<社説>NPT再検討会議決裂 日本は核軍縮を主導せよ

 核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、全会一致でつくる最終文書を採択できず決裂し、閉幕した。2015年の前回に続く決裂で、2回連続は1970年の条約発効以来初めてだ。ロシアによるウクライナ侵攻で高まる核危機緩和の方策を示せなかった。核弾頭搭載可能な新型ミサイルの開発競争が激化している新冷戦の中で、核への脅威は急激に高まっている。 決裂はロシアが反対したからだ。ロシアが占拠するウクライナ南部のザポロジエ原発の管理をウクライナに戻すよう促す記述に反発したとみられる。

 核軍縮が一層厳しくなっている中で、唯一の被爆国である日本が果たすべき役割は重要性を増している。岸田文雄首相は会議で演説し「諦めるわけにはいかない。被爆地広島出身の首相として『核兵器のない世界』に向け、現実的な歩みを進めていかなくてはならない」と述べた。そうであるなら、決裂した今こそ、日本は核保有国と非保有国を橋渡しし核軍縮を主導すべきだ。世界各国は「核戦争に勝者はおらず、決して戦ってはならない」という原点に立ち返る必要がある。

 今回の会議は、ロシアのウクライナ侵攻による未曽有の核危機や、米中の覇権争いが暗い影を落とした。核脅威の排除を掲げるNPT本来の役割を果たせなかった。

 非保有国を核兵器で攻撃しない「消極的安全保障」に法的拘束力を持たせる表現は後退し、核保有国に「核の先制不使用」政策採用を求める記述は削除された。米国が削除を認めた。非保有国は「核保有国や核の傘の下にある国々にとって都合が良い内容だ」などと反発。「核弾頭数は大幅に減った」などと主張する保有国とのギャップを埋められなかった。せめて過去の合意の有効性を確認する内容の最終文書は採択すべきだった。

 岸田首相は核軍縮に向け関係国の橋渡しを目指すという。ならば核兵器の開発や実験、使用の威嚇を禁じる核禁止条約の締約国会議にまずはオブザーバー参加し、米国に核先制不使用宣言を促すことがその第一歩だ。具体的実践を決断する時だ。

 米ロ間で唯一残る核軍縮枠組み新戦略兵器削減条約(新START)に続く条約に合意するよう求める内容も最終文書案には含まれていた。日本は後継条約を促す役割も果たすべきだ。

 核軍縮の後退は、沖縄にとって死活問題である。米国は対中国戦略の一環で、沖縄はじめ日本列島に核弾頭を搭載可能な中距離弾道ミサイルを大量配備する計画がある。台湾を巡る米中の緊張が高まり、台湾有事の可能性が叫ばれている。もし有事が起きれば、沖縄は真っ先に核攻撃の対象とされる恐れがある。

 日本政府のみならず、県や県民も核軍縮を訴え、沖縄はじめ日本に核を配備させない強い態度が求められる。

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