日本の物価は上がっているのか? 体感するインフレと経済指標に大きな乖離がある理由

連日のように値上げの報道がされています。新聞やネットでニュースを見ても「インフレ」という言葉をよく目にしますし、実際に買い物に行くと肉や魚だけでなく、調味料やお菓子などあらゆるモノの値段が上がっていることを実感します。足元のインフレの要因はすでに多くの解説記事が存在していますから、この記事では「日本の物価は上がっているのか?」という点について深堀りしていきたいと思います。


価格と物価の違い

まず、日本の物価は上がっているのかを考えるにあたって、価格と物価の違いを理解しておかないといけません。同じ意味のように感じるかもしれませんが、少なくとも経済の世界においては明確に使い分ける必要があります。価格とは「リンゴが1個100円」のような、いわゆるモノやサービスの個別の値段を指しています。一方で、物価とは様々なモノやサービスの価格の集まりを指します。冒頭のように、数あるモノを思い浮かべたときに、肉も魚も調味料も価格が上がっているなと感じたときに、物価が上昇しているな、と感じるわけです。そして、上昇しているなと感じた際に、どれぐらい上昇したのかを表すために、前の年の同じ月と比べてどれぐらい上昇しているかという変化率を用います。

物価が上昇しているかどうかを確認する際に一般的に用いられるのは、総務省が毎月一回発表している消費者物価指数です。消費者物価指数は世帯が購入するモノやサービスのうち、世帯の消費支出上一定の割合を占める重要なものを品目として選びます。次に、この家計消費支出割合に基づいて指数の計算に用いる各品目のウエイトを求めます。ちなみに、現在算出に用いられている品目の数は582品目になります。

3つの消費者物価指数

消費者物価指数が発表されると3種類の指標に注目が集まります。全体の値動きを表す「総合」と「生鮮食品を除く総合」、「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」です。なぜ生鮮食品を除くかというと、天候要因などで生鮮食品の価格は大きく変動してしまうからです。エネルギーを除く理由も同じようなもので、戦争やテロなど海外要因や投機資金の流出入によって大きく変動するエネルギーの影響も取り除くことで、価格ではなく物価の趨勢を正確に捉えることができるのです。

それでは実際のデータを見てみましょう。執筆時点で最新データとなる2022年6月分のデータは以下のとおりです。

「総合」:前年同月比+2.4%
「生鮮食品を除く総合」:同+2.2%
「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」:同+1.0%

この3つのデータから分かることは、現在のインフレの主な要因はエネルギー価格の高騰であること。そして、私たちが購入するモノやサービスの価格は上昇している品目が多いものの、「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」が前年同月比+1.0%ということを考えると、依然として物価の趨勢はそれほど強い上昇傾向にはないといえるでしょう。

良いインフレと悪いインフレ

連日のように報道されるインフレについてニュースを見ていると、「良いインフレ」と「悪いインフレ」という表現を目にすることがあるかと思います。インフレに良いも悪いもあるのか、と疑問に思われた方もいるかもしれません。

景気が良くて日本経済が成長し、企業も増収増益。その結果、国民の賃金も上昇し、多くの国民が欲しいものを買う。需要がどんどん旺盛になり、供給が追い付かなくなると物価が上昇します。これがいわゆる「良いインフレ」です。

一方で、別に景気も企業の業績も良いわけではなく、国民の賃金も上がっていないのに、原油や天然ガスなどエネルギー価格が高騰することで物価が上昇するような状態は「悪いインフレ」といえます。今の日本は後者の状態にあるといえるでしょう。

悪いインフレの場合は水道光熱費や食料品など生活に欠かせない品目の価格が上昇するにも関わらず、賃金は上昇していないわけですから、家計はダメージを受けてしまいます。この場合は政府が減税をしたり、給付金を配ったりするなど、いわゆる財政政策によって家計の消費を下支えし続けないと本格的な不況に陥ることが懸念されます。

体感するインフレと経済指標の乖離

ここまで(1)物価と価格の違い、(2)日本の物価の趨勢はそれほど強い上昇傾向にはないこと、3良いインフレと悪いインフレの違いという3点について学んできました。とはいえ、日常生活を通じて体感するのは経済指標で表現されている前年同月比+2%程度の物価上昇ではなく、10%近いインフレかと思います。なぜ、体感するインフレと経済指標の間に大きな乖離が生じているのでしょうか。これは価格と物価の違いを理解すれば分かるでしょう。10%近く値上がりしている品目はいくつもあり、それらの価格上昇率を私たちは体感としてのインフレと認識しており、一方で消費者物価指数は前述の通り、あくまで「物価」の変動率を表しているから、ということになります。

また、逆のケースも存在します。たとえば、消費者物価指数の算出に用いる582品目を1つずつみていると、「この品目はこんなに価格が上昇していたか?」と思うこともあります。消費者物価指数の場合、価格調査する品目は決まっているため、たとえば牛乳という品目であっても、どのメーカーのどの容量の牛乳の価格を用いるかということが決められているため、調査対象ではない商品が値上がりしていなくても、調査対象の商品が値上がりすると、その品目は値上がりしたとみなされるのです。最近ではネットで一番安いものを選んで買ったり、メルカリなど中古品を買ったりする人も多く、その際の購入価格までは正確に追跡調査できませんから、発表される経済指標よりも実感した価格上昇率の方が低く感じるという逆の乖離が表れるケースも存在するのです。

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