三者三様のスペック2投入タイミング。今回鈴鹿投入/回避の意図と開発の狙い【第5戦GT500プレビュー】

 第4戦富士スピードウェイでの100Lapを終え、8月末の鈴鹿サーキットも引き続き450kmの長距離ラウンドとして争われる。この鈴鹿は燃費に厳しい部類のサーキットでもあり、エンジン負荷率も高いと言われる。長いストレートを持つ富士ではレース中のリフト&コーストなど、ドライバーの技量次第で燃費を稼ぐ工夫が可能なレイアウトである一方、鈴鹿では全開率に加えてパーシャル域の範囲も広く、ドライビングで燃費を稼ぐことが「なかなかしにくいサーキット」との声も聞かれる。それだけに、燃費面での相対差が戦略の自由度とリザルトに直結する現在のGT500クラスでは、この鈴鹿でこそエンジン性能の領域が重要度を増してくる。

 年間2基の投入が許されるエンジン規約に従い、トヨタ、ホンダ、ニッサンの参戦各メーカーとも、年間カレンダーのいずれかのラウンドで新スペックの投入を戦略的に決めることになるが、この第5戦鈴鹿の週末を前にその判断は分かれることとなった。

「変えなくていいのなら基本は換えないで、それが基本ライン」と語るのは、ニッサン陣営の松村基宏総監督だ。前回の鈴鹿ラウンドとなった5月末の300km戦では、レース中に複数回のセーフティカーが入りながらも、首位の3号車がその度にスパートを決めて後続を引き離していく強さを見せた。結果、先代GT-Rから続くニッサンとしての鈴鹿連勝記録を“4”にまで伸ばしている。当然、この450kmレースでも開幕から積む1基目のエンジン総仕上げとして、その更新を狙う。

「まずは路面のコンディションとタイヤのマッチング、ここがひとつ大事になります。そこにフィットすれば(23号車、3号車に関しては)ミシュランタイヤの良さが出るかもしれない。逆にちょっと違った温度条件になれば、他社さんも活躍する可能性はあるでしょう」と続けた松村総監督。

「エンジンに関しても(前回の鈴鹿で判断できたとおり)燃費の面で極めて苦戦をしているということはないですし、ドライバーに必ず燃費運転をさせる……という状態でもないです。ただ今回は450kmの作戦のなかですから、それをやった方が勝ちに繋がるのであれば、させることはあるかもしれません」

2022スーパーGT第5戦鈴鹿 MOTUL AUTECH Z

 前戦でも指摘したとおり、気温の高い夏場は吸気温度の関係で出力が低下し、それと同時に燃焼圧も下がるため、エンジンにとっては負荷が下がり、ある意味で運用がラクになる側面もある。

 そのため夏場の長距離戦を同スペックのエンジンで乗り切り、気候が変化する9月以降の3連戦で2基目を投入。コース特性への適合も含め、スポーツランドSUGO、オートポリス、そして最終戦のモビリティリゾートもてぎと気温が低下するイベントに向け、最適化したスペックを投入するのはひとつのセオリーとして考えられる。

「いつもの『牛歩』ではないですが、2基目もステップアップでしかありません。ライバルのようにバンっと(性能が)上がるようなものを持っているわけではないですし、少しずつ改良していると思っておいていただければ」

 そう語る松村総監督だが、燃費向上への寄与率が高いオフスロットル領域でのアンチラグ使用量のみならず、今季のエンジン性能向上には「リーン燃焼の進化もあるでのは」との見立ても持っている。

「多分、我々がもともと持つ方向として燃焼特性が薄い……のでしょうね。我々がその部分を好きでやっているかは別として、たまたまそういった燃焼のコンフィギュレーションでした。実際は分かりませんが、ドライバーが燃料を消費せずにうまく走らせていることもあるでしょうし、燃費の面では心配していません」

「ただ、前戦(富士100Lap)もトヨタさんはギリギリまで給油時間を詰めていましたし、それで優勝しています。その部分は(ピット)2回分のアウトラップの数字を見なければ分からないですが、その数字を足すと非常に近いです。もちろんアウトラップの数値なので、タイヤのウォームアップが早くて(差が)詰まっているのか、いろいろと考えなくてはいけないですけど、燃費で極めて違っているとは考えていません」

