危機をチャンスに変えた星野リゾートの戦略とは?過去の経済危機から見える法則性

経済危機が去った後には景気回復が続き、そこにはビジネスチャンスが生まれます。この経済の流れは、どのような周期で訪れるのでしょうか?

そこで、経済評論家・上念 司( @smith796000 )氏の著書『誰も教えてくれなかった 金持ちになるための濃ゆい理論』(扶桑社)より、一部を抜粋・編集して経済サイクルについて解説します。


逆張りでピンチをチャンスに

世の中全体がピンチの時はむしろチャンスです。成功した人はみんなそう言います。

しかし、実際には世の中と一緒に自分もピンチになってしまう人が大多数です。例えば、バブル崩壊やリーマンショックの時に、損した人のほうが得した人よりも圧倒的に多かった。大多数はあんな経済ショックが一気に来るとは予想していなかったのです。

みんながピンチの時に、自分もピンチになっていたら、ビジネスでの成功は覚束ない。みんなが慌てふためいている時こそ、あなたは逆にドーンとリスクを取って、大きく飛躍するべきです。これが世にいう「逆張り」というやつです。

格闘技において、相手のカウンターを取る技は効果てきめんです。なぜなら、自分が攻撃する力と相手が向かってくる力が合計されて威力が倍増するからです。ビジネスにおいても、経済危機で周りが下がっていく中で、自分一人が上がっていけたらまさに成功も2倍。実際にソフトバンクや楽天などの企業は、日本がデフレに陥って以降に伸びてきた会社です。競合他社が経済危機に恐れおののいてリスクが取れない時に、敢えてリスクを取ってきたのがこれらの会社と言えるでしょう。まさに「ナイトの不確実性」における、真の不確実性へのチャレンジでした。まさか、ソフトバンクと楽天が携帯電話会社になるなど、1990年代には全く想像できませんでした。

コロナショックすらチャンスに変えた星野リゾート

現在、世界経済の大きな重石になっているコロナショックですら、チャンスに変えている人たちがいます。例えば、全滅したかに思えた旅行業界において、目立っているのが星野リゾートです。

皆さんは「ワーケーション」という言葉をご存知でしょうか? ワーケーションとは労働(ワーク)と休暇(バケーション)を組み合わせた造語です。大まかなイメージは主に観光地やリゾート地でリモートワークしながら、同時に休暇も楽しむことです。職住近接ならぬ、「職遊近接」。まだふわっとした定義しかありませんが、「働きながら休暇をとる過ごし方」の総称として定着しつつあります。新型コロナウイルスのパンデミックによって、リモートワークできる人はなるべく会社に来ないという働き方が定着しました。これまでのような出社が主で、在宅勤務が従という考え方は根本的に変わりました。そして、後戻りも難しいのではないかと思います。

星野リゾートはワーケーションに目を付け、おそらく最初にワーケーションのインフラを提供するホテルとして大々的に宣伝を開始しました。公式ホームページには次のように書いてあります。

新たな生活様式の中で注目が集まる「ワーケーション」。リゾートホテルや温泉旅館、大自然に囲まれた非日常の空間から都市型ホテルまで、さまざまな施設を運営する星野リゾートでは、それぞれのフィールドを活かしたワーケーションの楽しみ方を提案します。共通するのは、仕事に集中できる環境をしっかり整えることと仕事から解放され、リフレッシュできるリゾート時間を提供することです。1泊での利用はもちろん、テレワークが一般化した今だからこそ、3泊、5泊と連泊をして日中は仕事、夜はリゾートという滞在を楽しんではいかがでしょうか。星野リゾートでは連泊でお得に宿泊できる割引プラン、さらに心地よいワークスペースや、気分転換に最適な食やアクティビティを用意しています。それぞれの施設で様々な個性豊かな滞在を楽しめます。仕事にも集中でき、リゾートも満喫できる旅を紹介します。
参考:【星野リゾート】ワークを充実、バケーションを満喫! 連泊滞在でお得に 星野リゾートの「ワーケーション」 星野リゾート公式HP(2020年7月31日) https://www.hoshinoresorts.com/information/release/2020/07/98030.html

