80年代の不倫ドラマ「金曜日の妻たちへ」あの頃とは違う “今のせつなさ”  ハイソなエリアに変貌した神奈川県の田園都市線エリア。きっかけは金妻?

きっかけは「金妻」? ハイソなエリアに変貌した神奈川県の田園都市線エリア

渋谷駅と中央林間駅を結ぶ東急田園都市線。ありふれた新興住宅地でしかなかった神奈川県の田園都市線エリアは、1983年から85年に放映された『金曜日の妻たちへ』シリーズ3作によって、ハイソなエリアに変貌した。

物語の舞台は、たまプラーザ、つくし野、中央林間など、東急電鉄が開発を手がけた多摩田園都市。どの街もこぎれいな並木道があり、同じような戸建て住宅がずらっと並ぶ。3作とも数組の夫婦が登場し、テラスでホームパーティーやお茶会をする場面が頻繁に描かれる。一見優雅なのに、その中で繰り広げられるのはご近所不倫だ。

ご近所不倫なんて、いかにもジトッと湿り気を帯びそうだが、田園都市線お洒落タウンが舞台になると、一気に除湿が進んでサラリと乾いていく(ような気になる)。“よろめき” なんて呼ばれ、ジトッと描かれていた主婦の不倫ドラマは、“金妻” によって大きく変わった。

3シリーズある「金曜日の妻たちへ」

3作それぞれの特色を振り返ってみたい。

1作目の中心は、古谷一行といしだあゆみの夫婦。主題歌は、彼らの青春時代の曲、ピーター・ポール&マリーの「風に吹かれて」。念願のマイホームを手に入れ、家庭もうまくいっているのに、心が “すきま風に吹かれて” ということか、古谷は近所に住む小川知子と関係を持ってしまう。

2作目のヒロインは、高橋恵子。近所に引っ越してきた元カレの小西博之と再会し、ご近所不倫に走るという焼けぼっくい系だ。だが、この組み合わせ、どうにも解せなかった。高橋恵子(関根恵子と呼びたくなる)といえば、舞台をすっぽかした “愛の逃避行” 事件など、いろいろあった “魔性の女”。

なのに、不倫相手は欽ちゃんバンドのドラマー、コニタン。魔性の女とコニタン。ないだろう、これは。主題歌の「パラダイス~愛のテーマ」(映画「フットルース」の挿入歌でもある)もしっくりハマらず、上滑り感がぬぐえない。

金妻といえば、3作目が印象に残っている人が多いのでは。古谷一行といしだあゆみが、またもや登場。といっても、ここでは夫婦でなく婚外カップル。古谷は、妻の学生時代の友人で、元カノでもあるいしだと恋に落ちる。これも焼けぼっくい系だが、2作目よりは説得力ある大人カップルが、視聴者を酔わせてくれる。

小林明子「恋におちて」シリーズ中唯一のオリジナル曲

そして3作目の主題歌は、言わずもがなの「恋におちて - Fall in love -」。3シリーズの中で、唯一のオリジナル曲は、歌詞でしっかり不倫をにおわせる。

 もしも願いが叶うなら  吐息を白いバラに変えて

って、なんだか健気だ。ほんとうの願いは、「土曜の夜と日曜の貴方がいつも欲しい」ってことなのに、口に出せないのね… と、当時高校生だった私はその気持ちを想像し、勝手にせつなくなっていた。

金妻夫婦の今は…

金妻後、田園都市線の住民は増え続け、通勤時間帯の電車内は満員があたり前となった。コロナウイルス禍になる前の混雑率は、私鉄ワースト1。駅周辺の再開発を進めているせいか、駅近マンションの人気は衰えないらしい。その反面、駅から離れ、戸建て住宅が並ぶかつての金妻エリアは、高齢化が進んでいるという。

今、金妻夫婦たちはどうしているだろう。団塊の世代の彼らは、すでに70代。駅から遠いマイホーム、街には坂道や階段が多く、老夫婦には不便きわまりないのでは。雨風にさらされるテラスを維持するのも大変だ。核家族ばかりのドラマだったせいか、彼らが息子や娘夫婦とあの家で暮らす今が想像できない。それに、息子・娘世代は、駅近マンションを好むのではないか。

家のローンは払い終わっただろうか。この時代、満足な額の年金も出ないだろう。夫たちは70代になった今も、金妻たちに見送られて、バスを乗り継いで田園都市線で都心まで通勤しているのだろうか。いや、すでにあの家は手放しているかも…。そんな想像をすると、あの頃とは別のせつなさがこみあげてくる。

※2019年4月28日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 平マリアンヌ

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