経済評論家・上念司が明かす、チャンスを逃す人と勝者となる人の決定的な違いとは?

目まぐるしく変化する社会の中で資産を守るため、そして成功を収めるためには、どんなことが必要なのでしょうか?

そこで、経済評論家・上念 司( @smith796000 )氏の著書『誰も教えてくれなかった 金持ちになるための濃ゆい理論』(扶桑社)より、一部を抜粋・編集して経済の流れを掴む重要性について解説します。


逆張りした人は自由化の勝者に

今から約30年前の1991年、日本の農業、畜産業が終わると言われたある事件が起きたのをご存知でしょうか? それは牛肉とオレンジの自由化です。それまで規制によって守られてきた産業が、自由貿易と国際競争に晒される。あの時、テレビや新聞は国内の畜産業者とみかん農家が全滅すると大騒ぎをしました。

しかし、結果はどうだったでしょう? マスコミ報道とは裏腹に、国産牛肉の生産は自由化以降も減りませんでした。むしろ、牛肉全体の消費が増え、なおかつ畜産業者の所得まで増えてしまったのです。
参考:貿易自由化と日本農業の重要品目 https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n1212re2.pdf

もちろん、すべての畜産業者がその恩恵を受けたわけではありません。むしろ、牛肉自由化で多くの畜産業者が廃業しました。ところが、生き残った畜産業者は規模を拡大し、廃業した分を吸収しました。そのため、グラフの通り全体で見ると生産量は減りませんでした。さらに、「和牛」は国際的なブランドとなり、普通の牛肉とは別次元の単価で取引されるようになりました。このため生き残った畜産業者の所得が大幅に増加したのです。

マスコミ報道を信じて、畜産業を廃業してしまった人は儲けのチャンスを逃し、このニュースの本質を見抜いて逆張りした人は自由化の勝者となりました。

テレビや新聞は日本を貶める報道ばかりしています。政府が農産物の自由化をしようとすれば、農民は弱者になって保護すべき対象となります。逆に政府が農協に補助金を出そうとすれば、集票のための利権だと攻撃対象になります。とにかく日本政府が攻撃できれば何でもいい。そんな日本のマスコミの情報を鵜吞みにしたら危険です。

さて、当時も新聞が吹聴する悪い噂に流されず、事実を客観的に見て、試行錯誤を続けた人は牛肉自由化の「流れ」を摑みました。2020年8月19日、宮崎県で畜産業を営む株式会社牛肉商尾崎の尾崎宗春社長が私に直接語ってくれた言葉を引用します。

「わざわざ輸入牛肉と競合する分野で競争することはない。手厚いケアで質の良い肉を作ればいい。日本はド田舎でも電気、水道、下水道が通っているし、最高の水が湧いている。いい肉を作って海外からボッタクって仲間におごってるんだ」

「戦後官民一体となって改良した和牛はどこの国の牛にも負けません。日本の綺麗なおいしい軟水で牧草を作って牛に食べさせ、牛に飲ませて、丁寧な仕事をする日本人が作ったおいしい和牛は世界を制覇できる食べ物です。日本人のプライドです。私はその尾崎牛を世界中に高く販売して僕の周りの人たち(特に女性)を幸せに笑顔にします!」

みかんの生産量が激減した本当のワケ

次に、みかんについて何が起こったのかを確認しましょう。まずは論より証拠。下記のグラフを見れば一目瞭然です。
参考:みかんの需給動向とみかん農業の課題 https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n0208re1.pdf

なんと、みかんの生産量はオレンジ自由化が始まる15年以上前、1975年あたりからすでに急減していたのです。1991年の時点でみかんの生産量はピーク時から半減しています。つまり、オレンジ自由化とは関係なく、みかん農家はすでに窮地に陥っていました。1975年からみかんの生産量が激減した理由は簡単です。それまでの増え方が異常だった。それだけのことです。なぜそんなことが起こったのか? それは日本の歴史とは切っても切り離せません。

1950年代、まだ戦後復興の只中にあった日本は、今よりもずっと貧しい暮らしをしていました。その頃、果物と言えばみかんであり、実はかなりの高級品でした。1960年代から高度経済成長が始まり、人々の所得が倍増する過程で、この高級品のみかんが飛ぶように売れたのです。そのため、各地の農家は桑畑を潰して大量のみかんを植えました。これが1975年までのみかん生産量急増の理由でした。

