倉敷美観地区にある大原家の旧別邸「有隣荘(ゆうりんそう)」。
ふだんは非公開ですが、2022年8月19日から28日まで夜間に特別公開されています。
有隣荘の2階から倉敷美観地区の夕景・夜景が見られるのは、かなり貴重な機会。
ライトアップイベント「ハートランド倉敷」と合わせて訪れてほしいイベントです。
有隣荘の夜の特別公開「一期一景(いちごいっけい)」を紹介します。
有隣荘とは
有隣荘は、倉敷の経済と文化に大きな影響を与えた「大原家」の旧別宅です。
1928年(昭和3年)、大原家七代目当主・大原孫三郎(おおはら まごさぶろう)が、病弱な妻のために建設しました。
とくに以下が見どころです。
- 特殊な釉薬(ゆうやく)を使った屋根瓦
- 薬師寺主計(やくしじ かずえ)・伊東忠太(いとう ちゅうた)による和洋折衷の建築
- 近代日本庭園の先駆者「七代目 小川治兵衞(おがわ じへい)」による庭園
1935年(昭和10年)からは大原美術館の所有となり、迎賓館(げいひんかん)として利用されてきました。
昭和天皇をはじめ、多くの貴賓(きひん)を迎えてきた邸宅です。
有隣荘の特別公開
有隣荘は普段は非公開となっています。
1997年から2019年までは、春と秋に数日間、大原美術館主催の特別展示会場として有隣荘内部が公開されてきました。
しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で、2020年春からは特別公開を中止。
今回の特別公開「一期一景」は2019年秋以来、約3年ぶりの特別公開です。
倉敷市美観地区一帯で繰り広げられるライトアップイベント「ハートランド倉敷」の期間に合わせて、夜間公開します。
夜の特別公開 有隣荘「一期一景」の概要
夜の特別公開 有隣荘「一期一景」日時・金額は、以下のとおり。
感染拡大防止のため1日の受入人数上限を設けており、荘内混雑時は受付で待つ可能性があります。
少ない人数だからこそ、ゆったりと建物を堪能できますよ。
特別公開の主なポイントは、以下の3つです。
- 有隣荘2階からの夕景
- ウェルカムドリンク
- SPレコードで聴く音楽
もう少し詳しく紹介しましょう。
有隣荘2階からの夕景
倉敷川に面した有隣荘。
2階には広い窓があり、倉敷美観地区を見下ろせます。
昔は大原家の人しか見られなかった、特別な景色です。
これまで春・秋の特別公開の時期のみ、昼に倉敷美観地区を眺めることができました。
しかし、有隣荘からの「夕景」は、これまでほとんど公開されていません。
実は2007年に1日だけ一般公開したことがあるそうなのですが、突然の雷雨により、ごく短時間しか夕景を見られなかったそう。
それ以外は、ごくわずかな回数クローズイベントを受け入れた程度。
夜の特別公開 有隣荘「一期一景」は、「ふらっと訪れて有隣荘からの夕景を見られる」貴重な機会なのです。
取材日は会期の前日で、「ハートランド倉敷」実施前でした。
実際の会期中は、よりライトアップされた倉敷美観地区の夕景が見られることでしょう。
明治・大正期の最高の庭師といわれる「七代目 小川治兵衞(おがわ じへい)」の庭も楽しめるよう、庭はLEDキャンドルによってライトアップされています。
ウェルカムドリンク
本イベントでは、倉敷の商店街と総社市でワインスタンド/ワインショップを営む「いときち」が、ウェルカムドリンクを提供。
以下の2種のいずれから、1杯を選んでください。
- オーガニック白ワイン
- domaine tetta の岡山県産葡萄(ぶどう)ジュース
有隣荘の台所でドリンクを受け取り、洋間で庭やライトアップされた大原美術館を見ながら、ゆったりドリンクをいただけます。
筆者はdomaine tetta の葡萄ジュースをいただきました。
domaine tetta(ドメーヌテッタ)は、岡山県新見市哲多町にある、石灰岩の土壌を持つワイナリーです。
葡萄ジュースは、濃厚でしっかりした果実感。
どちらを選んだ人からも「おいしい」と感想が聞こえてきました。
SPレコードで聴く音楽
1階の洋間では、大原家が以前所有していたSPレコードを、ピクニック用のポータブルレコードプレーヤーにて再生します。
SPレコードとは、レコードが登場したばかりの頃である1800年代末から1950年代末までに流通した78回転の蓄音機用レコードのこと。
大原美術館創立者の大原孫三郎(まごさぶろう)の跡を継ぎ、実業家としても躍進した長男の大原總一郎(そういちろう)は、大の音楽好きでした。
多数のレコードを持っていただけではありません。
市民がレコードを広く楽しめる施設「音楽図書室」建設のため倉敷市に1,000万円を寄付し、約2,000枚のクラシックSPレコードを寄贈しました。
▼詳しくは、以下の記事を見てください。
会場には、以下の説明がありました。
有隣荘が、かつて迎賓館の役目を担っていた当時の雰囲気を演出しております。大原美術館では、昭和25年の創立20周年より、大原孫三郎の息子大原總一郎のもと、美術館でのコンサートをはじめました。この美術と音楽の融合は、總一郎にとっては最高の楽しみの一つだったのです。音楽好きの總一郎が集めたSPレコードの特に好きだった曲、みなさまに耳馴染みのある曲をご紹介します。
昭和初期の建築空間に響く、SPレコードの音。
あたたかみがある優しい音で、古い映画を見ているような郷愁を感じます。
著者はこれまでレコードを聴く機会がほとんどありませんでしたが、日常でレコードを聴きたいな、レコードを買いたいなと思うほど魅力的!
目でも耳でも昭和初期の雰囲気を感じられ、「タイムスリップしたみたい」なんて声も挙がっていました。
その他のポイント
荘内は撮影も可能です。
ただし、三脚などの大掛かりな荷物は持ち込みできません。
また、著作権の切れていない作品の展示もあります。
著作権についての注意書きのある作品は、撮影した写真は個人で楽しむのみに留めてください。
大胆な筆遣いの掛け軸は、躍動感と色使いがとても素敵なんです!
ぜひ実際に見て確かめてください。
また、エアコンのない建物なので、うちわの貸出を行なっています。
風情のある上質なうちわで、レトロな気分が高まりました!
大原美術館スタッフからのコメント
夜の特別公開 有隣荘「一期一景」の見どころについて、大原美術館の石井啓太(いしい けいた)さんに話を聞きました。
──夏の一般公開で、何を一番楽しんでもらいたいですか?
石井(敬称略)──
通常非公開である有隣荘に入っていただけること、そして有隣荘から夜の景色です。
これまで、有隣荘の2階から夕景を見られたかたは、わずかしかいらっしゃいません。
お子様からご年配のかた、地元のかたから観光客のかたまで、幅広くドリンクを楽しみながらノスタルジックな気分を味わっていただけたらと思います。
──かつての大原家の雰囲気を想像して楽しめそうですね。
石井──
過去の写真パネルも置いていますので、景色だけでなく写真も見て「昔はこんな感じだったんだ」と思いを馳せていただけたらと思っています。
夜の有隣荘を訪れよう
有隣荘は、限られた期間しか訪れることができない建物。
迎賓館として使われるほどの優雅さがありながら、「愛する妻が療養できる穏やかな邸宅を」との願いも込められているためか、優しい雰囲気も感じられます。
貴重な倉敷の夕景を、この機会に眺めてみてください。
夜にしか出会えない倉敷の魅力を、きっと見つけられることでしょう。