サーカス演目「葛の葉」継承へ 団員藤村さん 書道学び感覚鍛える

障子を足で支える下地さんとともに「葛の葉」の練習に取り組む藤村さん。最高の演技で伝統芸の再開を目指す=27日

 岡山市で開催中の木下大サーカス岡山公演に出演する藤村祐子さん(36)が、1902(明治35)年の創業間もない頃から続く代表的な伝統芸「葛(くず)の葉」の継承に取り組んでいる。歌舞伎や浄瑠璃で有名な悲恋物語を題材にした芸は独特の魅力で人気も高いが、演じ手の別の女性が今年5月に退団し現在は休止中。創業120年の節目となる今年、藤村さんは「木下の歴史を感じてもらえる演技を披露したい」と再開に向け練習に熱を入れている。

 葛の葉は、命の恩人に思いを寄せた白狐(きつね)が恋人の「葛の葉姫」に化身して結婚し男の子を産んだが、本物の葛の葉姫が現れ、障子に歌を書き残して去る―という物語。サーカスでは、あおむけの男性が両足で支える障子に着物姿の女性が乗り、毛筆を右手、口、左手と持ち替えながら、障子紙に歌を墨書する。最後は狐をイメージした白い衣装に一瞬で着替える。

 2013年入団の藤村さんはこれまで、天井からつり下がるロープを使ったアクロバット芸やダンスなどを担当。同期の村木仁美さんが演じる葛の葉を見て、着物姿での優雅な演技や流れるような筆さばき、別れの悲しみを伝える絶妙な間などに胸を打たれた。

 「最初は動きに乏しく地味に見えたが、静かな演技の中に美しさが満ちていた。サーカスの新たな魅力を発見した」と振り返る。

 「自分も演じてみたい」と19年春から1年間、書道教室に通い、筆遣いの基礎を学んだ。その後、障子を支える下地和也さん(44)らの指導で本格的に練習。揺れやすい障子の上で筆を自在に扱えるまでバランス感覚を鍛えた。

 葛の葉は白狐の悲恋を情緒豊かに伝えるための演技力が求められ、数ある演目の中でも上演が許されるまでの壁は高い。完成に近い状態だが、納得できるレベルまであと一歩という。

 村木さんが出産で退団してから休止中の葛の葉を岡山公演で再開するのが今の目標。藤村さんは「伝統を背負う責任は重いが、それにも増して心奪われた芸を極めたい気持ちが強い。物語の深い世界観を観客の皆さんとも共有したい」と話している。

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