例えば、「憧れのリモート書斎プラン:星野リゾート OMO7旭川」というプランの場合、通常15泊は12万円以上かかりますが、この宿泊プランの場合4万5000円〜とかなりお得です。「まるで旭川に書斎ができたような感覚で、OMO7旭川で仕事に集中してもよし、テレワークをしながら休日は地域の観光をしてもよし」だそうです。星野リゾート・星野佳路代表は2020年7月28日放送の『直撃LIVE グッディ!』(フジテレビ)にて次のように述べています。

クールビズというのが出てきた時も、同じような議論があったと思いますが、だんだんネクタイをしている方が減ってきています。このワーケーションも、実はコロナ期の前から少しずつ増え始めていて、これがきっかけになって一気に観光地・リゾート地側で環境をしっかり整備されてくると、私はじわじわ増えていくと思っています。コロナの時期にテレワークが出勤として認められるという大変革が、コロナ後についても観光には大きなインパクトを与える一つになると思っています。
仕事しながらバカンス?政府推奨「ワーケーション」って何?コロナ禍での働き方を星野リゾート星野佳路代表に聞く! FNNプライムオンライン(2020年7月28日) https://www.fnn.jp/articles/-/67711

コロナショックの渦中に住宅メーカー起業

コロナショックをピンチではなく、時代の変化と捉えて、さらにその先を行こうとする姿勢が見て取れます。こういう経営者は星野氏に限らず至る所にいます。

例えば、星野氏がリゾートホテルでやっていることをそのまま自宅で実現するプロジェクトがあります。vacancesの岡崎富夢社長はまだ40代の若い経営者ですが、「家はご飯を食べてテレビを見てお風呂に入って寝るための箱ではあってはならない」というコンセプトの下、自宅でワーケーションできる新しいタイプの住宅を提供しています。

2Fのルーフバルコニーを最大限に活用し、スカイバス、シアター、BBQスペースにリビングスペースなどを組み合わせた新しいタイプの住宅です。さらに、遊びだけでなく仕事でも使えるビジネス用ブース(ネット会議用のインフラと「白バック」完備)も組み込まれています。例えば、マリンスポーツを楽しむ人なら、この家を郊外の海の近くに建てて、早朝はサーフィン、9時から仕事、夕方からはバーベキューといった使い方も可能とのことでした(実を言うと、私はこの会社の顧問を務めています。普段から尖ったことを言っていると、面白いプロジェクトに誘われたりするものです)。

コロナショックでGDPが3割減ったと大騒ぎしているタイミングで、住宅メーカーを起業するなんて普通に考えたら正気の沙汰ではないですよね。でも岡崎氏にはビジョンがあります。彼は典型的なビジョナリー、見えちゃう人なんです。事情を知らない人が傍から見ていると単なる逆張りにしか見えませんが、彼にはビジョンがあるわけです。だから、勘違いしないでください。何でもかんでも逆張りすれば成功するわけではありません。

危機の後にはチャンスがある

とはいえ、未来をいくら正しく予想しても、投資のタイミングを間違えれば失敗します。経済全体が上昇基調にある時に合わせて新しいビジネスを展開できれば、細かいところで失敗しても何となくカバーされるし、反対にいくらいいビジネスでも経済全体が下降線の時に始めれば全く別の理由で失敗します。危機の後にはチャンスがあり、チャンスの後には危機がある。そのサイクルを見抜けば儲ける確率は各段に上がります。そして、その流れを摑むために、経済学の知見が使えます。次の年表を見てください。

1973年 第一次石油危機
1986年 円高不況
1991年 バブル崩壊
2000年 ITバブル崩壊
2008年 リーマンショック
2020年 コロナショック

この年表は日本が変動相場制に移行してから発生した大きな経済危機を並べたものです。日本はかつて1ドル360円の固定相場制を採用していましたが、1973年から現在と同じく、時々刻々と為替レートが変化する変動相場制に移行しました。

