盲目少女をゲーマーが遠隔ヘルプ!? 密室スリラー『シーフォーミー』 “全員ギルティ”な濃厚キャラ!

『シーフォーミー』© 2021 SEE FOR ME FILM INC.

盲目の主人公がFPSオタクの遠隔指示で強盗とバトル

山奥の瀟洒な別荘でペットシッターのアルバイト……なかなか魅力的な仕事だ。しかし、視覚障がい者がこなすとなると楽な話ではない。目が見えない状態でサポートもなく、初めて訪れた家で過ごすのは大変だ。本作の主人公は盲目の少女ソフィ。彼女は負けん気が強く、人の助けを借りることを嫌い、何でも一人でこなしていた。今度のバイトだって、いつものようにサクっとこなせるはず……だった。

ところが、別荘に強盗団がやってくる。さすがに分が悪いと視覚障がい者サポートアプリ《シーフォーミー》を使い、元軍人のFPSゲームオタク、ケリーに助けを求める。彼女の協力を得て、強盗団を追い払おうとするソフィだったが、彼女にはある秘密があった……。

『シーフォーミー』は、家宅侵入(イントルーダー)ホラーにハンディキャップスリラーを加えた典型的なプロットだ。しかしながら、『暗くなるまで待って』(1967年)にスマホアプリを持ち込んだ、『ドント・ブリーズ』(2016年)に匹敵するサスペンスに仕上がっている。

被害者にも加害者にも同情できないキャラの濃さ!

監督のランドール・オキタと脚本家のアダム・ヨークが着目したのは、実際に存在するアプリ<Be My Eyes>だ。これは視覚障がい者補助アプリで、作中の《シーフォーミー》と同一のモノ。これを元に、FPSオタクがアプリ上でゲームのごとく障がい者をコントロールする様子は、ゲームのようには巧くいかない歯がゆさと、障がい者本人の焦燥が際立ち、非常に有効な効果を上げている。

さらに『シーフォーミー』は、キャラクターが濃い。ソフィの負けん気は前述の通り。パラリンピックのダウンヒル候補者に選ばれるほど優秀なのだが、いかんせん性格が悪すぎるのだ。とにかく同情されるとブチ切れ、母親には辛く当たり、障がい者であることを良いことに、金目の物をバイト先から盗み転売。とんだ悪人である。全く同情できない。さらに強盗団は雑な野郎の集団だ。ソフィが盲目と知るやいなや、油断の連続、ケリーとの連携で次々と追い払われていく。

容赦なく強盗団に向けて発砲を指示するケリーもそうだが、その指示に従って、ほぼ躊躇なく銃をぶっ放すソフィもソフィ。さすが、出先でモノを盗んでいるだけはある。さらに彼女は性格の悪さから、命の恩人であるケリーをも裏切る行為に出たりするからタチが悪い。

一見善良に見えるケリーも、軍人として致命的なミスを犯したためFPSゲームオタクになってしまったことも明かされ、登場人物は“全員ギルティ”といったとろだ。

これが『シーフォーミー』の詳細だ。先述の『暗くなるまで待って』+『ドント・ブリーズ』の「お前らみんな悪いなあ!」といったエキスをブチ混んだ感覚。さらに言うならば、ソフィは攻撃的な性格故に“絶対に犠牲者にならない”という確固たる深淵があり、映画を複雑化している。

“疑似FPS”はPOVに代わる新ジャンルとなるか!?

ランドール監督とアダムは、同ジャンルの過去作品にあった「奇妙な潔癖感」を取り払うために相当努力をしたと思われる。強盗団は何故アホなのか? 障がい者は本当にピュアな存在なのか? 強盗団の目的は人を殺すほど重要なものなのか?

マイク・フラナガンが『サイレンス』(2016年)でやったように、徹底したリアリズムを感じさせながら、FPSという遊び心を加えた本作は画期的な作品と言えるだろう。筆者としてはソフィも、日頃の態度から地獄行きだな! と断言したいところだが、それは観客の判断も伺いたいところだ。

まさに全員ギルティ! と声高に叫びたい『シーフォーミー』だが、ベタとは言え、スマホのバッテリー切れとの戦いや疑似FPSなど魅力的な要素が詰まっており、POV(一人称視点)に代わるジャンルとして新たに確立されるのではないか? という気もしている。

また、主人公ソフィを演じたスカイラー・ダベポートは実際に視覚障がいを持っており、その演技にも注目したい。

文:氏家譲寿(ナマニク)

『シーフォーミー』は2022年8月26日(金)より新宿バルト9ほか全国公開

© ディスカバリー・ジャパン株式会社