世界から人と投資が集積する 国際金融都市構想をめぐる官民の動向(上)

東京都が1980年代から長年にわたり目指してきた国際金融都市構想。2021年には税制改正が行われるなど、足元では再び取組みに対しての積極姿勢が見られる。ポイントは、指導者の交代や景気変動に過剰な影響を受けず、普遍的な街の豊かさを追求する構想であるという点。デベロッパー各社も都市の競争力強化、豊富な人材の呼び込みに賛同し、再開発を進める。官民一体の取組みについて、足元の状況と今後の展開を探った。

アジアで選ばれる拠点、東京へ

グリーンファイナンスでアジアのハブ目指す

世界の国際金融都市を比較する指数として最も参照される、グローバル金融センター指数(Global Financial Centres Index、GFCI)によれば、2022年3月版で東京は9位。アジアでは、香港(3位)、上海(4位)、シンガポール(6位)、北京(8位)の後塵を拝した結果だが、「アジアの上位都市は順位の変動が大きく、ほぼ横一線の状況と言ってもよい」(ニッセイ基礎研究所坂田紘野研究員)。かつて、ニューヨーク(1位)やロンドン(2位)と肩を並べた東京は、足元で約1900兆円の個人金融資産や、資金需要を持つ産業の存在が強み。例えば、域外間の金融仲介に強みを持つシンガポールとは異なり、実経済を背景とした国際金融都市の具現化を目指す。
課題は大きく3つ。1つは、言語の壁。金融庁は、海外資産運用会社等の日本進出に対して英語対応を行う「拠点開設サポートオフィス」を設置したが、職住のインフラまたは情報発信面で言語の壁は未だ大きい。2つ目は、巨大な個人金融資産の半分以上が預金・現金で保管され、投資へ回っていない現状。3つ目は、新興資産運用会社(EM)の少なさ。日本の機関投資家は、海外に比べてファンドマネジャー自身の実歴ではなく、企業のトラックレコードを投資判断の材料としており、実力あるプレーヤーの独立や海外からの進出を阻害する要因となっている。
アジアの金融拠点として再び確固たる地位を築くため、東京都は2021年11月、「国際金融都市・東京」構想2.0を掲げ、重点施策を定めた。内容は、グリーンファイナンス市場の発展、フィンテック活用による金融のデジタライゼーションおよび、資産運用業者などプレーヤーの集積の3点。政府も、海外人材を呼び込もうと2021年の税制改正において、法人課税、資産課税、個人所得課税の一部をついに改めた。また、2022年6月公表の骨太の方針における重点投資施策は、多くが都の施策と重なり、国を挙げての取組みが進む。国際金融都市・東京の魅力についての情報発信や政策提言を担うのは、2019年に設立された東京国際金融機構。日本初の官民連携金融プロモーション組織で、2021年度は主催含めて20以上のイベントへ参加するなど、国内外の投資家や資産運用会社らに積極的な情報発信を行うと同時に、プレーヤーらの意見を収集。そこから、東京都、金融庁など関係省庁、業界団体などに政策提言を行うという循環で、狙いと需要が一致した取組みを推進する。
同機構の横田雅之事務局長によれば、日本がアジア諸国に比べて優位性を持つのはグリーンファイナンス分野。特に、高環境負荷事業の脱炭素化を進めるトランジション・ファイナンスでは、「圧倒的に日本の金融機関の経験知・知識がアジアをリードしうる」(横田氏)状況で、アジアのハブとなれる可能性が高い。そこで、良質なグリーンボンド等を発行する日本企業へ多くの投資を呼び込むため、海外投資家へ訴求する手段も強化する。同機構は、東京都の補助金事業として東証グロース市場等に上場後3年以内で、かつ海外展開やESGに積極姿勢をとる企業を対象に、エクイティストーリーの構築支援、決算関連資料の英訳、海外投資家とのコミュニケーション術などをハンズオンで支援する。海外投資家のESG資金がより多くの日本企業に入り、今後グリーンボンド等のインデックス開発やそのインデックス連動のETF提供が実現すれば、安定運用を狙いたい個人資金が本格的に動き出す道筋も見えてくる。

世界から人と投資が集積する 国際金融都市構想をめぐる官民の動向(下)

不動産経済ファンドレビュー

© 不動産経済研究所