転職時の移換や社会保険給付の減少も…企業型確定拠出年金(企業型DC)だからこその注意点5つ

iDeCoやNISAといった国の制度への関心が高まる一方、会社の制度にはあまり興味がないという方も少なくありません。

今回は、会社員約800万人が加入する企業型確定拠出年金(企業型DC)のメリットと、その活用法について解説します。


企業型DCのメリットがわかりにくい訳

企業型DCは会社の制度なので、入社すれば人事から必要書類が渡され、「ここに記入して、いつまでに提出して」と指示され、なんだかわからないけれどやらなくてはいけないこととして加入します。

企業型DCは、会社が従業員に対し掛金を拠出しますが、このお金を従業員が手にすることはできません。直接会社が開設した確定拠出年金口座に入金されるため、「お金をもらっている感」が希薄です。

また「確定拠出年金口座」の残高を見るためには、自分でそのアカウントにアクセスしなければなりません。IDとパスワードは会社から支給されますが、これをなくしてしまう人も少なくありません。

自身のアカウントにアクセスできないという方は、当然運用先も自分で選んでいません。加入者が何も手続きをしないと会社が指定する運用商品が自動的に設定され、以後はその商品で運用が継続されます。指定される商品は会社によって異なりますが、だいたいは定期預金です。

定期預金に置きっぱなしにしているお金は、増えることはありません。やがて定年を迎え、DCの加入資格を失う段となり資金の受け取り手続きについて会社から説明を受けます。確定拠出年金の受取方には複数の選択肢があり、それぞれ課税の仕組みが異なるのですが、ここでも無関心であるがゆえに必要以上の税金を支払ってしまう人もいます。

これでは、「拠出時」「運用時」「受取時」で得られる確定拠出年金本来のメリットをまったく享受できていないことになります。特に、DCに想定利回りという従前制度と同水準を得るために設定された運用利回りが設定されているような場合は、想定利回りを下回れば、結果、従前制度を下回る受け取り額になってしまいます。

それでもiDeCoよりお得といえる企業型DCのポイント

給与には所得税、住民税、そして社会保険料がかかります。この負担率は報酬額によって異なりますが概ね20%だとすると、1万円の給与に対し手取りは8,000円だということになります。一方会社が拠出したお金を確定拠出年金の掛金として受取る場合、そこには所得税も、住民税も社会保険料もかかりませんので、1万円は1万円まるまる将来への貯蓄として受取ることができます。

企業型DCの掛金は、そもそも税金がかからないので、iDeCoのように年末調整で申請して税の還付を受ける必要もありません。企業型DCの場合、会社がすべて面倒を見てくれます。加入時に必要な書類も、掛金が変更された時の書類もすべて会社がお膳立てをしてくれます。記入しなければならない書類があったとしても分からなければ教えてくれます。

企業型DCでは、入社時の口座開設費用、口座の維持費も会社が負担してくれます。iDeCoであれば掛金からそれらの手数料が差し引かれます。そして何よりも、会社が拠出してくれる掛金は給与の上乗せの収入ですから、本当にありがたいお金です。

企業型DCだからこその5つの注意点とその対処法

注意点(1)
企業型DCが導入されて10年以上経過している会社の場合、商品ラインアップがあまり良くないケースもあります。確定拠出年金用に設定されている投資信託は、購入時の手数料がかからず信託報酬も低めなのですが、企業型DCの運用商品が世間にさらされる機会がないため、最近のコスト引き下げ競争から取り残されていることもあります。また運用商品が偏りすぎていて、効率的なポートフォリオが組めないような商品ラインアップのケースもあります。その場合はNISAや課税口座も含めた投資信託選びを考えましょう。

注意点(2)
企業型DCは勤めている会社独自の企業年金です。従ってその会社を辞める時は企業型DCを辞める時となります。とはいえ、60歳までは原則止められないのが確定拠出年金ですから、必ず次の会社の企業型DCかiDeCoに資金を移換しなければなりません。その際、企業型DCの投資信託はすべて売却され現金化されるということを理解している人はあまり多くはありません。知らずに会社を辞めてしまい、タイミング悪く投資信託が精算され、想定外の損失を抱えてしまうことがあります。

また精算後も放置していると、国の管理の下に「自動移換」されてしまい、その後は運用もされず、加入期間とも認められず、手数料だけを差し引かれるという悲惨な状況に陥ります。転職を考えている方は心得ましょう。

注意点(3)
会社が拠出する掛金が少額でマッチング拠出にうまみがないケースもあります。会社の掛金とは別に個人が拠出できるマッチングはiDeCo同様全額が所得控除となるので、ぜひ利用したいところですが、会社の拠出する掛金を上回ってはいけないというルールがあります。もし会社の掛金が数千円だという場合は10月から解禁になるiDeCoの併用加入を検討しましょう。この場合月20,000円まで拠出可能です。

iDeCo併用加入時のメリット・デメリットについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
参照:事前受付を開始したiDeCoと企業型DCとの併用加入、メリットとデメリットを解説

注意点(4)
会社が拠出する掛金を「給与として受取るか」「確定拠出年金の掛金として受取るか」が選択できるのが前払い退職金制度です。前述した通り、給与で掛金を受取ると税金と社会保険料が差し引かれた分のみが受取ですから、将来のためにお金を回したい方は、確定拠出年金を選ぶべきです。

しかし、確定拠出年金はいったん加入すると60歳までは資金の引き出しが原則できませんから、それを嫌う方は給与での受取を選びます。特に外国人の方など60歳までに母国に帰られる可能性のある方は、脱退一時金の要件が緩和されたとはいえ、かなり引き出し条件は厳しいので、給与を選ぶ方が無難かもしれません。

注意点(5)
会社からの掛金拠出がなく、自分の給与から掛金を拠出するタイプの「給与減額方式」の場合は、社会保険給付の減少も併せて判断しましょう。自分の給与から拠出する掛金は社会保険料の算定から外れるため、社会保険料負担が減ります。しかし結果として給付も減少してしまうのです。特に病気で長期療養が必要な際、会社員は健康保険から傷病手当金が支給されますが、給与減額方式で3万円拠出すると1日あたり666円手当が減少します。この手当は最長で1年6ヵ月支給されるものですから場合によっては老後の貯蓄をしたがために手当が減ってしまい生活が困窮するということも起こり得ます。

同様に出産手当金、育児休業給付金、介護休業給付金、失業時の基本手当、老齢厚生年金、遺族厚生年金、障害厚生年金等も影響します。会社によっては、残業代の計算の際に掛金分が含まれないところもあります。給付の減少等を避けるためには、iDeCoの併用加入を検討しましょう。給与減額で拠出した掛金は、登録上は会社の掛金とみなされるため、別途iDeCoで拠出が可能です。iDeCoであれば、上記のような各種給付の減少は抑えられます。

制度理解が重要

自分がいかに恵まれているかは他人から言われてはじめて気づくものかもしれません。しかし、置かれた環境はひとそれぞれ、まずは制度の理解を深めましょう。ただ確定拠出年金は与えられただけでは、何にもなりません。自らが資産運用の知識を深め行動を起こさなければ満足のいく結果にたどり着けない制度だということを認識することが非常に重要です。

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