国内200城巡り挑戦 障害者活躍できる社会へ訴え 横浜在住の全盲男性

小田原城を巡った時の西郷さん=2021年4月(西郷さん提供)

 全盲の西郷光太郎さん(45)=横浜市中区=が、国内の城200カ所を巡る挑戦を続けている。30代半ばで両目の視力を失った西郷さんが望むのは、障害者がそれぞれの能力を生かして活躍できる社会。旅先で出会う人々との交流を通して、「視覚障害者は、目が見えないこと以外は変わらないと知ってほしい」と訴えている。

 歴史好きの西郷さんが巡るのは、「日本城郭協会」が選ぶ「日本100名城」と「続日本100名城」の計200城。身体障害者で200カ所を達成した人はいないと同協会から聞き、2020年の年末に挑戦を決意し21年4月にスタートした。ヘルパーやボランティアの協力を得ながら、これまでに小田原城や名古屋城など計25カ所を訪れた。

 「ただチャレンジするだけではつまらない」と、自作した総重量12キロの甲冑(かっちゅう)を身にまとって巡っている。

 「こんなに重いものを着て、武器を持って戦うってどんな感じだったのだろう」と中世の武士に思いはせながら足を運ぶ。

 全盲の西郷さんにとって、城の壮観を見ることはできない。しかしそこにこそ、醍醐味があると語る。

 「ガイドの説明を聞き、天守、瓦や壁の色などを想像し、自分の頭の中で地図を描き、組み立てながら歩く」。石垣に触れ、先人の知恵を感じたり、城を攻める側と守る側それぞれの立場に立って考えたりするのも城好きならではの楽しみ方だ。

◆絶望からの転機

 西郷さんが失明したのは11年。IT関連の仕事に就き、毎日14~16時間パソコンに向かい神経を使う生活を続けていた。目の酷使は西郷さんに決定的な結果をもたらした。人の姿がS字にゆがんで見えるようになり、糖尿病の症状や緑内障、網膜剥離を発症した。間もなく目が見えなくなった。

 境遇に絶望し、2年ほど引きこもった時期もあったが「一歩外に出てみよう」とボランティア活動に取り組んだ。鎌倉市内のゲストハウスで、利用者に市内の歴史的名所を案内するツアーのガイド役を務めたのをきっかけに歴史の猛勉強を始めた。武士が活躍する中世に興味を抱き、城を巡るようになった。

◆無関心から理解へ

 全国を巡り、視覚障害者の来訪を受け入れる体制が整っていない施設も多いと西郷さんは実感する。

 「1人で来てけがをされたら困る」と言われた時には言葉を失った。「来ないで」と言われているように感じ、歩けないわけではないのに車いすの使用を求められると、「それは果たして正しい解決方法なのか」と疑問を抱いた。

 以前、求人に応募すると、企業の担当者からは「視覚障害者は何ができるか分からない」と言われたことさえあった。

 「障害者について知らないから怖いと感じ、無関心になる。関わりを持てば、何ができて何ができないか分かるはず」

 いつかは障害者だけの会社を立ち上げ、ゲストハウスを開きたいという夢を抱く。「『障害者だからできない』ではなく、適材適所で考え、障害者ができることは何か理解してほしい」

 そうした思いを込め、伝えようと、30年の制覇を目指して城を巡り続ける。

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