トラブルからの大逆転。apr GR86 GTがチームの地元で嬉しい表彰台獲得【第5戦鈴鹿GT300決勝】

 8月28日、三重県の鈴鹿サーキットで開催されたスーパーGT第5戦鈴鹿の決勝レース。この週末、チームにとって波乱だったapr GR86 GTが、予選21番手から見事な追い上げをみせ3位でチェッカーを受け、今季デビューしたGT300規定のトヨタGR86に初表彰台をもたらした。

 今季、GR86を作り上げGT300クラスに挑んできたaprの30号車apr GR86 GTは、カローラ三重の社長である永井宏明の地元である鈴鹿サーキットで行われた第3戦で初入賞。今回の第5戦も、多くの応援団が訪れる予定となっていた。

 そんな一戦を前に、永井が悔しい体調不良による欠場となってしまい。チームは急遽織戸学を第1ドライバーに据え、平良響を第2ドライバーに、そして「今週の木曜日に永井選手の代役に決まりました」という、昨年の第2戦富士以来のGT300参戦となった上村優太が第3ドライバーを務めることになった。

 永井に良いレース結果を報告するためにも気合が入るレースだったが、土曜午前の公式練習からトラブルに見舞われてしまう。「公式練習でミッションが壊れてしまって、スペアのミッションを積んだんだけど、ギア比やデフのセットなどが微妙に違って、シビアに動いてしまう。それで全然合わせられず、予選で前にいけなかった」と織戸が振り返るように、予選21番手と下位に沈んでしまった。

 このスタート位置に織戸はレース序盤に苦しんでしまう。「前に詰まってまったくペースを上げられなかった。そこで早めにピットに入ることにしました」と16周でのピットインを決断する。「タイヤもパフォーマンスは良く、僕たちのクルマとうまくパッケージできた」という状態だったが、第4戦のときにタイヤ無交換作戦を採り失敗していたことから、フルサービスで上村に交代した。

 GT300での2戦目のレースとなった上村だが、「公式練習でなるべく慣れていき、とにかく繋げられるように走りました」と2分02秒台のラップも記録するなど好ペースで走り、きっちりと任務を遂行。40周を終えピットインし、平良響に交代するが、このタイミングが絶妙。セーフティカーランとなる2周ほど前で、タイヤが温まり前を抜こうというところでセーフティカーとなった。

「『ピットイン義務を終えたクルマのなかで何位ですか?』と無線で聞いたんです。そうしたら、12〜13番手ということだったので、チャンスがあると思っていたんです。前でいなくなったクルマもいましたが、自力で5〜6台を抜けたと思います」という平良がセーフティカー明けで前が詰まったタイミングを活かした快走をみせ、62周目にmuta Racing GR86 GTをかわし5番手に浮上すると、65周目には埼玉トヨペットGB GR Supra GTもオーバーテイク。ついに表彰台圏内に入り、3位を獲得した。

2022スーパーGT第5戦鈴鹿 apr GR86 GT

■「永井さんに良い報告ができる」ドライバー3人も喜び

「自分としてちょっと悔しいのは、少し引っかかってしまったこと。ベテランドライバーの皆さんが本当にうまくて抜きづらかったんです。でも『やっぱり上手だな』と勉強になりました」とスーパーGT初表彰台となった平良は振り返った。

「公式練習でのトラブルは僕のせいだったので、予選でバランスが悪くなってしまった。そこから僕が追い上げ、3位表彰台を獲得できたので、恩返しができたというか、取り返せたと思います。永井さんにも良い報告ができるので、早く電話したいですね!」

 また、スーパー耐久やGTワールドチャレンジ・アジアで永井とコンビを組み続けてきた上村にとっても、参戦2戦目の初表彰台は格別なものになった。

「気持ち良かったですね。スーパーGTの表彰台はこんな眺めなのかと体験できました。それに永井さんは僕が苦しいときも支えてくださってここまで来られましたし、他のシリーズでもすごくお世話になっている方。まず最初に報告したいですね」と上村も喜びを語った。

 そして、予選順位が後方だったことに悔しさをみせながらも「永井さんが出られなかったのは悲しかった。本人がいちばん楽しみにしていたラウンドでしたからね。でも平良も上村もすごくやりやすいメンバーで、不安はまったくなかったです。とにかくチームの地元の鈴鹿で表彰台に立てて本当に嬉しい。平良がすごかったね」とJLOC時代の2016年以来となる表彰台に、織戸も喜びを隠さなかった。

 3人が一様に永井への感謝とともに喜びを伝えたいと語ったとともに、喜びを表していたのは、aprの金曽裕人代表。さらに金曽代表の喜びを増したのは、aprが製作したGR86の初表彰台になったとともに、シェイドレーシング GR86 GTが7位、muta Racing GR86 GTが8位と、GR86が3台ともポイントを獲得したことだった。

「ツキ、運は間違いなくありました。地元レースだけに、後押しがあったんだと思いますね。レースってそういうのがすごく面白い。あんなうしろから表彰台にいけるなんて誰も思わなかったですから」と金曽代表。

「我々が作ったクルマでいちばん先に表彰台に立てて良かったです。永井さんはちょっと悔しいかもしれませんが(苦笑)。ドライバーも良い仕事をしてくれた。GR86が3台ともポイントを獲れましたし、良かったです」

 次なるapr GR86 GTの目標は、もちろん永井自身がドライブしての表彰台。展開に恵まれたのは間違いないところだが、チャンスが来た時にその場をつかむポテンシャルがあることは十分示した表彰台と言えるだろう。

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