日本各地には、それぞれ地域に根差した酒・地酒と酒蔵があります。
訪れた土地ならではの地酒を楽しむのは、観光の醍醐味のひとつではないでしょうか。
倉敷美観地区にも地域に根差した酒蔵があり、地元で愛されている地酒があるのです。
その酒蔵が「森田酒造 株式会社」で、「萬年雪(まんねんゆき)」の銘柄の酒で知られています。
明治時代より酒造りを続けている美観地区で唯一の酒蔵で、萬年雪の種類は約50種。
また森田酒造は昔ながらの製法にこだわり、個性的な商品を生み出し続けています。
森田酒造と萬年雪の歴史や魅力、こだわりなどを紐解いてきましょう。
森田酒造は「萬年雪」で知られる美観地区唯一の酒蔵
森田酒造は、倉敷美観地区にある酒蔵です。
1909年(明治42年)より酒造りを行う老舗の酒蔵で、2022年(令和4年)現在では美観地区を含む倉敷中心市街地で唯一の酒蔵となります。
森田酒造は本町通り沿いにあり、目の前は阿智神社の南参道口です。
森田酒造がつくる日本酒は「萬年雪」という銘柄で、倉敷の地元住民のあいだで長く親しまれています。
2022年現在、森田酒造でつくる萬年雪の種類はなんと約50種類。
いまでも伝統的な製法にこだわりながらも、新たな商品も開発するなど、積極的な酒造りを展開しています。
隣接地には食のセレクトショップ「おいしいものブティック 平翠軒」も
森田酒造の隣接地(西隣)では「おいしいものブティック 平翠軒(へいすいけん)」も運営しています。
おいしいものブティック 平翠軒は、”食のセレクトショップ”をコンセプトにした店です。
森田酒造の代表・森田昭一郎(もりた しょういちろう)さんが、自らセレクトした国内外のおいしい食品がところ狭しと並んでいます。
おいしいものブティック 平翠軒は地元のお客さんから、観光や出張で倉敷に来たお客さんまで多くのかたが訪れる店です。
森田酒造の酒もおいしいものブティック平翠軒で販売しており、取り寄せも可能。
詳細は、おいしいものブティック平翠軒のWebサイトを見てください。
酒蔵・庭園・茶室の見学も可能(要予約)
2022年(令和4年)8月時点の情報。 料金は消費税込
森田酒造では、酒蔵見学もできます。
見学は1週間前までに予約が必要で、料金は1,100円です。
なお酒の醸造が行われている期間となる、11月10日〜翌年2月28日のあいだは、見学を行なっていません。
酒蔵見学では見学のほか、3種類の日本酒の試飲ができ、さらにオリジナルのお土産ももらえます。
また酒蔵見学では酒蔵とともに、森田酒造の日本庭園「古禄の庭(ころくのにわ)」の見学も可能。
古禄の庭は約400年の歴史があり、倉敷市内で現存最古の民間庭園です。
庭園では、四季を通じてさまざまな植物が楽しめます。
古禄の庭とともに、茶室の「平翠軒(へいすいけん)」も見学可能です。
平翠軒は古禄の庭に面しており、茶室からは庭の美しい景色が眺められます。
「おいしいものブティック 平翠軒」の店名の由来は、この平翠軒です。
人気・おすすめの商品を紹介
2022年8月時点の情報。 価格は消費税込
森田酒造の酒・萬年雪は、約50種もの種類があります。
多数ある森田酒造の商品のなかから、人気の商品や酒蔵のおすすめ商品を紹介しましょう。
萬年雪 未搾り酒純米生一本 荒走り
「萬年雪 未搾り酒 純米生一本 荒走り(みしぼりしゅ じゅんまい きいっぽん あらばしり)」(500ミリリットル 1,577円)は、森田酒造を代表する酒のひとつです。
毎年12月20日から発売されます。
荒走りは、翌年の9月上旬ごろには在庫がなくなってしまう、人気の酒です。
荒走りとは、発酵を終えたもろみを搾り袋に入れて圧搾するとき、搾り袋から最初にしたたり落ちる酒のこと。
その年の酒造りが始まって、最初に発売される酒が荒走りなのです。
荒走りは、一日で500ミリリットル瓶だと2,000〜3,000本ほど。
