ソフトバンクグループの子会社で有名というと、やはり通信・IT企業のソフトバンク(9434)でしょう。ソフトバンクは2001年にブロードバンド事業に参入、2006年にはモバイル通信事業に参入。日本で初めてiPhoneの販売したのもソフトバンクでした。

日本の通信サービスのリーディング企業の一つであるソフトバンクは、 「コンシューマ事業」「法人事業」「流通事業」「ヤフー・LINE事業」の4つの事業が柱となっています。
親会社のソフトバンクグループが投資会社であるのに対して、事業会社としてきっちり住み分けているといえるでしょう。会社組織で見ると、ソフトバンクグループは会長の孫正義氏が経営する親会社で投資会社であり、子会社がソフトバンクという形です。

ソフトバンクは携帯電話サービスやブロードバンドサービスのほか日本最大級のポータルサイト「Yahoo! JAPAN」、日本最大級のコミュニケーションサービス「LINE」、日本最大級のキャッシュレス決済サービス「PayPay」を運営しています。

携帯電話サービスは約3,900万ユーザー、「Yahoo! JAPAN」は約8,600万ユーザー、「LINE」は約9,200万ユーザーと日本最大級のプラットフォーム群を持っていることがわかります。事業基盤が強固で大きいことは強みと言えます。例えば2022年6月末で「PayPay」は4,865万人の登録者と加盟店数は374万カ所を超えるなど、さらにユーザーも拡大しているサービスもあります。

ソフトバンクの事業は堅調です。第1四半期連結累計期間でコンシューマ事業は物販等売上やモバイル売上の減少から減収となったものの、法人事業はDX需要増などが寄与、流通事業はサブスクリプションサービスの堅調な増加、ヤフー・LINE事業はコマース売上の増加やLINEの広告関連売上が好調であったことなどからそれぞれ増収となっています。

またソフトバンクグループ全体としてはキャッシュ・フローが潤沢であり、過去最大の赤字でも、今すぐグループ全体の先行きが見通せなくなるようなことはなさそうです。とはいえ、ではビジョンファンド、またソフトバンクグループが今後どうなのかというのが投資家の関心のあるところかと思います。

アリババ売却、正念場を迎えている

ソフトバンクグループは中国ネット通販最大手アリババグループの株式を23.7%保有していましたが、8月10日(水)に保有する株式の一部を手放すと発表しました。このことで、アリババはソフトバンクグループの関連会社から外れることになります。中国を代表する企業であり、これまでビジョンファンドの成功例といえたアリババですが、中国政府が締め付けを強めたことなどが逆風となっていました。

このたびのアリババの売却は財務を良好にするために行われたようで、孫正義会長は会見において守りに徹するべき時としており、人員削減やグループ企業の売却、新規投資の縮小などに努めるようです。イギリスのフィナンシャルタイムスが、保有するソフトバンクグループの株を米ヘッジファンドのエリオット・マネジメントがほぼ全て売却したと報じるなど、ソフトバンクグループはいま正念場を迎えたと言えるのかもしれません。

ただ、今のところ株価を見ると過度な懸念はされていないように見えます。これからの動向も注目してみてください。

8月15日週「相場の値動き」おさらい

8月19日(金)の日経平均株価は、前日比11円81銭安の2万8,930円33銭と小幅に続落。8月12日(金)の日経平均株価は2万8,546円98銭でしたので、週間では383円35銭の上昇となりました。

7月のFOMCでは市場予想通り2会合連続となる0.75%の利上げとなりましたが、今週発表された7月分のFOMC議事要旨で、いずれどこかの時点で利上げを減速することが適切であると判断されていることが示されており、そのことで利上げペースが減速するとの期待感、見通しが引き続き相場を支えています。

雇用や景気の堅調が続くなか、インフレが落ち着けば懸念されていたリセッションが、軟着陸にシフトするとの先行き楽観視が株高につながっているようです。

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