コロナに熱中症、出ずっぱりの救急隊員 コンビニ利用理解を、「サボり」ではなく健康管理に必須

横浜市消防局の救急隊員が着用している感染防止衣。どちらも長袖で、夏場に着用すると中は〝サウナ状態〟になるという

 新型コロナウイルスの感染拡大に熱中症の増加も重なり、救急搬送の出動回数が急増している。救急隊員が食事や休憩時間が取れない状態が続く中で、各自治体の消防は今夏、隊員がコンビニエンスストアに立ち寄って飲食物などを購入することへの理解を広げる取り組みを進めている。これまでは「サボっていると思われる」などとコンビニ利用を自粛することが多かったというが、隊員の健康管理のためにも避けられない判断だったようだ。

 「出動が連続した場合、救急隊員が食事を取る機会が十分に得られず、病院の売店等で飲食物を購入することがあります」 

 川崎市やさいたま市の消防局は7月下旬、それぞれのツイッターでコンビニなどでの飲食物の購入に理解を求める内容を投稿した。市民からも救急隊へのねぎらいや応援の声など、好意的な反応が返ってきているようだ。

 横浜市消防局では同月末、市病院協会の協力も得て、関係者に対して救急隊員が市内の病院のコンビニや自動販売機などでの飲食物購入に理解を求める通達を出した。

 市救急課によると、隊員のコンビニ利用を禁ずるルールはないが、これまでは「仕事をサボっているのでは」「ウイルスをまき散らしているのでは」といった批判や指摘を市民から受けることを恐れ、ほとんど利用することがなかったという。石黒靖雄課長は「隊員は朝から出ずっぱり。一度の活動でも相当なエネルギーを使う。水分、栄養補給なしには隊員の命も守れない」と打ち明ける。

 通常であれば隊員は消防署で昼食を取ることが多い。しかし、暑さが本格化した6月末以降、状況が一変した。出動件数は1日900件と例年の1.5倍に激増。救急車は6台増やして89台態勢で運用しているが、救急隊の到着に1時間近く要する場合もある。

 救急要請の増加で署に戻れなかったり、携行する飲料が尽きたりするケースが頻発。長袖で厚手の感染防止衣という重装備が、酷暑で活動する隊員たちの体力を奪っている。石黒課長はコンビニ利用について「患者の搬送後に消毒を行い、出動態勢は維持している。隊員の命を守るため、ご理解をいただきたい」と話した。

 ただ、横浜市消防局OBで、国士舘大で救急救命士の育成に携わる張替喜世一教授(救命現場学)は、横浜消防の通達が関係者向けにとどまり、交流サイト(SNS)で外部に発信されていないことを疑問視する。「市民からの批判を恐れて説明するのではなく、理解を得るためにしっかり説明することが重要。市民の理解が広がるよう、SNSを使った広報も必要だろう」と強調した。

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