2022スーパーGT第5戦鈴鹿 カルソニック IMPUL Z

■ニッサン同様ホンダは「変更なし」に対し、トヨタは38号車を除く全車に2基目を投入

 そのニッサン同様「今回は変更なし」と、エンジン1基目継続の判断を下したのはホンダのGTプロジェクトを率いる佐伯昌浩LPL(ラージ・プロジェクト・リーダー)だ。

 8月初旬開催の第4戦時点で「前半のエンジンがマイレージ的には全然余裕なので……」と語っていた佐伯LPLだが、それと同時に「エンジンの仕上がり具合次第です。それによって次の鈴鹿にするのか、その次の(第6戦)SUGOにするかを決めようと思っています」との言葉どおり、この鈴鹿への新スペック投入を見合わせた。

 燃料流量リストリクターを採用する現在のNRE(ニッポン・レース・エンジン)では、限られた燃料でいかにパワーを絞り出すか。いわゆる熱効率の部分の勝負が続いている。その点、2021年後半戦で高い燃焼圧を実現しながら「ちょっとやり過ぎた面」もあったエンジンの「その先」を目指すことに。

 主要部品はほぼ揃いつつあるものの、現在もシミュレーションでの最終仕上げが続けられており「最後まで悪あがきをしよう」と、次のSUGOか、場合によってはオートポリスでの換装も考慮しているという。

2022スーパーGT第5戦鈴鹿 STANLEY NSX-GT

 そのライバル2社に対し、前回の富士終了時点で「2基目投入」を明言していたのがトヨタ陣営。TCD/TRDのエンジン開発責任者兼全体統括を務める佐々木孝博氏は、トラブルで先行搭載していた38号車を除く「全車に2基目を載せました」と明かす。

「セルモさんは前戦、ぺダルのセンサートラブルで完走できませんでしたが、そこで(Ver.1.5として)実車による、レースでの適合ができましたので、その部分も合わせてさらにレベルアップして持ち込める準備はして来ました」と続けた佐々木氏。

「どこまで行ってもドラビリ(ドライバビリティ)で、やはり燃焼を良くしていくことしか……つまり燃焼改善です。それがキーワードになっていますので、その部分に取り組んでいます。微々たるものでも……ほんの0.数%でも良くなるものは『かき集めてでも投入する』というかたちで、この2基目も微々たるものですが、まだ大きな部分は間に合っていないですし、このまま調子が良ければ来年に持ち越してしまうかもしれないですが、日々努力はしている状況です」

 現在、燃費の話題はアンチラグ使用量の多寡が中心となるが、燃焼を改善すれば熱効率の面でも燃費は上がっていく。車両の“走行燃費”だけでなく、エンジン単体でも性能向上が燃費に還ってくる。その点、シーズン真ん中。この夏場での2基目投入は「性能優先」の選択と言えそうだ。

「そうですね。ライフもそうですけど、性能もそうです。富士での燃費も全車、全メーカーのピット給油時間などを画像解析もしましたが、最速の車両が給油時間トータルで50秒くらいとすると、ギャップは2秒。スープラで見ても、当然ドライバーもリフトを行ったり努力していますし、チームも努力して『ベストでトントン』というところです」

 明日午前の公式練習を経て予選へと挑む各社(車)だが、現在のGT500クラスはわずか0.1秒差でポジションが大きく変動し、Q2進出カットラインで涙を飲む緊迫の勝負が続いている。それだけに、タイヤとドライビング、そしてライバルとの間合いやトラフィックまでを含め、すべてをうまく運んだチームが前方グリッドを獲得し、わずかなミスを犯せばたちまちQ1敗退の運命が待ち受ける。

「予選は必ずトヨタさんが速い。本戦と予選との差があまりにも大きい。何が起きているのか……というくらい、相当に余力のあるエンジンを使ってるのではないかと。我々はなかなかそういうことはできません」(ニッサン松村総監督)

「予選はあの僅差。かつての(サクセスウエイト)10kg程度はほとんど影響がなかったですけど、今ではそのわずかでQ2進出が分かれます。予選はポイント順といいますか、ウエイトの搭載量次第で並ぶでしょうし、ここも含めてもう少し我慢で、次のSUGOから本格的な仕切り直しになるかと思います」(ホンダ佐伯LPL)

「明日も暑そうですし、そうなると予選も厳しいです。気温が高いと、やはり我々もなかなか普段どおりには行かないところがあります」(トヨタ佐々木氏)

 長距離戦とはいえ、鈴鹿での予選グリッドがいかに重要かの認識を問うと、以上のとおり三者三様の答えが聞かれた。すでにシーズン折り返しの勝負は、走行前から始まっている。

2022スーパーGT第5戦鈴鹿 ZENT CERUMO GR Supra

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