移行したその年に第一次石油危機が起こり、日本経済は大変な混乱に陥りました。第四次中東戦争勃発で原油価格が高騰し、資源を海外に依存していた日本経済が大打撃を受けたのです。しかし、実際に起こったことは景気の後退を心配するあまり、お金を刷りすぎて激しいインフレを招いたという経済失政でした。トイレットペーパーがなくなるというデマがテレビや新聞で拡散されてパニックが起こったことはむしろオマケです。戦争そのものは早期に停戦となり、原油価格も翌年には落ち着いていたからです。

1979年にはイラン革命をキッカケとした第二次石油危機がありましたが、この時政府と日銀は前回の反省を生かして、むしろ金融引締めを行い、需要を抑制することでパニックを防ぎました。原油が入ってこなくなれば原料や燃料が前よりもたくさん使えなくなります。つまり、石油危機の前に比べて、モノの生産がやりにくくなり、生産量が減ります。この時、生産量の減少に合わせて、人々がモノを買う意欲をなくせば経済はうまくバランスすることになります。第二次石油危機の時、政府及び日銀は人々の購買意欲を冷ますように金融引締め(利上げ)を行い、需要を抑制しました。これが大成功だったわけです。

ちなみに、アメリカは第一次、第二次いずれも日本とは対照的に金融緩和をやりすぎて大失敗しています。特に第二次石油危機の時、アメリカ政府及びFRBは当初日本と同じように引締めをしていたのに、途中で景気の腰折れを恐れて早々に引締めをやめてしまったのです。これが早すぎでした。モノの生産量が大して増えてもいないのに、お金ばかり増えてしまったらモノの値段が急激に上昇して経済に歪みが生じます。第一次石油危機の時にまさにそれが起こったにもかかわらず、アメリカは反省が足らず、同じ過ちを二度繰り返してしまったのです。

この石油危機のパターンはすべての経済危機に当てはまります。何らかの危機が発生すると政府と中央銀行はそれに対する対策を行います。その対策とは具体的にはお金の量を増減させることです。石油危機においては、原油価格の高騰でモノが作れなくなる危機だったのでお金の量が絞られました。これに対して、その次に起こった円高不況ではモノを作る能力は余っているのに円高による輸出不振でモノが売れなくなって危機が起こっています。こういう時はお金をたくさん刷って配り、余ったモノを買ってもらえばいいわけです。1986年の円高不況対策として、日銀は史上空前の低金利政策を導入しました。その結果、翌年からバブル景気が始まりました。

要するに経済危機が起こると政府と中央銀行が何らかの対策を講じ危機は去ります。時にはその対策が過剰になって、危機が去った後にバブル景気が発生したこともあります。危機はある日突然起こりますが、対策さえちゃんとやればその後息の長い景気の回復が続く。1973年の変動相場制移行からこちら、ずっとこのようなサイクルが続いてきました。

経済サイクルは10年周期

では、そのサイクルは何年周期か? 実際の経済政策の決定過程においては、過去の事例がそのまま当てはまらないし、似たような事象でも結果が異なったりすることがあります。とはいえ、経済危機が発生するタイミングをもっと大雑把に遠くから眺めてみると、そこにある法則性を無理やり見出すことができそうな気がします。各回の事情は横に置いて、単に発生したタイミングだけをざっくり見てください(日本は第二次石油危機でほとんどダメージを受けなかったので年表からは外してあります)。

1973年 第一次石油危機
(13年)
1986年 円高不況
(5年)
1991年 バブル崩壊
(9年)
2000年 ITバブル崩壊
(8年)
2008年 リーマンショック
(12年)
2020年 コロナショック

危機から危機までの期間は、最短で5年、最長で13年です。単純平均で9.4年。憶えやすいのでざっくり10年としましょう。ある経済危機が発生すると、その後10年ぐらいは回復基調が続きます。しかし、それは永遠に続くことはありません。10年ぐらい経つと再び経済危機が起こる。変動相場制に移行してからずっとこのサイクルで日本経済は回ってきました。

もしあなたが新しくビジネスを始めるなら、世の中が回復基調にある時にやったほうがいいと思いませんか? いや、むしろ回復基調になった時に始めるのでは遅くて、危機に陥っている時に始めておいたほうがいいぐらいです。

著者:上念 司

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