カネミ油症・救済法成立10年 進まぬ3者協議、患者失望 支援団体「国は積極姿勢を」

カネミ油症患者団体(左)、国(正面)、カネミ倉庫(右)が出席した第19回3者協議。救済策の充実に関して目立った進展はない=6月、福岡市内

 長崎県などに多いカネミ油症被害者の救済法が2012年8月に超党派の議員立法で成立して、29日で丸10年。1968年の油症事件発覚以来、初めて実現した本格救済のための法律だったが、油症認定の基準は厳しいままで、医療補償なども十分でないなど、当初から多くの課題が指摘されていた。救済法に基づき定期開催している国、原因企業カネミ倉庫(北九州市)、患者団体の3者協議は救済策の充実に向けて目立った進展がなく、患者からは失望の声も聞かれる。
 「救済法の制定時、本当に救済につながるかどうか先が見えない中でのスタートだった。そして10年たってもまだ道半ば」。県内の女性患者(61)はこう話す。
 救済法には、油症患者の「特殊な健康被害や置かれている事情」を考慮して施策を進めると明記されている。だが女性は「抱えているさまざまな病気や問題に対応するための議論は(3者協議で)されていない」と不満を募らせる。
 救済法では、国が健康実態調査を毎年実施し、協力した認定患者に国とカネミ倉庫が生活支援金などとして合わせて年24万円を支給。また事件当時、一緒に食事をした家族の中に患者がいる場合、一定の条件を満たせば同居認定とするよう要件を緩和した。厚生労働省によると21年度までで全国の同居認定は339人。
 施策の実施状況を検証する3者協議は年2回開催。患者側は国とカネミ倉庫に▽認定につながる診断基準の見直し▽次世代被害者の救済▽安定的な医療費補償-などを要望してきた。油症の主因ダイオキシン類は母乳などを通じ子に移行する可能性が指摘されており、次世代については全国油症治療研究班が昨年、認定患者の子や孫の影響調査を始めた。
 一方、本県で昨年検診を受けた未認定者40人のうち、認定されたのは3人。全国でも本県を含む91人に対し、4人にとどまった。別の女性患者(73)は「(汚染油を)直接口にした未認定の人も多くが高齢になり、諦めムードもある」とため息をつく。
 認定患者の医療費は、国が政府米をカネミ倉庫に預け、その保管料で同社が間接的に支給する仕組み。患者側は救済法制定の運動を進めた当時、同社の経営状況によって支給が影響されないよう公的負担を強く求めたが、法案には盛り込まれなかった。救済策の拡充は3者協議に委ねられたが、入院時の食事代支給など患者側の各種要望に対し、国や同社は消極的姿勢に終始。患者側は油症の原因物質ポリ塩化ビフェニール(PCB)の製造企業カネカ(旧鐘淵化学工業)の協議参加も求めているが、同社は応じていない。
 カネミ油症被害者支援センター(東京)の大久保貞利共同代表は「同居認定導入など救済法の意義は大きかった」と指摘。その上で、「被害者に寄り添って救済していくという法の趣旨に沿った運用ができていない。国やカネミ倉庫はきちんと履行し、救済への積極的な姿勢を示してほしい」と強調する。


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