国境離島新法5年 コロナ禍で戦略立て直し 雇用拡充、観光再構築へ

五島市を訪れる観光客ら。国境離島新法施行から5年が経過し、支援制度を活用したいっそうの取り組みが求められている=7月、五島市の福江港

 2017年度の施行から5年が経過した国境離島新法。五島列島や壱岐、対馬の人口減少対策や経済活性化の鍵を握る雇用機会拡充事業や滞在型観光は、新型コロナウイルス禍で戦略の立て直しや、さらなる取り組みが求められている。

 雇用機会拡充事業が伸び悩む背景には、創業や事業拡大を検討していた事業者の申請が落ち着いたことや新型コロナの感染拡大、日韓関係の悪化がある。さらに島内の人手不足も影響。要件である「雇用の創出」にめどが立たず、申請をためらう事例がある。
 長崎県や各市町は、既に同事業を活用した事業者へのさらなる拡大の働きかけや、島外事業者の掘り起こしを強化。商工団体などと連携して経営を支援するほか、求人情報会社に特設サイトを開設するなどし、人材確保をサポートする。
 五島市は今秋、首都圏などの求職者に市内事業所を訪問してもらう「人材マッチングツアー」を予定。事業者に指導助言する経営コンサルタント派遣事業にも乗り出す。壱岐、対馬両市は昨年度に続き、福岡市内で説明会を開き、島内への進出をアピールした。
 雇用拡大に向けた取り組みは「自治体間で温度差がある」と指摘されており、県は「好事例を横展開していきたい」としている。
 感染症や日韓関係悪化は離島観光に大きく響いた。五島、壱岐、対馬、新上五島、北松小値賀の5市町の延べ宿泊者数は18年の計約92万人をピークに20年は約43万8千人まで急減した。
 壱岐市は団体客から個人客へのターゲット変更を視野に、地元の産業や暮らし、環境など幅広い分野と連動させる。新上五島町は体験メニューを積極的に増やす方針。対馬市は「国際問題や感染症などのリスクに耐えうる」旅行コンテンツが必要と指摘。国際交流の歴史や、海ごみや磯焼けといった「課題」を組み合わせた修学旅行商品を作る動きも市内で出ている。
 離島政策に詳しい東海大の山田吉彦教授(海洋政策学)は「5年間で新たな事業の芽は出始めている。コロナ禍を経てリモートワークが普及し始めており、こうした社会情勢を踏まえながら地域の活性化を目指すべきだ」と助言。
 同法制定に尽力した谷川弥一衆院議員(長崎3区)は「農水産品の加工、観光、IT系の企業支援や誘致など事業の掘り起こしにもっと力を入れるべきだ」と強調。「10年の時限立法であり、自治体は危機感を持って取り組んでほしい」と注文する。


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