近づく中東初のカタールW杯、課題は小国を1カ月間に訪れる100万人以上の宿泊先の確保や飲酒問題   準備進み徐々に盛り上がる現地からリポート、「イスラムの文化を知る機会に」

サッカーW杯カタール大会のカウントダウン時計

 4年に1度のサッカーの祭典、ワールドカップ(W杯)が11月20日から約1カ月にわたり、中東のカタールで開かれる。中東やイスラム圏でのW杯の開催は初めて。現地では、世界的イベントを控え、各国から来る大勢の観客らの受け入れ準備が着々と進められている。カタール市民も徐々に盛り上がっており、「この国やイスラムの文化を知る機会になって」と期待する声が聞かれた。一方で、観客らの宿泊先や飲酒場所など複数の課題も見え始めている。開幕が近づく現地の様子をリポートする。(共同通信=吉田昌樹)

 ▽国家プロジェクトで地下鉄、道路網を整備

 首都ドーハには、超近代的な高層ビルがいくつも立ち並ぶ。モスク(イスラム教礼拝所)も多く、礼拝の時を告げるアザーンが街中に響く。市内のあちこちで、W杯やサッカーに関連した看板や広告が見られた。ただ、開幕まで約3カ月となった8月中旬は日中の気温が40度を超えて湿度も高く、街中を歩く人の姿はほとんどなかった。W杯は酷暑を避けて11~12月に開催される。

 カタールは国土面積が秋田県よりやや狭い小国だ。ペルシャ湾に突き出した半島国で、大部分は平たんな砂漠地帯となっている。人口は約293万人。アラブ人が40%で、労働力はインド人など外国人に依存する。石油や天然ガスが豊富で、日本にとっては液化天然ガス(LNG)の主要供給国だ。

カタールの地図

 カタール政府はW杯に向けた国家的プロジェクトとして、巨費を投じインフラ開発を推進してきた。ドーハの地下鉄は日本企業も関わって2019年に開業し、道路網も整備された。6年前からカタールで暮らすチュニジア人会社員マルワン・ヤヒヤウイさん(36)は街の変貌に驚きを隠さない。「全てが新しくなり、100%変わった」と話す。

 今回の大会は、試合が行われる全8競技場がドーハを中心に半径40キロ内に収まるコンパクトさが特徴だ。大会組織委員会によると、競技場は全て完成した。昨年11~12月のアラブ・カップの開催も含め、W杯に向けたテストも既に複数回行ったという。

 

取材に応じるルサイル競技場のプロジェクト責任者タミム・アベド氏

7競技場が新設で、唯一改修されたのは日本代表が1次リーグで2試合を行うハリファ国際競技場。8月中旬に訪れると、競技場内で作業員が保守点検作業を行っていた。決勝戦の会場となるルサイル競技場では初めての公式戦として、カタール国内リーグの試合が8月に行われた。ルサイル競技場のプロジェクト責任者タミム・アベド氏は「準備は万全だ」と胸を張る。

 ▽「中東と他地域をつなぐ機会に」

 ドーハやその周辺には巨大ショッピングモールも数多くオープンしている。買い物中のカタール人女性ファトマさん(45)は、サッカー好きの息子と一緒に「観戦に行きたい」と笑顔で話した。イスラム圏には女性のスポーツ観戦を制限する国もあるが、カタールでは以前から観戦できるという。ファトマさんは「カタールにとって素晴らしい大会になる」とも語った。

 カタールは2017年にサウジアラビアなどアラブ4カ国から一方的に断交された。ただ、約3年半後に和解しており、ドーハではサウジ人観光客らの姿も見られた。4カ国の一つ、バーレーンから訪れたジャラル・サワディさん(50)は「W杯は(湾岸)地域全体に良い影響を与える」と期待感を示す

サッカーW杯のトロフィーが描かれたカタール・ドーハのビル

 大会組織委員会の広報責任者、ファトマ・ヌアイミ氏も、中東初のW杯に向けて「アラブ地域全体が興奮している」と話す。今回のW杯は中東と他の地域をつなぎ、文化のギャップを埋める絶好の機会になると意気込みを語った。「アラブのもてなしの文化を多くの人に見てほしい」ともアピールした。

 ▽コロナ、観客輸送、文化間摩擦への懸念も

 一方で、いくつかの課題も指摘されている。一つは新型コロナウイルス対策だ。カタールでは8月下旬時点で、新型コロナ対策システムへのオンライン登録が市民や外国人訪問者にも義務付けられている。公共施設や地下鉄、モールなどに入る際には専用の携帯アプリを提示して「感染していない」と示す必要もある。大会組織委員会によると、W杯中のコロナ対策の詳細については追って発表予定という。ただ、コロナを理由とした競技場の観客数制限は設けられない予定だ。

 

1次リーグで日本代表の試合が行われるハリファ国際競技場(右)周辺

他に心配されているのは、世界中から詰めかける観客らの輸送や宿泊先の確保。約1カ月間に100万人以上が小国カタールを訪れると見込まれており、大会中はサウジアラビアなど近隣国から航空便を増やして観客のシャトル輸送を実施する予定だ。大会組織委員会のヌアイミ氏は、宿泊先については「ホテルやサービスアパートなどのほか、クルーズ船もある」と語り、確保に自信を示した。輸送も含め準備は整っているとし、危機管理計画も用意済みだと強調した。

取材に応じるサッカーW杯カタール大会組織委員会の広報責任者ファトマ・ヌアイミ氏=ドーハ

 また、文化の違いから、飲酒などを巡り外国人客と地元の人たちとの間で摩擦やいざこざが生じるのではないかと懸念する声もある。カタール人はほぼイスラム教徒。公共の場での飲酒は禁止され、アルコールは認可を受けた一部ホテルなどでのみ提供されている。大会組織委員会によると、W杯中については「指定エリア」でファンらの飲酒が可能になるという。

サッカーのカタール代表選手が描かれたビル

 ドーハ近郊のショッピングモールに買い物に来ていた現地人のサクル・ムリヒさん(57)は、W杯について「カタールを知ってもらう良い機会」と述べる一方、「訪問客にはイスラムの文化を尊重してほしい」と求めた。

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