佐野で桃窃盗相次ぐ 熟れる前の実が一晩で大量被害

実を盗まれた桃の木を確認する青木組合長=8月中旬、佐野市下羽田町

 栃木県内で収穫を控えた桃の大量窃盗事件が相次いでいる。産地の佐野市南部を中心に今年は例年を上回る8件が発生。盗まれた桃は計約4千個で、大半は熟れる前の青い実だ。一晩で大量の桃が消えるケースが多く、複数人での犯行との見方が強まる。販売しているとみられるが、そのルートは謎だ。果樹園は広く、防犯カメラや柵の設置が難しい面があり、県警はパトロールを強化。不審車両を目撃した際の通報を呼びかけている。

 「まさかこんなに一気に…」。5日早朝、佐野市内の果樹園の様子を見に来た野村和雄(のむらかずお)さん(75)は、枝を見渡し言葉を失った。前日夕方まであった約2千個の実が消えていた。

 通常なら2千個の収穫は、2人で作業して半日はかかる。盗難直後の園内に踏み荒らした跡や枝の損傷は少なかった。近くの道路には数個の実が落ちていた。

 「慣れた犯人の仕業だ。道路に車を止め、複数人で運び出したのだろう」。野村さんは肩を落とした。

 県警によると、桃窃盗の認知件数は20年が5件、21年が2件。今年は佐野市7件、那須塩原市1件の8件発生。被害額は計128万円相当に上る。被害に遭った大半は、20を超える桃の直売所が点在する「佐野フルーツライン」の周辺だ。

 直売組合の青木繁喜(あおきしげき)組合長(62)によると、数年前から一度に100個以上の大量窃盗が起き始めた。「多忙で警察に届け出ない人もいる」と明かす。

 県警や関係者は、複数人が夜間に車で乗りつけ、犯行に及んでいるとみている。佐野市南部を東西に走る国道50号で、他県と行き来している可能性もある。

 犯人は大量の桃を販売しているとみられるが、ルートは判然としない。東南アジアでは青い実を塩漬けにすることがあるといい、ある捜査関係者は「外国人コミュニティー内に販売ルートがあるのではないか」との見方も示す。

 被害に遭った果樹園の多くに防犯カメラや柵はなかった。敷地が広く、設置が難しい面があるという。事件後に、センサーライトを導入したり、立ち入りを警告するメッセージを掲げたりした農家もいる。

 桃の収穫は8月で終わり、梨の季節に移る。県警は「旬の果物は野菜より単価が高く狙われやすい。果樹園付近で不審車両を見かけたら、すぐに通報してほしい」としている。

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