よみがえったよ…真っ白に…「あしたのジョー」原画を越前和紙で保存へ 福井県越前市でプロジェクト、複製原画が完成し展示

越前和紙で制作された「あしたのジョー」の複製原画=福井県越前市の卯立の工芸館

 不朽の名作として知られるボクシング漫画「あしたのジョー」(1967~73年連載)の原画を、福井県越前市の伝統工芸の越前和紙で保存するプロジェクトが立ち上がり、ちばてつやさんが描いたラストシーンの複製原画が完成した。雁皮(がんぴ)100%の原材料で漉(す)いた鳥の子紙の優れた耐久性を生かし、経年劣化が問題となっている漫画原画の保存に活路を見いだす取り組みとなりそうだ。複製原画は8月18日から、同市の卯立の工芸館で展示されている。

 漫画の原画の多くは、ケント紙などの洋紙が使用されてきた。洋紙は木材パルプに酸性の化学物質を加えて作るため、いずれ酸化などによる傷みが起きる。あしたのジョーの連載当時の原画も、約半世紀を経て劣化が進行。主人公の矢吹丈が燃え尽きた有名なラストシーンの原画にも、汚れや裂け目が生じていた。

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 プロジェクトは、ちばさんに作画用の鉛筆を提供したことがある材木店経営の田中保さん(68)=越前市=が、原画の劣化について相談を持ちかけられたのがきっかけ。約2年前から卯立の工芸館などと連携し、複製計画を進めてきた。

 越前和紙は、約1300年前に使用された文書が東大寺の正倉院に残されており、保存性の高さが以前から注目されてきた。複製原画には卯立の工芸館で手漉きした鳥の子紙を採用。天然素材の雁皮のみを使った和紙は、虫を寄せ付けず強くて丈夫で、劣化を防ぐ効果が極めて高いという。

 印刷は「富士フイルムビジネスイノベーション」(旧富士ゼロックス)が担当し、高精細カメラで撮影した原画のデータを落とし込んだ。田中さんは「今回の事業が日本の将来の漫画文化、紙文化、テクノロジーの発展に貢献することを願いたい」としている。

 展示するあしたのジョーの複製原画は4点。鳥の子紙でラストシーンの原画そのものの状態を再現したほか、劣化の傷みを取り除く加工を施したもの、別の種類の和紙を使用したものなどがあり、比較できるようになっている。合わせて制作された漫画家上田としこさんの代表作「フイチンさん」の複製原画も並ぶ。31日まで。

 今回の複製原画は、7月からチェコで開かれている国際芸術祭「ビエンナーレ・マタ・オブ・アート2022」にも出展された。海外での漫画人気の高まりなどを背景に、近年は原画の文化的価値が見直されている。ちばさんは2018年から日本漫画家協会長を務めており、越前和紙による保存の動きが広がることも期待される。

 県和紙工業協同組合の五十嵐康三理事長は「鳥の子紙の特長を新たな分野で生かしてもらえた。今後もさまざまな分野で活用につながればありがたい」と話している。

 あしたのジョー 風来坊の少年、矢吹丈(ジョー)がボクシングと運命のライバルとなる力石徹に出会い、プロボクシングで己の命を燃やしていく物語。原作者は梶原一騎の名で「巨人の星」や「タイガーマスク」を生んだ故高森朝雄さん、ちばてつやさんが作画を手がけた。「週刊少年マガジン」の1968年1月1日号から73年5月13日号まで連載。スポ根漫画の金字塔として熱狂的な人気を集め、テレビアニメも大きな反響を巻き起こした。

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