「バスが来ましたよ」 絵本のモデル山﨑さんがサイン会

「サイン会」で絵本にスタンプを押す山﨑浩敬さん(右から2人目)=和歌山県串本町串本で

 進行性の目の病気から全盲になった男性が、地元の小学生に助けられながら長年バス通勤を続けてきた実話を基にした絵本「バスが来ましたよ」で、主人公のモデルになった和歌山市職員、山﨑浩敬さん(60)=和歌山市=の「サイン会」が21日、和歌山県串本町串本のWAY書店串本店であった。同町は山﨑さんが高校卒業まで育った古里。同級生や家族連れら約50人が来場し、絵本の読み聞かせを聴いたり、山﨑さんと交流したりした。

 山﨑さんは同町伊串出身で旧養春小学校、西向中学校、旧古座高校を卒業後、近畿大学に進学。民間企業を経て、和歌山市役所で働いていたが、1994年に難病「網膜色素変性症」と診断された。その後、徐々に視力が低下し、2005年には仕事を休職して視覚障害者のリハビリテーション施設で訓練を1年間受け、翌年に復帰した。気を張り詰めながらバスで通勤していたところ、同じバスで通学していた和歌山大学付属小学校の児童が「おはようございます」と声をかけ「バスが来ましたよ」と小さな手を添えて山﨑さんを誘導。その児童が卒業しても下級生がサポートを続け「あたたかな小さい手のリレー」は同校の児童に受け継がれているという。

 絵本「バスが来ましたよ」(文・由美村嬉々、絵・松本春野)は今年6月下旬に、アリス館から発売。40ページで、価格は1540円(税込み)。

 同店を訪れた山﨑さんは「子どもたちのことを世間に広く知ってほしくて作文コンクールに応募し、それが報道され、それを見た由美村さんが絵本にしてくれた。障害を持ってから串本に戻って来るのが好きではなかったが、こんな形で戻って来られたことをうれしく思っている」とあいさつ。絵本の読み聞かせをしている「ぶっくらぶ串本」のメンバーである加来和子さん(79)が絵本を朗読した後、来場者が購入した絵本に山﨑さんが「ありがとう」という言葉や似顔絵などが描かれたスタンプを一つ一つ丁寧に押した。来場者は「感動しました」「一冊は自分の宝物にして、もう一冊は学校に寄付したい」「これからもお互い頑張ろう」などと山﨑さんに声をかけ、固い握手を交わす場面もあった。

 参加した串本町古座小学校2年の堺陽葵さん(7)は「小学生が、目が見えない人をバスに安全に乗せたのはすごいと思った。困っている人がいたら助けてあげたいと思う」と話した。

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