「強烈な個は育てて出るものじゃない。見つけるもの」プロ115人輩出が高校サッカー界の重鎮が提言 静岡サッカーが向かうべき道とは【現場から、】

サッカー王国・静岡がいま、苦境に立たされている。この20年間でJ1優勝はゼロ、冬の高校サッカー選手権では静岡学園高校の1度のみ。静岡サッカー復活へ何が必要なのか。115人ものプロ選手を育てた名将の言葉からそのヒントを探る。

「ここから始まる、磐田の反撃」

先週8月19日、豊田スタジアム(愛知県豊田市)に2年半ぶりにこだましたサックスブルーサポーターの声援。ジュビロ磐田の選手たちは大きな力を得て、臨んだはずだった。しかし、結果は0対1。期待に応えることができず、イレブンはうなだれた。

静岡サッカーが向かうべき道とは?

フランスW杯9人→カタールW杯は?

ジュビロ磐田 上原力也選手

「たくさんのサポーターが来ていたので申し訳ない気持ちでいっぱい。残りの試合は必ず勝たないといけないし、一つにまとまってやっていきたい」

過去3度のリーグチャンピオンに輝いたジュビロは現在J1最下位に沈む。

さらに、現在の日本代表に目を向けてみると、静岡県出身の選手は伊藤洋輝、ただ一人。1998年フランスW杯では全国最多9人もの選手を輩出したが、この20年、減少の一途をたどっている。

6大会連続W杯出場中の日本だが静岡県出身選手は回を追うごとに減少している

「静岡が衰退したわけじゃない」

この現状について、サンフレッチェ広島などで活躍した元日本代表の佐藤寿人さん(40)=埼玉県出身=はこう語る。

佐藤寿人さん

「外から見て静岡サッカーが衰退しているとは全く思わない。ただ静岡に追いつけ追い越せで頑張ってきた他の地域が選手・指導者の質、環境の整備が静岡に追いついてきた」

東京都の国士舘高校。インターハイや冬の選手権に計6回出場したことがある強豪校には、育成のプロがいる。

「他地域の質、環境が静岡に追いついてきた」と語る佐藤さん

高校サッカー界の名将は静岡出身

国士舘高校 本田裕一郎テクニカルアドバイザー

「きょう初めてこのシステムやるから自分たちで考えてやりながら疑問を持つこと。やる以上は勝負にこだわれよ」

テクニカルアドバイザーを務める本田裕一郎さん(75)=静岡県出身=。習志野や流通経済大学付属柏高(いずれも千葉県)の監督を歴任し、流経大柏高時代には、清水エスパルスでも活躍したFW大前元紀選手(現京都サンガ)を擁して全国の頂点に。115人もの、プロ選手を育てた高校サッカー界の重鎮だ。

本田さんが課す練習メニューは、日によって変わる。「戦術をやるとパニックになる。いっそ色々なシステムを練習した方が、相手がどうしたいのかこの局面をどうしたらいいかもっと考えるようになると思った」。本田さんが選手に求めるのは、考える力だ。

流経大柏時代には大前元紀を擁して選手権優勝を果たした本田さん

去年より強くなろうと感じないとダメ

百戦錬磨の名将から薫陶を受けるワフダーン康音選手(2年)は「選手一人一人が気持ちを出して取り組めば変わると思う」、山本辰樹選手(3年)も「求められているプレー以上に意識して変わっていくと思うので、それができれば東京で常勝軍団になれると思う」と手ごたえを感じている。

本田さんは、常に選手と真剣に向き合い、意識を変えてきた。名将が考える静岡サッカーにいま、必要なこととは。

国士舘高校 本田裕一郎テクニカルアドバイザー

「常に変化を求めたい。サッカー全体も変化を。去年より強くなろうみたいな感じがないとダメ。すべての領域そうだと思うけどやっぱり人ですよね。その人が周りをどんどん上げていく」

75歳になる今もピッチに立ち指導を続ける本田さん

熱い思いを持つ子は必ずいる

また、ふるさと・静岡の指導者には、こんな目を持ってほしいと期待をかける。

国士舘高校 本田裕一郎テクニカルアドバイザー

「周りをグッと引き上げるような個。そういう個はね、育てて出るもんじゃない。見つける。熱い思いを持つ子どもたちも必ずいるはずだから、見つけて伸ばす」

大切なのは、指導者も選手も見つけて育てること。人づくりが静岡サッカーの未来を変えていくかもしれない。

静岡サッカーの復活に期待を寄せる静岡出身の本田さん

© 静岡放送株式会社