ペットボトルはペットボトルに生まれ変われる 「水平リサイクル」って何? 【あなた発 とちぎ特命取材班】

私たちの生活に身近なペットボトル

 「ペットボトルは、ペットボトルに生まれ変われないの?」「同じ物を作ることが本当のリサイクルでは?」。読者からの疑問に答える下野新聞の「あなた発 とちぎ特命取材班」に、そんな投稿が寄せられた。飲み物や洗剤の容器に使われる身近な素材「ペットボトル」。ただ、資源ごみとして分別した後でどう生まれ変わるのか、記者も分からない点が多い。今あるものから同じ物を作るリサイクルを「水平リサイクル」と呼ぶ。ペットボトルの水平リサイクルを探ってみた。

 そもそも、ペットボトルは国内でどのくらい使われているのか。大手飲料メーカーなどで組織する「PETボトルリサイクル推進協議会」によると、「PET」の文字がラベルや本体に印刷された指定ペットボトルの国内販売量は2020年度で約55万1千トン。このうち、国内で再資源化に利用されたのは34万4千トン、海外に輸出され再資源化されたのは14万4千トンと推定される。リサイクル量は計48万8千トンで、88.5%に上る。

 一方、協議会の別の調査で、計28万8千トン分のペットボトルの用途別の再利用量が分かっている。水平リサイクルされたペットボトルは、30.0%の8万6300トンで、用途として2番目に多い。最多は卵パックやトレーといった包装材の「シート」の40.7%。3番目は「繊維」の16.5%だった。ペットボトルはペットボトルに生まれ変わっている。

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 実は県内に、ペットボトルの水平リサイクルをリードしてきた企業がある。回収ペットボトルの再原料化事業を全国で展開する協栄産業(小山市城東2丁目)だ。ペットボトルからペットボトルを作る「ボトルtoボトル」に取り組んでいる。古澤栄一(ふるさわえいいち)社長(66)はそのポイントを「素材を“アンチエイジング”すること」と例える。

 同社によると、リサイクルでは素材が劣化することを考慮した「カスケードリサイクル」が一般的という。ペットボトルの原料「ペット樹脂」は、素材の粘度(IV値)が質に影響する。ボトルはIV値が高く、シート、繊維の順に値が下がる。ペットボトルが繊維に再利用できるのは、素材の劣化を考慮した上でのことだった。

 古澤社長の言う“アンチエイジング”には、高温の真空状態下でにおいや汚れを除去し、分子を再結合させることで、低下した素材の粘度の値を戻す「再縮合重合反応」という技術を用いる。同社は構想から約13年をかけて独自技術を開発し、飲料メーカー大手のサントリーホールディングス(HD、大阪府)との協業で11年5月に「ボトルtoボトル」を実現した。

 原油からペットボトルを作る場合、産油国から原油を日本国内に輸送し、精製してペットボトルを製造するといった工程を経る。それに比べ、水平リサイクルでは排出する二酸化炭素量が1キロあたり6割超削減できることも分かった。

 協栄産業は18年、サントリーHDとの連携で、リサイクル工程を短縮する技術も開発。より低コストで環境負荷の少ない仕組みの実用化も進んでいる。

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 PETボトルリサイクル推進協議会によると、ペットボトルの水平リサイクル量は右肩上がりに増えている。15年度は3万7200トンだったが、20年度は8万6300トンで、2倍以上の数値だ。

 古澤社長の解説では、背景には海洋プラスチックを巡るごみ問題の深刻化や、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」に関連した社会的な機運の高まりがある。こうした流れを受け、飲料メーカーなどの取り組みが進展している。

 日本の廃プラスチック輸出先だった中国が17年に輸入禁止措置を取ったことで、リサイクル原料の国内循環が意識されるようになった要因もあるという。

 「ペットボトルはペットボトルにリサイクルすべきだよ。ペットボトルは都市からわき上がる『油田』で、資源なんだから」。古澤社長はそう強調する。

 サントリーHDの担当者も「飲料メーカー業界としても、水平リサイクルを進展させる方向だ」と話す。同社は2030年までに世界で使用するペットボトルの100%を、リサイクルか植物由来の素材とするのを掲げる。ペットボトルの水平リサイクルは、業界を挙げて進められているという。

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 今あるものから同じものは作れないのか-。そうした考え方は、他素材にも広がりを見せている。製品の大量廃棄などが問題視されているアパレル業界では、古着に含まれるポリエステル繊維を環境負荷が少なく低コストで再生する新技術が開発されている。

協栄産業のグループ会社工場で、回収したペットボトルを運ぶ作業員=8月中旬、鹿沼市深程
回収したペットボトルを選別する作業員=8月中旬、鹿沼市深程
協栄産業のグループ会社工場がリサイクルした原料で製造されたペトボトルなど=8月中旬、鹿沼市深程
協栄産業のグループ会社工場の敷地内に積まれた回収ペットボトル=8月中旬、鹿沼市深程

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