採取した荒走りは、酒の成長が止まる2℃で保冷されます。
その後少しずつ出荷されていきますが、酒の成長が止まっているので、搾りたてのフレッシュな味わいを楽しめるのです。
荒走りは「香り酒」 ともいわれ、豊かな香りが特徴。
飲むと、口の中に心地よい酒の香りが広がり、ほどよい甘味が感じられました。
スッキリとした味わいで飲みやすい酒だと思います。
萬年雪 森田大吟醸生酒 プレミアム大吟醸酒
「萬年雪 森田大吟醸生酒(もりた だいぎんじょう なまざけ) プレミアム大吟醸酒」(500ミリリットル 3,146円)は、プレミアムという名前のとおり、限定販売の酒です。
毎年1月下旬ごろから販売され、6月いっぱいごろに在庫が終了します。
森田大吟醸生酒 プレミアム大吟醸酒は、贈答品としたり、祝いの席でふるまったりするなど特別なときに利用するお客さんも多いです。
飲んでみるとキリリとした印象で、とても芳醇で爽やかな味わいを楽しめます。
なお森田大吟醸生酒 プレミアム大吟醸酒は、平成25年度全国清酒鑑評会では金賞を受賞しました。
萬年雪 ふなしぼり純米酒
「萬年雪 ふなしぼり純米酒」(500ミリリットル 944円)は、通年で楽しめる酒です。
ふくよかで濃厚な味わいで、常温で楽しめます。
また夏には冷やして、冬には「ぬる燗(かん)」にしても、とてもおいしいです。
年間通して楽しめるのが、ふなしぼり純米酒の魅力ではないでしょうか。
なお、ふなしぼりの「ふな(ふね)」とは、日本酒の醸造で使われる圧搾機のことです。
萬年雪 激辛 本醸造超辛口酒
「萬年雪 激辛 本醸造超辛口酒」(500ミリリットル 847円)は、名前のとおり辛口の酒です。
中国地方の酒のなかでも、とくに辛口の部類になります。
酒の「辛口」とは、「糖が少ない」という意味です。辛味成分があるわけではなく、「甘くない」ことを意味します。
激辛 本醸造超辛口酒は、冷やして飲むのがおすすめの夏向きの酒です。
実際に冷やして飲んでみると、とてもスッキリとした味わいで飲みやすいと感じました。
また激辛 本醸造超辛口酒は、料理を食べながら酒を飲む「食中酒」として開発されています。
そのため食べ物の邪魔をしない、料理のおいしさを引き立てるような酒です。
白身魚の刺身との相性はピッタリ。
夏場の食卓に、ぜひ置いておきたい一本です。
萬年雪 未搾り酒純米荒走り 本町 泡雪
「萬年雪 未搾り酒純米荒走り 本町 泡雪(あわゆき)」(300ミリリットル 835円)は、スパークリングの酒(発泡性の酒)。
荒走りに炭酸を入れたものです。
飲むとシュワシュワッとしたスパークリング独特の炭酸の刺激とともに、フレッシュな味わいも楽しめました。
清涼感のある酒だと思います。
泡雪は、暑い夏に人気の酒だそうです。
またパーティーでの乾杯など、シャンパンのように愛用するお客さんも。
なお炭酸が抜けていくため、泡雪は開封した当日中に飲んでください。
伝統的な製法で酒造りを続ける森田酒造。
代表の森田昭一郎(もりた しょういちろう)さんにインタビューをしました。
森田酒造の代表・森田昭一郎さんにインタビュー
伝統的な製法で酒造りを続ける森田酒造。
代表の森田昭一郎(もりた しょういちろう)さんに創業についてや酒造りのこだわり、今後の展望などの話を聞きました。
明治42年から酒造を始める
──創業について知りたい。
森田(敬称略)──
酒蔵としては、1909年(明治42年)からです。
しかし森田家代々、倉敷の地で庄屋をしていました。
明治当時、米の価格は変動制だったので、より安定した利益を生み出すために米を活用して酒造を始めたと聞いています。
酒蔵を開いた当初は、庄屋と酒造の両方をしていましたが、いつしか酒造専業になりました。
ちなみに酒造を初めてから、私で三代目。
私の祖父が酒造を始めました。
──「萬年雪」の由来は。
森田──