なみに、みかん畑に転用された桑畑というのも戦前の日本の主な輸出品だった絹製品を生産するために、山の斜面を切り開いて造成されたものです。ご存知の通り、絹の原料は蚕の繭で、蚕は桑の葉を餌にしています。戦後、役目を終えた桑畑を持て余していたところ、みかんブームが到来したのでそれに便乗する新興みかん農家がたくさん出てきたということなのです。

しかし、さすがに10年もみかんを食べまくっていれば飽きてきます。また、1970年代に入ると、海外からの果物の輸入が徐々に増えていきました。すると、人々の果物に対する趣向も分散するようになります。一発屋芸人と同じく、爆発的に増えた需要は爆発的に減少する。みかん農家に壊滅的な打撃を与えたのは、オレンジの輸入自由化ではなく、この一発屋的なビジネスモデルのほうでした。

大事なシグナルを見逃す人は、儲けも逃す

牛肉とオレンジの輸入自由化にまつわる事件が私たちに示唆することは何でしょう。それは、世の中には「流れ」があるということです。そして、どんなに力のある人でも、流れには逆らっても逆らいきれるものではありません。さらに、この流れはある日突然変わります。いや、本当は流れが変わりそうなシグナルがいろいろなところに出ているのですが、大量のノイズに交じっているため多くの人が気付かないです。

また、ある政策に対して肯定的な情報と否定的な情報が入り混じって判断に困るケースも多々あります。そんな相反する2つの主張のうちどちらが正しいかを見分けるためには、「一人ディベート」が役に立ちます。ディベートの良いところは、与えられた論題に対して、自分の考えに関係なくくじ引きで肯定、否定の立場が決まることです。例えば、「日本は日米安保条約を廃止すべし」という論題に対して、くじ引きで「安保継続」側になってしまったら、自分自身が安保廃止論者であったとしても、「日米安保は必要だ、廃止すべきでない」と反対の主張をしなければならないのです。

普段私たちが何の気なしに生きていると、自分と正反対の立場に立って徹底的にロジックを組み立てて論争することはまずありません。私はデフレ脱却の必要性を著作などで説いていますが、同じぐらい労力をかけて「デフレ継続」を訴えたり、ましてそれを書籍化したりすることはありません。

ところが、ディベートの場合、くじ引きによって「デフレ継続」側に無理やり立たされたら、それに合わせてリサーチし、データを集めて解釈し、最終的には立論して文章にまとめなければいけません。ディベートでもなければこんなことは絶対にあり得ない話です。

しかし、敢えて自分の主張と反対の立場を取って、その主張の根拠となる資料のリサーチなどを行うと、相手がそういう主張をする理由や背後にある利害関係など、自分では考えもつかなかったことがいろいろ分かるようになります。また、自分に反対する人間がどのような疑問、質問を投げかけてくるか、あらかじめ反論を想定できるようにもなります。

ディベートにおける「敢えて自分の考えとは反対の立場を取る」という技術を応用すれば、世の中に出回る書籍やマスコミ報道などが本当に正しいのかどうかを検証することができます。読後感銘を受けた主張などに対して、自分自身で敢えて否定側に立って反論してみるわけです。「一人ディベート」が明らかにすることは、次の2点です。

__1.ある主張に「反証可能性」がある
2.その主張は「反証可能性」があるにもかかわらず現時点では論破できない__

「反証可能性」というのは、その主張が論破される具体的な要件が明確に定義されているということです。要は、「これが証明できたら自分の主張を撤回してもいい」という条件を明確に提示することが「反証可能性」を示すことになります。例えば私が「お金の供給量を増やせば必ず物価が上がる」という主張をする場合、「お金の供給量をいくら増やしても物価が上がらない」とか、その反対に「お金の供給量をいくら減らしても物価が下がらない」ことが証明されると主張を撤回しなければいけないことになります。

このように、溢れる情報から相反する主張を拾った際には、その2つを一人ディベートでぶつけて反論、再反論を重ねることでどちらの情報が現時点では正しいかの判断が可能です。そして、これこそがノイズからシグナルを見分ける方法でもあります。

しかし、多くの人はこういった頭を使う作業をせず、「偉い人」や「頭のいい人」や「みんな」が言っていることは正しいとばかりに他人の考えを鵜吞みにしてしまうのです。そのことによってノイズは増幅され、シグナルはノイズに埋没して見えなくなってしまいます。大事なシグナルを見逃す人は、儲けも逃す。世の中は厳しい。

著者:上念 司

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