酒造りを始めた初代である私の祖父が自ら「萬年雪」を名付けました。
初代は登山が趣味でして、酒造りを始めるころに富士山へ登山に行ったそうです。
富士登山で、日に当たって美しく輝く富士山の雪を見てインスピレーションを感じ、「萬年雪」という名前を思いついたと聞きました。
富士山といえば日本を代表するものですから、銘柄にピッタリだと感じたのでしょう。
帰宅後、すぐに商標の登録準備を始めたそうです。
伝統的な製法にこだわり、あえて非効率な製法も
──森田酒造での酒造りの特徴やこだわりを教えてほしい。
森田──
伝統的な製法にこだわっていることと、地元の良質な材料を使っていることが特徴です。
私たちの製法は、現在の一般的な製法に比べて非効率だとわかっています。
しかし昔ながらの製法でやるほうが、おいしい酒造りができるのであえてこだわっているんです。
また酒の在庫は、出荷予定分しか持ちません。
日本酒は生鮮品だから、鮮度を保持するためです。
また森田酒造では、油圧式の昇降式圧搾機(あっさくき)を使っています。
約50年前から稼働していて、圧搾機の初期の形態をしているんです。
ですから、現在の日本においてとても希少価値があります。
そのような理由もあり、当酒蔵の油圧式の昇降式圧搾機は産業遺産学会「推薦産業遺産」に認定され、功労賞も獲得しました。
──材料のこだわりについては。
森田──
原材料のうち、米にはこだわっています。
大吟醸など一部の酒を除き、森田酒造では清音(総社市)や足守(岡山市)といった周辺地域で栽培される、アサヒやアケボノなどの米を使います。
また仕込水にもこだわりがあり、使用しているのは高梁川の伏流水です。
つまり、地元の米と地元の水を使っています。
さらに味のブレを防ぐため、酒のブレンド率を決定するのは代表の私のみです。
魅力的な商品づくりを
──新しい商品も開発しているが、商品開発はどのように行なっている?
森田──
基本的に商品の開発は、おもに私が考えています。
それをスタッフにも飲んでもらい、意見を聞いて改良していく形ですね。
合議制で商品開発をすると、どうしても最大公約数を取るようになります。
そうなると商品としては個性が弱くなってしまい、魅力的な商品ではなくなるんです。
──今後の商品開発で力を入れていきたいことはある?
森田──
今後消費開発で力を入れていきたいのは、新しいお酒の飲みかたの提案です。
新型コロナウイルス感染症の流行もありまして、家庭での消費が増えていくと思われます。
ですから家庭でのお酒を楽しめる商品を開発しながら、新しい楽しみかたを提案していきたいですね。
たとえば、水などで割るお酒とかです。
お酒をつくるときに水を加えてアルコール度数を調整します。
それをご自身で水などを入れて、好みのお酒をつくって楽しんだりするのもおもしろいのではないでしょうか。
炭酸を入れたりしても楽しめますよね。
今後は後身の育成と新しい酒の楽しみかたの提案を
──今後の展望や課題などがあれば、教えてほしい。
森田──
ひとつは後身の育成です。
さきほどのとおり、現在は味のブレを防ぐためにブレンド率は私が一人で決めています。
今後は若い杜氏(とうじ)などを育成し、ブレンド率を決める人を育てたいですね。
もちろん味のブレを防ぐために、決める人は少数にします。
もうひとつはさきほど話した、新しいお酒の飲みかた・楽しみかたの提案です。
お客様個人個人が、それぞれの好みでお酒が楽しめる商品づくりをしていきたいと思っています。
伝統を大切にしながら新たな挑戦をする森田酒造の酒造り
明治時代から酒造を行う老舗で、昔ながらの製法にこだわる森田酒造。
そのいっぽうで新たな商品も積極的に開発しています。
森田酒造の「萬年雪」は地元はもちろん、観光や仕事で倉敷を訪れたかたにも愛される酒です。
自宅の食卓用やお土産などに、萬年雪を手に取ってみてはいかがでしょうか。